投稿日:2025年8月16日

価格ベンチマークと仕様代替案の“二刀流”で指値を通す

はじめに:昭和の購買から脱却するには

製造業の調達業務は、長年にわたって「言い値」と「アナログ交渉」に縛られてきました。
実際、上司から「去年と同じ価格で買え」と指示され、何の根拠もないままサプライヤーに価格交渉を持ちかける──そんな光景がいまなお現場では日常茶飯事です。

しかしグローバル競争が激化し、資材価格も日々変動する現代において「昭和的調達」のままでは企業の存続すら危うくなります。
そこで本記事では、価格ベンチマークと仕様代替案という“二刀流”による合理的な指値交渉の実践法を、20年超の現場経験をもとに解説します。
製造業バイヤーを志す方、現役購買・サプライヤーの方々に、現代調達の“打ち手”をご提案します。

価格ベンチマークとは何か

価格ベンチマークの基本概念

価格ベンチマークとは、同一または類似商品・サービスの市場価格や過去実績価格など、客観的な基準をもとに妥当な価格を導き出す手法です。

昭和時代は、価格の根拠といえば「前年実績」「競合A社の見積」程度でした。
しかし、今はWebデータや海外相場、調達プラットフォーム等、定量的な情報が豊富です。

例えば、鉄や樹脂など材料の単価は、LME(ロンドン金属取引所)やプラスチック市況サイトで追跡可能です。
ねじやベアリングのような標準品なら、通販サイトの価格比較も有効です。

価格ベンチマークの用途

価格ベンチマークの活用場面は大きく2つです。
ひとつは「社内への説明材料」として予算や調達方針を立てる場面。
もうひとつは「取引先との価格交渉」場面。
この時、ベンチマークを武器に「この単価は市場に照らして妥当か」をロジカルに詰められます。

たとえば、材料費の高騰をサプライヤーが要求してきた際、「同業社B社では××円の見積。なぜ御社は△△円なのか?」という具体的な会話が可能です。
数字が共通言語になるため、交渉が感情論に流れません。

仕様代替案とは何か

“ムダな高スペック”は現場の大敵

指示された図面仕様を「そのまま買う」のは、実はコストダウンの最大の障害です。
製造業の現場では、過剰品質や過度な安全マージンが積み重なり、サプライヤーへ「無駄な高スペック品」発注をしているケースが珍しくありません。

そこで、「同等性能を、より安価な材質・加工・調達方法で実現できないか」という発想が重要となります。
これが仕様代替提案(バリューエンジニアリング活動)の本質です。

具体的な仕様代替案の考え方

例えば、ねじの強度等級を落とせばS45C→S35Cへ切替え可能、表面処理を溶融亜鉛から三価クロメートへ変更可能、といった代替案は典型例です。
プラスチック部品では、納期が長く高価な海外材料から、国内品への切替え提案も有効です。

工数や材料単価にこだわるだけでなく、物流コストや在庫リスクも総合的に勘案することが、現代調達に求められます。

価格ベンチマーク×仕様代替案の“二刀流”が最強な理由

サプライヤーの立場を知ることが「通る指値」を生む

価格ベンチマークで「これ以上下げられません」と壁にぶつかったとき、仕様代替案を組み合わせれば全く新しいコストダウンの道が開けます。
しかも「サプライヤーに無理難題を押し付ける」形にならず、Win-Winで交渉できます。

たとえば、「標準材でできないか?」「加工方法を見直せないか?」等、サプライヤー目線に立った提案をすれば、先方も積極的に協力してくれる傾向にあります。
サプライヤーの工程負担を下げることが最終的に調達コストを下げる最短ルートなのです。

バイヤーが一方的に値下げを要求しても、サプライヤーには「根拠なきムチャ振り」と映り、関係がこじれるだけです。
現場で本当に指値(希望単価)が通るのは「客観的根拠(ベンチマーク)+工夫による原価低減(仕様代替)」の組み合わせで初めて実現します。

事例:筆者の現場での実践

例えば、私が参画したある設備部品の調達案件では、標準材料価格の高騰で見積単価が前年比25%も上昇しました。
価格ベンチマークで海外相場を調査したところ、市場価格は「+15%」に留まっていました。

そこでサプライヤーと協議し、「過剰仕様となっていた公差・表面処理の変更」による原価低減案を提示。
結果15%アップでの調達に成功し、サプライヤーも加工難易度が下がるため利益率を改善。
まさに“両得”のケースとなりました。

現場で“昭和調達”が根絶できない3つの理由

1. 「前例踏襲」文化の呪縛

「去年と同じでOK」「見積依頼先も昨年通り」「現行品のスペックは聖域」という前例主義が根強い現場は未だ健在です。

この文化の壁こそが、日本の製造業コスト競争力低下の元凶です。
一度導入した手順を繰り返す安心感と、変更に伴うリスク回避本能が「思考停止」を招いています。
調達担当者は、常に「この仕様、本当に必要か?」と問い直す習慣が不可欠です。

2. 原価構造への無理解

コスト明細やサプライヤーの原価構造に踏み込まず、「上がってきた見積もり額」だけで会話しがちです。
しかし、現代のコストダウンは部品一個一個の「構成要素分解」が肝。
人件費、材料費、加工工数、物流費等の内訳を分析すれば、ベンチマークも仕様代替も“論理武装”できます。

自社エンジニアや製造技術者との連携も必須です。
数字と工程を自分の耳と足で確かめて、「机上の空論ゼロ」の調達を目指しましょう。

3. 「指値」の意味を取り違える風潮

誤解してはいけません。
指値とは「無理やり押し付ける札」ではなく、「合理的判断」と「交渉プロセス」の集約点です。

要求値のロジックと、サプライヤーの事情を共感する姿勢。
これが掛け合わされてはじめて、「通る指値」になり、持続的なコスト低減の連鎖が生まれます。

まとめ:変わるべきは調達マインド

グローバル&デジタル時代に対応するには、もはや「アナログな昭和型調達」では勝ち残れません。
価格ベンチマークで客観的な根拠を持ち、仕様代替案で現場に根差した新提案を実践する──この“二刀流”こそが「通る指値」の決め手です。

最重要なのは、数字と工程、現場感覚と市場感覚、そしてサプライヤーへの共感力をバランスよく備えた調達人になること。
さあ、貴社の指値も、昭和の呪縛を断ち切る実践的な交渉力でステージアップしましょう。

おわりに

本記事が、あらゆる調達・購買担当者、バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバイヤー対応に悩む方々の知恵と「新時代調達」のヒントになれば幸いです。
今こそ現場目線での“実践知”を武器に、よりよい未来の工場づくり、産業発展に一緒に挑戦していきましょう。

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