投稿日:2025年10月21日

飲食店が“おいしさの再現”に失敗する最大の理由と改善ステップ

はじめに:製造業の現場から見る“おいしさの再現”とは

“おいしさの再現”という言葉は、一見すると飲食業界だけの課題と思われがちです。
しかし、私が20年以上携わってきた製造業の調達購買や生産管理、品質管理の現場でも、「再現性」というキーワードは常に重視されてきました。
製造現場で培ったノウハウや発想を活用することで、飲食店の“おいしさの再現”にも新たな地平が開けると確信しています。

本記事では、飲食店がなぜ“おいしさの再現”に失敗してしまうのか、その根本理由に私の現場経験から斬り込みます。
さらに、アナログ志向が根強く残る現場でも役立つ改善ステップを、製造業の視点を交えて実践的に解説します。

“おいしさの再現”が求められる理由

顧客は“期待した味”を求めている

飲食店では、初めての来店で感動を与えた味を、リピート客にも再度体験してもらうことが大前提となります。
「前と同じ味だ」と感じてもらえることが、信頼やブランド価値、さらには店舗の収益を支える鍵となるのです。
これは、工業製品なら「均質な品質」と同意語となります。

1店舗でもチェーン展開でも“ばらつき”は命取り

特に多店舗展開している場合、味のブレは致命的となります。
現場ごとに微妙に違う仕上がりや、“今日のコック次第で味が変わる”といった事態は、お客様のロイヤルティ低下に直結します。
この課題を乗り越えるためにも、“再現性”の追求は避けて通れません。

製造現場で学んだ「再現性を阻む最大の壁」

標準化の不徹底が最大の敵

私が製造業でさまざまな工程の改善指導に関わる中で、再現性が失敗する最大の要因は「標準(ルール)」の不徹底にあると痛感しています。
レシピ=図面、作業手順書=製造マニュアルと置き換えて考えると分かりやすいでしょう。

「分かっていること」「経験でやれること」が現場に蔓延し、紙に書かれたマニュアルが絵に描いた餅になっているケース。
新入りスタッフやパートさんが“手加減”や“長年の勘”に頼らざるを得ない現場。
まさに昭和のアナログ文化が息づいている典型例です。

情報共有・伝達不足がさらなる“ムラ”を生む

例えば、原材料の入荷時点での品質や規格差が日々異なる場合、どこでどう調整しているか現場任せになっていませんか。
また、ベテラン調理人が“目分量”や“勘”で加減している場合、そのノウハウが引き継がれていなければ再現性は生まれません。
理由や背景が説明されず「とにかくこの通りやれ」では、仕事の属人化が進み、安定した品質への道は遠のきます。

評価・フィードバックの仕組みが弱い

出来上がった料理の味を「おいしいか、おいしくないか」だけで判断していませんか。
具体的にどの工程でどんな変化があったのか、どう改善すれば再発防止できるのかを分析・共有しないことが“再現失敗の連鎖”を招いています。

なぜ“昭和的”アナログ飲食現場では改善が進まないのか

“こだわり”と“自信”が標準化を拒む

「ウチの味はオーナーシェフの経験とセンスに支えられている」
「レシピなどなくても、うちのスタッフなら味を再現できる」
このようなこだわりや自信は一見美徳ですが、本質的には属人性の温床となり、“再現性”を妨げる壁になっています。
全く同じ味を出す必要はなくても、“誰がやっても、ほぼ同じレベル”を目指さなければ、ビジネスの持続化は難しくなります。

教育・OJTに依存しすぎている

紙のレシピはあるものの、「見て覚えてもらう」「一緒にやって身につけてもらう」OJT頼みの現場も多いです。
特にベテランが一声かければその場で解決できるアナログな組織では、裏を返すと「ベテランが抜ければ即崩壊する構造」となりがちです。

計測・分析ツールの未整備

製造業では「温度、湿度、時間、分量」など、すべて数値で管理し標準偏差を抑えるのが鉄則です。
飲食現場でも、例えば温度計や重量計、データロガーといったシンプルなツールをうまく使いこなしている店舗は、未だに多くありません。
「大体こんなもんだよ」で済ましてしまう土壌がある限り、安定再現は生まれません。

“おいしさの再現”を実現する実践的な改善ステップ

1. 標準(レシピ&手順)の“定義”と“言語化”

まずは現行のレシピや調理手順を漏れなく書き出し、現場スタッフ全員が理解し合意できる“共通言語”に落とし込むことが第一歩です。
温度、時間、材料のロットによる微細な差異など、数字で書けることはすべて数値化しましょう。
「ひとつまみ」「適量」「うっすら焦げ目」「いい感じ」など、曖昧な表現はNGです。

2. 記録とフィードバックの徹底

毎回の調理工程で「どの手順を、どれくらいの時間、どんな条件で」行なったか、シンプルなチェックリストや記録表を作成。
結果の良し悪しだけでなく、プロセスと結果の因果関係も記録しましょう。
現場ミーティングで「どこで誤差が出たか」「何を変えたらどうなったか」を必ず共有。
これは製造業でいうQC活動や日報・ヒヤリハット報告にあたります。

3. トライアル&分析でブラッシュアップ

一定期間記録したデータから、工程ごとのばらつきや失敗ポイントを抽出します。
気温や湿度によって大きくブレる工程があれば、対策ツールを投入したり、前後工程を調整するなど、現場スタッフ巻き込み型で改善できる文化を醸成しましょう。
自己流から抜け出し、「なぜこの工程で失敗が生じたのか」を数字で語り合う習慣ができれば、属人的な勘や経験に頼らずとも再現度はぐっと高まります。

4. 教育・OJTの“メニュー化”

新人や短期スタッフにもすぐに実践できるよう、動画や写真入りのマニュアルを作る、研修カリキュラムを設ける、など教育資産の“見える化”を徹底しましょう。
“なぜこうするか”という意味付け解説つきで浸透させることがコツです。
これも、工場の作業標準教育やワークショップ形式での実演指導と同じ発想となります。

5. ローテクとハイテクの“いいとこ取り”

最先端機器やIoTツールを使わなくても、例えばデジタルスケールや温度ロガー、QRコードとスマホの活用など、現場の感覚を残しつつも数値根拠を重視する取り組みが有効です。
デジタル化・データ共有は難しいことではありません。
エクセルやLINEグループレベルでも充分機能します。
“おいしさの現場力”と“データ管理力”を両立させることが、強い店舗運営のカギとなるのです。

バイヤーやサプライヤーにも直結する“再現性”視点

バイヤー志望者が身につけるべき視点

仕入れ先の選定や新メニュー開発には、安定供給や品質再現性が不可欠です。
調達購買の現場では、単なる価格交渉だけでなく、「どう安定して狙った品質が保てるか」という現場目線でのヒアリング力がバイヤーの実力差を分けます。
そのためにも、上記の現場改善手法やデータに強いことが、必須スキルとなってきています。

サプライヤーが知るべき“バイヤーの要求”

サプライヤー(原材料、調味料、加工食材供給業者等)の立場からも、「納入品のバラツキは現場でどのように調整されているか」「最終調理後の味ブレはどこから来ているのか」といった現場の痛点や再現性課題にアンテナを張りましょう。
「うちの原料なら大丈夫」ではなく、「この製品の再現を本当に継続できているのか」をお客様と一緒に考える――製造業のサプライチェーン品質保証で最も重視される姿勢です。

まとめ:再現性を制す者が安定成長を手にする

飲食店の“おいしさの再現”に失敗する最大の理由は、標準化・記録・分析・教育という基本サイクルが現場で形骸化しがちなからです。
昭和のアナログ現場であっても、小規模な取り組みからでも改善は必ず可能です。
製造業で磨いた「現場起点の標準化・再現性追求」の手法は、飲食業でも強力な武器となります。

調達購買のバイヤーも、サプライヤーも、「再現性×現場目線」の発想を持てば、製造業的ロジックで飲食業の生産性や品質も飛躍的に高められるのです。
安定成長を目指すすべての現場に、この実践的なアプローチが広がることを心より願っています。

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