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人材不足対策が管理職の属人的努力に依存する問題

目次
製造業現場の人材不足問題とは何か
現在、日本の製造業現場では「人材不足」が常態化しています。
少子高齢化による労働力人口の減少、新卒や若手の製造業離れ、さらには技能伝承の停滞や現場の高度化による業務難度の上昇。
一見、これらは“社会全体の大きな課題”に見えますが、実はその対策には「現場管理職の属人的努力」が大きく依存しているのが実情です。
とくに中堅~ベテラン世代の管理職や工場長、現場監督者は、自分自身の経験、人脈、場当たり的な気配り・根回しなどによって、ギリギリの労働力を回しています。
会社全体としての人材確保・育成戦略や仕組み闊達化が不十分なまま、「なんとか現場を回せ」とのプレッシャーが現場トップ層にかかっている。
これは“昭和型”の管理スタイルが、今も色濃く残る構造的な問題と言わざるをえません。
なぜ属人的な努力に依存するのか
現場主導の調整と人手不足とのせめぎ合い
多くの工場では、急な欠員や繁忙期のシフト調整、未経験者や派遣スタッフへの即席教育など、現場レベルで日々「臨機応変な対応」が求められています。
本社の人事・経営企画機能がいかに立派な制度設計を語っても、「目の前の作業ラインが止まらないようにすること」が現場の最大命題。
そして、その手腕を最も発揮できるのは、現場を熟知し、従業員の個性やパワーバランスにも通じている管理職だけなのです。
このため、工場や現場の人材不足対策の大部分は、管理職の個人的な采配・根回しに委ねられがちです。
「◯◯さんには無理を承知で残業をお願いしよう」
「ここの工程を一時的に別ラインの経験者で穴埋めしよう」
「来月までは自分が毎日巡回して声かけしよう」
こうした“人知れぬ調整”が毎日、どこの現場でも繰り広げられています。
マニュアル化や標準化の壁
製造業は「標準化」「マニュアル化」「業務可視化」の重要性をよく説きますが、実態は“紙の上での理想”と“現実現場の属人技”に大きなギャップがあります。
人材教育も「OJT頼み」「ベテランが横について覚えさせる(=徒弟制)」が色濃く、簡素なマニュアルやCheck Sheetだけでは到底回せません。
現場の微妙なコミュニケーション、人間関係への配慮、暗黙のルール……。
結局、管理職の経験値や個人的な判断、場の空気を読む能力が、チームの成果や人材活用の質を左右しています。
会社全体の仕組み(制度)不全と現場任せの弊害
「採用募集を何度かけても応募が来ない」
「配置転換したが新人の定着率が上がらない」
このような課題が表に出ても、なかなか全社横断で再設計や改革には至りません。
なぜなら、現場管理職が“頑張ってなんとか回している”間は、問題の深刻さが見えづらいからです。
現場の属人的努力ゆえ「仕組みによる変革・効率化」が後手に回り、いつまでも昭和の現場文化が温存されます。
バイヤーやサプライヤーが直面する“人的資源”のリアル
バイヤー側から見る製造人材不足
バイヤーや調達担当は、「納期・品質・コスト重視」でサプライヤーを選定しがちですが、現場の労働力キャパシティや“熟練工の比率”には、正直そこまで目が向きません。
しかし、実際にはサプライヤーの現場も人材不足に苦しみ、ベテラン不在や突発異動、外部人材頼みのオペレーションが品種切り替えや不良発生リスクの温床になります。
「A社は昔から安定しているから任せよう」
「B社は新興企業で技術はあっても人員が常に流動的だ」
といった属人的な印象評価が、発注判断を左右する場面も増えています。
現場の属人的運用が“企業全体の信頼度”にもつながり、調達・供給網の安定化と直結しています。
サプライヤーの立場で分かる“バイヤーの心配”
サプライヤーサイドからすると、受注増に浮かれている場合ではなく、「今の人員でどこまで持つのか?」というプレッシャーと常に向き合っています。
バイヤーからの突発オーダーや厳しい納期要求が来るたびに、現場は急遽増員、外注手配、ベテランへの過負担が増します。
これもすべて、現場管理職の“神業的調整”に支えられているのです。
ゆえに、サプライヤーとしてバイヤーに「安定供給」をPRしたいなら、“仕組み”や“標準化”の進度、属人化解消への取り組みも、積極的にアピールすることが重要です。
「当社では現場の多能工育成が進んでいる」
「標準作業書を刷新し、OJTの属人化脱却に注力しています」
こうした取り組みは、対外的な企業評価向上にも直結します。
昭和から抜け出せないアナログ現場の課題
なぜデジタル化・自動化が進まないのか?
近年、IoTやAI、RPAなどデジタル技術による「現場省人化」が叫ばれています。
一方で意外なほど、多くの現場ではアナログ文化――「Excel管理」「帳票の手書き」「口頭指示」「実績報告は紙」「工程会議はホワイトボード」――が根強く残っています。
なぜか?
そこには、「属人化されたノウハウ」「個人プレーの限界」「ベテラン頼みの調整力」といった“人間力”が最後の砦になっているという現実があります。
また、工場の自動化やシステム投資には膨大な費用・時間がかかるうえ「現場のリアルな運用」を正確にトレースできるIT人材が社内に乏しい、という二重三重の障壁も存在します。
“昭和型”の人材教育・人間関係が持つ一面のメリット
決してすべてが悪いわけではありません。
属人的努力は、現場の調和維持や臨機応変な危機対応、突然のトラブル時にきわめて大きな効果を発揮します。
・「あの人に頼めば大丈夫」
・「困ったときは班長さんに一声」
・「ベテラン同士で阿吽の呼吸」
といった人間力・現場力は、数値やマニュアルだけでは測定できない“日本のものづくりの強み”の一つです。
しかし、少子高齢化・世代交代の波が確実にくる今、この価値観にいつまでも依存するのは時代遅れです。
属人的努力の限界と、これから現場で求められること
属人的な運用がもたらすリスク
最大の課題は「個人の限界」です。
・管理職やベテランが突然退職・離職したとき
・度重なる繁忙や突発トラブルで疲弊しきったとき
・コストダウン、グローバル展開など新たな経営課題が迫ったとき
こうした局面で、“なんとか回っていた現場”が一気に崩壊するリスクをはらんでいます。
それは、企業全体の競争力低下・納期遅延・品質不良・取引停止といった致命的なリスクにつながるのです。
今こそ始めるべき“脱属人化”の現実的アプローチ
具体的には、次の3つの軸が不可欠です。
1.知識・技能の標準化と可視化
ベテランの技を見える化し、誰でも習得できるマニュアルや教育コンテンツを整えましょう。
動画やタブレット、ARの活用を検討するのも有効です。
2.現場主導の多能工育成、OJTからOFF-JTへの転換
一人が複数工程を習得する多能工化、ペーパーマニュアルからデジタル教育へ、計画的なスキルマップ更新を続けることが現代の製造現場に不可欠です。
3.現場データの一元&自動収集
日々の製造活動、欠員・異常・作業進捗を現場スマホやIoTセンサーで見える化し、管理職の判断負担を減らしましょう。
「人間だけで頑張る」から「仕組みで支える」体制へ。
これにより管理職は“異常対応専任”でなく“現場改革のリーダー”としてその経験を活かせます。
おわりに:属人的努力から、組織力へ―新たな地平線へ向かって
人材不足という課題に、現場管理職の属人的な努力・個人技で乗り切る時代は、確実に曲がり角を迎えています。
求められるのは、“個人の頑張り”や“現場の空気”だけに頼らない、“再現性”のある仕組みづくりと人材育成。
それは単なるトレンドや流行り言葉でなく、激化するグローバル競争、持続的な現場力の強化、生産技術高度化のための長期戦略です。
バイヤーやサプライヤーの皆さんも、この新しい地平線を意識することが、今後の取引・パートナーシップ・自社競争力の大きな差に直結するでしょう。
現場力・人間力という“昭和型”の強みを土台に、いかにして“2020年代型の人材マネジメント”へ進化させるのか。
今こそ、現場で知恵と経験を培ってきた管理職自身が「今のやり方」を問い直し、未来志向で踏み出すべきタイミングです。
製造業の現場で汗を流す皆さん、調達を担う皆さん、サプライヤーとして顧客を支える皆さん。
属人的な頑張りに頼らない現場づくりこそが、ものづくり大国日本をもう一度甦らせるカギなのです。