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教育制度を整えたのに若手が辞めていく製造現場の実態

目次
はじめに ─― 若手離職の波、その本質を見極める
近年、大手製造業をはじめとする多くの工場で「教育制度を整えても若手が長続きしない」という声を頻繁に聞くようになりました。
一方で、「きちんと教育して育てているのになぜ辞めてしまうのか」と現場責任者が頭を抱える光景も珍しくありません。
この現象は単なる時代の流れではなく、構造的な課題や業界固有の文化、さらにはデジタル化とアナログ慣習のせめぎ合い、といった複数の要因が絡み合っています。
この記事では20年以上現場管理職やバイヤーとして実務を経験した筆者が、表面的な原因ではなく“現場目線での実践的な根本原因”にラテラルシンキングで深く切り込みます。
製造業で働く方、バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバイヤー心理を知りたい方など、現場の実態把握に役立つ内容です。
昭和の成功体験が根深く残る現場と「新しい若者気質」
未だ色濃く残る“昭和型”の価値観
高度経済成長期から続く「現場=体で覚える場」「技は盗むもの」「先輩は絶対」「失敗しても耐えて学べ」。
令和に入りDXが叫ばれる今も、こうした価値観が暗黙の了解として残っている職場は少なくありません。
実際、制度としてはOJT(現場指導)や階層別研修、マニュアル整備がなされているものの、現場の空気としては属人的・村社会的な体質が支配しているケースが多く見受けられます。
その弊害は、せっかく若手が良い制度のもとで働こうと意気込んでも、「結局みんな昔からのやり方に従っている」「“空気”を読まないと馴染めない」という壁にぶつかることです。
現代の若手が求めるものとのギャップ
一方、今の20代・30代若手世代は「意味のある仕事がしたい」「意見を尊重されたい」「自分らしいキャリアパスを描きたい」という価値観が強くなっています。
「働き方改革」が進み、キャリア自律や多様性が重視される時代背景もあり、“何のために働くのか”という合意形成が重要になっています。
昭和型の「ただ頑張れ」ではなく、納得感や意義を説明し、個人の意思を認めて尊重することが評価につながるわけです。
教育制度“だけ”では解決できない理由
制度は整ったが、現場に“腹落ち”していない
例えば「現場教育マニュアル」「技能伝承プログラム」「改善提案制度」など、優れた教育カリキュラムを整えても、現場リーダーや中堅が正しく運用せず、口で言うだけ・形式だけとなっている場合が非常に多いです。
筆者の経験でも、本社主導で新研修制度が導入されても、「忙しいから時間が取れない」「やっても現場の実務には合わない」「新人には無理」などの理由で形骸化しがちでした。
一方、現場で定着している“昔ながらのやり方”が幅を利かせ、若手だけが新制度に“適応”させられ、結局は孤立する。
教育の仕組み自体は素晴らしいにもかかわらず、現場の“本音”との間に埋まらない溝ができてしまうのです。
「心理的安全性」の欠如
今、産業界で注目を集めているのが「心理的安全性(心理的に安心できる職場)」です。
例えば失敗をしたとしても、「なぜそうなったのか?」「みんなで考え、再発防止を共に進めよう」とオープンに語り合える雰囲気なのか。
逆に「また失敗か」「そんなこともできないのか」と詰められる職場では、若手は意欲を削がれやすいです。
せっかくの教育制度やスキルアップ支援があっても、「質問しづらい」「ミスを相談できない」環境だと、若手は孤立し、成長意欲も失われていきます。
そして“職場にいても成長できない”“精神的にきつい”と判断し、早期離職へつながる現実があります。
アナログ現場が「デジタルネイティブ」を苦しめる実態
非効率な手作業や紙ベースの落とし穴
今でも多くの製造現場では、紙の伝票や手書きの記録、電話やFAXでのやり取りが根強く残っています。
若手世代の多くはデジタルネイティブであり、スマホ・タブレット・クラウドサービスに慣れています。
ところが現場では「パソコン禁止」「スマホ持ち込み不可」「昔ながらの帳票記入必須」が多く、業務効率や合理性を素直に疑問視します。
筆者自身、ラインの進捗管理や工程異常の記録を紙で何重にも記入し直す現場を経験し、“若手が「何のため?」と納得できないなら改善するべきだ”と痛感したことがあります。
「なぜこのアナログ運用が続いているか?」の本質的議論を拒否し続ければ、若手層は希望を失ってしまいます。
デジタル提案が軽視される“空気”
最近では「現場をIT化したい」「IoTを取り入れたい」という若手や新入社員も増えています。
しかし上司やベテランから「余計なこと考えず、仕事を覚えてから言え」「ウチじゃ無理だ」とはねつけられるケースが目立ちます。
このような空気では、せっかくのモチベーションが空回りし、最終的には「新しいことは提案しない方が無難」となります。
つまり、ダイバーシティや現場イノベーションが口先だけになり、人財流出→マンネリ化の負のサイクルを生むのです。
“組織vs個人”構造が加速した背景とは?
同質的価値観から多様性社会へ
製造業はもともと“同じ目標に向かって頑張る”という価値観が根強い業界です。
しかし時代は、上司と部下、社員一人ひとりの価値観やキャリア志向が大きく異なる“多様性の時代”へシフトしています。
特定の価値観だけが正解という“同質社会”から、それぞれの強みを活かす“多様性社会”へと現場も変貌を迫られているのです。
ベテランは昔のやり方で通じた経験から「これが正解」と信じ、若手は「別のやり方や考え方もあり得る」と感じる。
この価値観ギャップこそが、制度や仕組み導入“だけ”では埋まらない根本的な離職要因の一つと言えるでしょう。
LINE社会におけるコミュニケーションのズレ
若手が仕事の悩みを溜め込む一因に「会社のメール文化」「全体会議のみで発言機会が少ない」などがあります。
実際には、仕事で課題を感じた瞬間に即座にチャットやSNSで先輩や上司に相談したい感覚なのに、工場現場では「まずは朝礼・終礼で上司に報告」というルールが残り、相談タイミングを逃しやすいです。
この“コミュニケーションのタイムラグ”も、若手の心理的距離を広げ、孤立感の一因となっています。
業界固有 “バイヤー/サプライヤー構造”の特殊性
バイヤー視点の“現場コミュニケーション”
バイヤーやサプライヤー(協力会社)の関係も、現場の慣習や暗黙知に強く影響を受けます。
例えば、商流や発注ノウハウがベテランの“属人化”に依存している場合、若手は「なぜ今それをやるのか」「何が交渉上のポイントか」理解しづらいままOJTだけで経験を積まされがちです。
ここでも「口頭でとりあえず教える」「失敗は自分でかぶる」といった封建的文化が残っている工場は多いです。
これが若手の成長や達成感の妨げとなり、「型にはまった業務しかできない」「成長が感じられない」と感じてしまうのです。
“トラブル対応力”という無形資産の継承難航
調達購買や品質・生産管理の世界では「トラブル対応力」が重要視されます。
ただし、トラブルシナリオの多くは現場に根付く“裏ノウハウ”や“組織の力学”に深く結びついてきました。
若手が机上の研修だけでは吸収しにくい“現場対応力”をどのように伝えていくかは、まさに教育制度の限界となっています。
「先輩の背中を見て盗め」という育成観では、若手離職の加速に拍車をかけかねません。
現場力再生のカギは「対話・多様性・現場起点の小改革」
本音で語り合う「対話」を増やす
筆者が工場長・バイヤーとして繰り返し痛感してきたのは、制度改善や教育投資よりも「現場の本音で語り合う時間」が圧倒的に不足しているという事実です。
「どうしてそう感じているの?」「このルールに納得できない点は?」と若手の率直な気持ちを拾い、ベテラン層も自戒を込めて“昭和の成功体験”をアップデートしていく必要があります。
「小さな実践と巻き込み」で風土を変える
大きな改革は一朝一夕には根付きません。
まずは、1つの班や1工程だけでも「朝礼の雰囲気を柔らかくする」「雑談の時間を作る」「チャットツールを1つ導入してみる」といった小さな現場改革を始めてみましょう。
重要なのは、現場の“空気”を少しずつ柔らかくし、若手も巻き込んで改善の小さな成功体験を積み重ねることです。
この地道な積み上げが、将来「離職しづらい現場力」へとつながります。
まとめ ─― 根本的課題に挑む「現場リーダーの覚悟」
「教育制度を整えたのに若手が辞めていく」。
この問題の核心は、制度や仕組みではなく、「現場の本音」がどれだけ変化に対応し、ダイバーシティを受け入れられるかにかかっています。
昭和型の成功体験、“属人文化”、アナログ志向、形式主義、心理的安全性の欠如といった現場の負の遺産は、今日すぐになくなるものではありません。
しかし、現場でリーダーを務める方、バイヤーやサプライヤーの方たち一人ひとりが、“若手と本音で語り合い、現場目線の小さな改善を地道に重ねる”ことで、確実に風土は変わります。
この積み重ねこそが、明日の製造業を人財面で根本的に支える力となります。
これからの時代、教育制度“だけ”ではなく、心理的安全性や現場イノベーションを育む「現場文化のアップデート」への覚悟が問われているのではないでしょうか。
20年現場を歩んできた者として、深くそう実感しています。
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