投稿日:2025年9月27日

現場の省人化が進み人材育成が停滞する課題

現場の省人化が進み人材育成が停滞する課題

製造現場の“省人化”がもたらすパラドックス

長年、製造業の現場で働き、管理職として多くの人材を見てきた立場から断言できることがあります。
それは「省人化」が業界全体に革新をもたらす一方で、現場力や人材育成面では深刻な課題が浮き彫りになっているという事実です。

多くの工場では、労働人口の減少やコスト競争の激化を背景に自動化・省人化を推進してきました。
特に、日本の製造業は昭和の成功体験を引きずったまま、現場第一主義と伝統的な徒弟制度が長く根強いまま、一方でデジタル転換やスマートファクトリー化の流れにも乗らなければならなくなっています。

その最前線で起きているのが、「省人化が進むほど、若手や新入社員が実作業を通じて経験を積む機会が失われている」という現象です。
これは単なる“人手不足”ではなく、将来の業界発展を左右する「現場力の継承」という重大な危機でもあります。

なぜ人材育成が停滞するのか ― 昭和からの構造的課題

省人化が進む現場でなぜ人材が育たないのか、原因を深掘りします。

一つは、「OJT(On the Job Training)」という日本独自の教育風土です。
OJTは本来、作業を通して先輩社員が手取り足取り、新人に知識や技術を伝えてきました。
しかし現代の省人・自動化現場では、そもそも“人がやる作業”が極端に減り、OJTの場自体が消えていっています。

もう一つは、「非定型作業の失伝」です。
高度に自動化された工場においても、全てが定型業務ではありません。
段取り替え、トラブル対応、想定外の現象への現場対応など、いわゆる“職人技”が求められる場面は必ず発生します。
しかし、表面的なロジックやマニュアル化だけで本質には辿り着けません。
「現場の経験値」がなければ、“なぜそうするか”まで体系的に理解できず、属人的な知識が失われつつあります。

さらに、古い体質の組織では「ベテランの経験則」に頼る傾向が依然強く、デジタルネイティブ世代の若手がそのノウハウを吸収する機会も減少しています。

省人化と自動化の波~現場目線での真の課題

近年注目されるのはロボットによる自動化、IoT導入によるデータ活用、AIによる生産計画最適化など、“スマートファクトリー”と称される最新トレンドです。
確かにこれらの技術導入は「見える化」「無人化」「効率化」を実現します。

しかしながら、現場管理者の目線で見ると、技術の進歩が進むほど“人間の感性や判断力”に支えられていた部分の空洞化が進んでいるとも言えるでしょう。

典型的なのは、設備トラブルや品質異常時の対応です。
高度な自動化設備は複雑に制御されているため、トラブルが発生した際、異常検知のアラームは鳴りますが、「何が本質的原因か」「なぜこうなるのか」を現場作業者自身が深く理解していないと、場当たり的な対応しかできません。

かつて昭和の製造現場では、「見て盗め」「現場で感じろ」が合言葉でした。
今、誰がどんな異常に遭遇し、どう判断・行動したかという“現場知”は、記録されることなく消失しかねません。

バイヤー・サプライヤーともに必須の現場洞察力

ここでバイヤーやサプライヤー目線でもこの課題をひも解きます。
バイヤーを目指す方や、サプライヤーとして顧客の期待を超えたいと模索している方にとって、最も重要なのは「現場で何が起きているか」「どんな困りごとがあるのか」を肌でつかむリアリティです。

実際に、購買ではコストの安さや納期だけではなく、“現場対応力”をベンダー選定の大きな評価軸としています。
トラブル時に柔軟・迅速対応できる現場スタッフの有無、現場改善の提案力、納入品トラブルの原因究明と再発防止力など、単なるマニュアル通りではない「現場力」の差が大きな競争力になるのです。

しかし、納入先や外注先工場が過度に省人化・自動化へ傾斜しすぎて本質的な人材育成が抜け落ちている場合、取引リスクは意外に高くなります。
現場経験に裏付けされた提案や臨機応変な対応ができないため、「設計変更」や「イレギュラー対応」に弱く、長期的な信頼構築が難しくなります。

人材育成のために現場で今なすべきこと

では、省人化の波が止まらない現代製造業において、人材育成を停滞させないためにはどうすればよいのでしょうか。

一つは「デジタルOJT」の推進です。
作業手順だけではなく、“異常時の判断”や“トラブルシューティング”、“なぜそうするか”というベテランの思考の軌跡までしっかり動画やデジタル技術で記録し、新人が何度でも体験的に学べる機会を作ることが重要です。

また、「現場カンファレンス」のような場を定期的に設け、トラブル事例や成功事例を全員で共有し、その場で課題発見力や対応力を鍛えることが今後ますます求められます。
現場担当者の“気づき”と“振り返り”を仕組みに組み込み、属人的な技だけでなく全体知として蓄積できるようにします。

さらに、AIやIoTツールはあくまで“アシスト”として位置付け、「主体的に問題解決する人間」を育てる場を意識的に残す工夫も不可欠です。
デジタル技能とアナログ技能の両立、「現場・現物・現実(現地現物主義)」の精神を若手にも伝播させることが長期的成長のカギです。

業界を変える“ラテラルシンキング”で人材課題を乗り越える

省人化・自動化は不可逆な流れですが、その先に「人が育たない現場」―これこそが最大のリスクです。
今こそラテラルシンキング(水平思考)によって、従来の発想を超えた人材育成へのアプローチが必要です。

例えば、クロストレーニング(多能工育成)の推進や、外部研修・異業種交流会の積極的な導入、リバースメンタリング(若手がベテランをIT活用で教える)など、既成概念にとらわれない“知の循環”を実現しましょう。

また、組織の垣根を超えて、バイヤー・サプライヤー双方が「人材共創」の意識を持つことも大切です。
商談の場だけではなく「現場見学会」「合同改善プロジェクト」などを通じ、課題をリアルに共有することで、双方にとっての“価値ある成長”の機会が生まれます。

まとめ:省人化と人材育成、その両立が未来を創る

製造業の現場は、今なお昭和の良き伝統と、最先端の自動化・デジタル化が混在する過渡期にあります。
省人化の追求は利益や効率化に貢献しますが、人材育成なくして業界の技術・現場力は継承できません。

現場サイド、バイヤー、サプライヤー、全てのステークホルダーが「現場で人が育つ方法」を改めて問い直すこと。
その不断の工夫と実践こそが、組織の強靭さと未来への競争力を生み出します。

今後も“人材育成”というテーマに、現場のリアルな視点と新たな発想で切り込み続けていきます。

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