投稿日:2025年10月10日

糸切れ・毛羽発生を抑えるワインダー張力と油剤塗布量の調整

はじめに:ワインダー工程の重要性と課題背景

ワインダー工程とは、繊維業界やフィルム業界などで素材を巻き取るためのプロセスです。

この工程は製品の最終品質を大きく左右する重要な役割を担っています。

特に、糸切れや毛羽発生といった問題は、生産性の低減や品質クレームと直結するため、多くの工場で長年の課題とされています。

私は大手製造業に20年以上勤め、工場長として現場改善やトラブル対応に取り組んできました。

その経験と知見をもとに、ワインダー張力と油剤塗布量の調整が糸切れ・毛羽発生の抑制にいかに効果的であるか、現場目線で解説します。

また、昭和から受け継がれるアナログな現場の現実と、最新の自動化や業界動向も織り交ぜながら、多角的な視点でアプローチしていきます。

ワインダー工程で発生しやすいトラブルの本質理解

糸切れの原因を再考する

糸切れはワインダー工程における代表的なトラブルです。

原因は多岐にわたりますが、突出しているのは「張力の過剰または不足」と「糸表面の摩擦状態の悪化」です。

張力が強すぎると繊維の内部応力が増加し、わずかな欠点でも切断のリスクが一気に高まります。

逆に張力が弱すぎると、糸がたるみワインダーで絡まりやすくなったり、巻取りが不均一となり、結局は同じく断線を引き起こします。

また、糸表面の潤滑不良、つまり油剤の塗布不足やムラがあると摩擦が増して熱や損傷が局所的に発生しやすくなります。

毛羽発生のメカニズム

毛羽は、繊維の表層から細かな繊維が立ち上がる現象です。

これも張力や油剤の管理ミスが主要因として現場でよく見られます。

機械的な摩擦や過度の張力により、糸が持つ本来の結束力が失われ、毛羽立ちやすくなります。

一方、油剤の適切な塗布がなされていない場合、繊維同士が引き剥がされやすくなり、微細な繊維屑が飛散します。

ワインダー張力管理の現場的アプローチ

アナログ時代の張力調整、そして今

昭和から続くアナログな現場では、「経験と勘」に頼った張力調整が主流でした。

熟練オペレーターが糸の音や触感で微妙な違いを感じ取り、手動で調整する現場も珍しくありません。

しかし、これには個人差が大きく、安定した品質に結びつきにくい課題が存在します。

現代ではデジタル張力計や自動制御システムを導入し、一定の条件で安定した張力を実現する工場が増えています。

ですが、現場によっては古い設備のまま、張力管理シートへの手書き記録を継続するなど、現実的なギャップがあります。

張力調整の基本とプロの着眼点

張力調整の基本は、「常に一定」を目指すことです。

特に巻き始め〜巻き終わりまで、ロール径が変化するため、張力が自動で変動しないよう制御するのが理想です。

自動張力制御装置がない場合でも、頻繁な確認と調整ルーチン作りが現場改善の第一歩になります。

人の手に頼る場合、糸切れや毛羽発生時のログを細かく残し、「なぜこのタイミングで発生したか」を徹底的に分析することが重要です。

張力調整のゴールは、製品に応じた最適値(糸種ごと、ロットごとなど)を「指示値」とし、その値の±許容範囲内で実績を管理する仕組みづくりです。

油剤塗布量の管理と現場の工夫

なぜ油剤は必要なのか?

油剤は糸表面の摩擦を低減し、滑りやすくすることで糸切れや毛羽発生を防ぐ重要な役割を果たしています。

ワインダー工程では、油剤の塗布ムラや量の過不足がダイレクトに製品トラブルにつながります。

油剤塗布の最適化:勘とデータの融合

旧来型工場では、油剤塗布はやはり「経験値」で調整されがちです。

しかし、目視での「ベタつき加減」や、見た目での光沢確認だけでは、バラツキが避けられません。

ここで有効なのが「滴下量の定量化」と「定期的なフィードバック」です。

たとえば、1分間に油剤がどれだけ滴下しているのかをストップウォッチと計量器で数値化し、日々のログで見える化します。

また、新たに導入が進んでいるのが、自動油剤供給装置や塗布量センサーです。

これで油剤タンクの残量減とワインダーごとの消費量をリアルタイムで把握・記録し、明らかなムダや偏りをカットできます。

現場では油剤の種類による最適な量も異なるため、テストピースで最終製品の滑り特性や油じみの有無をしっかり評価することもポイントです。

最新の現場改善とデジタル変革(DX)の潮流

自動化設備・センシング技術の進展

現場を取り巻く環境は確実に変化しています。

自動ワインダーはもちろん、張力や油剤塗布量を自動で計測・記録するIoTセンサーの普及が進み、張力異常時にはアラームを出すシステムも導入されています。

これにより、従来は経験値頼みだった微妙な調整を、データ駆動型でも実現できるようになりました。

ただ、古い機械や人手不足の現場も依然として多く、すべてが一気にデジタル化できていないのが日本の現実です。

大切なのは、「人手の職人技」と「自動化・データ化」を補完的に活用し、現実に則した混合運用を志向することです。

現場が取り組むべきDXの一歩

中小規模工場や昭和の仕組みが色濃く残る職場では、いきなりハイレベルな自動化導入は困難です。

まずは「異常発生時の再現性データを残す」「張力・油剤量の見える化(ホワイトボードや簡易表で十分)」から着手しましょう。

次のステップとして、サンプルデータのデジタル化や、簡単なExcel管理、またはピクトグラム表記による共有など、負荷の少ない改善策を積み重ねていくことが成功のカギです。

バイヤーやサプライヤーが知るべき現場のリアル

バイヤー視点:安定品質実現への期待と要求

バイヤーが仕入先・サプライヤーに対して実質的に求めているのは、「安定的な品質」と「トラブル発生時の迅速かつ論理的な対応力」です。

ワインダー工程においては、張力や油剤量の管理履歴や、過去トラブルデータに基づく課題の原因追及―これらがサプライヤー選定の重要な判断材料となります。

バイヤーを目指す方は、現場の泥臭い改善活動やログ管理の実態を知ることで、実際の品質交渉や現場要件書のレベルを格段に高めることができます。

サプライヤー視点:現場の工夫が価値となる時代

サプライヤーにとって、自社工場や委託先の現場改善への本気度が、これからの存続・発展の大きなカギを握ります。

特に、現場主導で張力や油剤量の管理体制を築き、見学時や監査時に具体的な改善事例やログを提示できる現場は圧倒的な信頼を勝ち取ります。

「アナログでも強い」「泥臭さも価値」――これを支えるのは「できていないことを一歩でも前進させる、地道なPDCA」です。

実践的な張力・油剤管理のポイント総まとめ

● 張力管理は「一定」をルール化する
● 油剤量は定量化・見える化し、フィードバックループを作成
● トラブル時は現場観察+データロギングで根発分析
● アナログ現場にも「半歩ずつ」のデジタル化を取り入れる努力
● バイヤー・サプライヤーともに現場改善の事例共有が最重要

おわりに:現場目線の工夫が製造業の未来を切り拓く

ワインダー工程における張力と油剤塗布量の調整は、糸切れや毛羽発生といったトラブルを劇的に減らし、製品の安定性と顧客満足度の向上に直結します。

「アナログな現場力」と「データドリブンな改善活動」を両輪に、これからの製造業が進化し続けることを期待します。

変化の激しい時代においては、現場で汗をかいたことのある人間ならではの“工夫とトライアル”が、何より強い競争力になります。

ワインダー現場で培った知見が、皆さまそれぞれの現場変革やキャリアアップ、そして業界全体の発展の一助となれば幸いです。

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