投稿日:2025年11月15日

プリントTシャツの乾燥で表面温度を均一化するための風洞設計と熱計測

はじめに:プリントTシャツ製造現場の乾燥工程、その重要性

Tシャツにプリント加工を施す現場において、「乾燥」は品質と生産効率を左右する重要な工程です。

プリント部分の表面温度が適切かつ均一でなければ、インクの定着不足やムラ、色落ち、皺(しわ)などが発生し、不良品の増加やクレームの原因となります。

とくに近年は少量多品種・短納期・高付加価値化が求められ、昭和的な「勘と経験」に頼る方法だけでは安定した高品質を維持できません。

本記事では、現場経験者だからこそわかる課題や、乾燥工程で表面温度を均一化させるための「風洞設計」と「熱計測」のポイント、アナログ業界特有の風土の中でどうデジタルや新手法を活かすか——実践的かつ深掘りした内容を解説します。

乾燥工程のキモは「均一な表面温度」

なぜ均一な温度が重要か

プリント加工されたTシャツのインクは、所定の温度で一定時間加熱して初めて定着し、耐久性が発揮されます。

このとき表面温度にムラがあると、
– 低い部分はインクの乾燥不良や色流れ
– 高い部分は生地やインクの劣化
といった問題が発生します。

結局、製品ごとに品質にバラつきが生まれ、不良率増加、ブランド価値の毀損、リカバリーコストなど多数の弊害が起きます。

従来の乾燥方式の課題

日本のプリント加工業は、いまだにトンネル式ベルトコンベア乾燥機や棚型乾燥炉など、古くからの設備を活用している現場が多数です。

現状の課題として以下がよく挙げられます。

– 熱源付近や通風の偏りによる局所的な温度ムラ
– 生地の配置や重なり方による加熱不均一
– 温度測定がアナログ(触って確認、点検表に記入など)で現場担当者の感覚頼み

こうしたアナログ慣習を引きずったままでは、工場間・現場内で品質の標準化や歩留まり向上は難しいといえます。

風洞設計による温度均一化の基本戦略

「風の流れ」をデザインする重要性

「風洞」とは、本来航空機などの試験用設備を指しますが、ここでいう風洞設計とは、乾燥炉内部の空気(熱風)循環を制御し、Tシャツ表面に均一な熱エネルギーを供給するための空間設計のことです。

むやみに温度を上げる、高出力のヒーターにする…という対策だけでは、かえって乾燥ムラや不良率が高まってしまいます。

現場で実践したい風洞設計のポイントは以下の3点です。

– 熱源(ヒーター)からの熱風が、製品全体を包み込み、死角を作らない流路を確保
– 循環ファンやダクト設計により、「熱だまり」や「風の抜け道」を排除
– 乾燥炉内の空間分布を意識し、製品がどこに置かれても同じ条件になるよう配慮

現場でよくある失敗例と改善策

1. 熱源が片側だけにある、またはファンの数が不足し排他的な「風の壁」ができる
→ 吹出口の増設や仕切り板の設置、リターンダクトの改修で、内部対流を均一にする

2. 丹念に設計してもTシャツの「重ね置き」「山積み」が現場で蔓延化している
→ 1枚ずつの吊り下げ方式や、通気性の良いトレイの積極活用をルール化する

3. 生産切り替えや設備変更時に、現場担当者間でノウハウの引き継ぎが不十分
→ 設計者と現場のコミュニケーションを定期化し、標準作業手順(SOP)として見える化する

熱計測の新潮流:アナログからIoT時代へ

表面温度測定の「落とし穴」と対策

かつては、「職人が触ってみて熱さを体感」「時折ハンディタイプの温度計で点検」「記録は紙のチェックシート」という現場が一般的でした。

こうした方法の落とし穴は、
– 再現性・客観性に乏しく、バラつきや見落としが起きやすい
– 異常値を即時検知できず、工程全体への波及被害が多発
– 記録の改ざんや、担当者ごとの主観的な判断に頼る危険

対策としては、非接触の赤外線サーモグラフィーやIoTベースのワイヤレス温度管理システムなど、最新技術の導入を積極的に検討する価値があります。

実践!効果的な熱計測の進め方

1. ロガータイプ表面温度計による「全点検」
セットポイントごとの温度分布を一度徹底的に可視化
ヒートマップとして残し、不良率や乾燥効率の比較にも活用

2. サーモグラフィーカメラの導入と、リアルタイム監視
炉内を通過するTシャツの全表面温度を非接触で計測
異常検出時は、ビジュアルアラートや自動記録により、データトレーサビリティを確保

3. 工場IoTプラットフォームとの連携
温度計やセンサーをPLC・MES等と連携し、工場全体の生産管理・品質保証システムへ各工程データを一元管理

現場でデジタル音痴や反発が根強い場合は、小規模な単独ラインからパイロット運用を開始し、「結果が品質や歩留まりに直結している」と現場の声を蓄積していくと比較的スムーズです。

昭和的アナログ慣習からの脱却と現場マインド変革

「手作業の良さ」「勘と経験の伝承」の価値も認めながら

ベテラン職人の感覚や「三現主義(現場・現物・現実)」は確かに重要です。

しかしながら、人口減少・後継者不足・小ロット化といった構造的な業界課題を踏まえつつ、高い品質・安定的な供給を持続するためには、データや設計をベースにした標準化と、その継続的改善が必要不可欠です。

現場の壁を突破するヒント

– 温度計測や風洞設計といった「新しい仕組み」の具体的メリットを、現場リーダーがまず体感し、そのビフォーアフターを数値・写真・不良率で示す
– 全社的な改革ではなく、現場ごとの「ローカルベスト」の成功事例を地道に蓄積し、横展開する小さな成功体験を重ねる
– 「人の目チェックはダメ」という対立ではなく、「標準工程+例外時の職人チェック」など、アナログとデジタルの融合型スタイルを構築する

まとめ:現場目線で考える、風洞設計と熱計測の「これから」

Tシャツプリント業の乾燥工程は、昭和時代そのままのアナログ運用も未だ多く、現場では「新しいやり方」への不安や負担も存在します。

しかし、現場でしかわからない泥臭い課題を直視しつつ、風洞設計による熱供給の均一化、IoT・サーモグラフィー等による熱計測のデジタル化・記録付与を地道に推し進めることで、着実に「高品質×安定生産」の実現に近づくことができます。

特に、
– 生産効率化
– 不良品低減
– オペレーター依存の脱却
– 品質データのトレーサビリティ化
は、中長期的に現場・経営両面で大きなメリットとなります。

これから調達購買・バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてTシャツ業界に携わる方も、この「現場目線×設計思考」を理解することで、顧客価値創造や市場での生き残りを果たすヒントになるはずです。

製造業の進化は、現場から始まります。
ぜひ、あなたの現場で一歩前に踏み出してみてください。

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