投稿日:2025年7月9日

ヒューマンエラー未然防止に役立つ現場改善と管理手法

はじめに 〜なぜ今「ヒューマンエラー未然防止」が重要なのか〜

ヒューマンエラーは、製造業の現場において最も根深い問題のひとつです。
「人は誰しも間違えるものだ」と言われますが、その一瞬のミスが重大な品質トラブルや顧客クレーム、納期遅延、さらには事故や損害賠償にまで発展することも少なくありません。
特に、デジタル化がなかなか進まず、“昭和のやり方”が色濃く残る現場では、ヒューマンエラーの件数が減らないという悩みを日々聞きます。

この記事では、現場のリアルを知る立場として「ヒューマンエラーの根本原因」から、「現場で即活用できる改善策」までを体系的に解説します。
また、調達購買やサプライヤー管理の経験から、調達バイヤーとサプライヤー双方の目線も盛り込み、現代の製造業で必須となるヒューマンエラー未然防止の核心に迫ります。

ヒューマンエラーの背景 ―なぜ現場からエラーが消えないのか―

“なぜヒューマンエラーは無くならないのか”を深掘りする

まず、ヒューマンエラー(人的ミス)はなぜ生まれるのでしょうか。
大きく分けて、その要因は3つあります。

・人間の認知能力・判断力には個人差と限界があること
・作業環境や手順・マニュアルの不備があること
・コミュニケーション不足や組織風土の問題が存在すること

よく「マニュアルどおりにやればいい」と言われますが、実際には現場側に「分かりにくい」「例外が多すぎて整理されていない」「現場実態とズレている」という不満があるケースが大多数です。
また、ルーティン業務のように思われがちな現場作業でも、ちょっとした手順の違い、ロットごとの差異、緊急対応の多発など、想像以上に多くの判断や気配りが求められます。

“アナログ文化”がヒューマンエラーを招く現実

昭和から続く属人化、“阿吽の呼吸”でカバーするような暗黙知中心の現場は、労働力人口減少や人材多様化の波を受け、かえってヒューマンエラーの温床となっています。
たとえば、「あの人が休んだ日は、品質がガクンと落ちる」「いつも同じ人しかミスをしない」といった問題が起きていませんか。
この傾向は、調達購買やサプライヤー管理など、外部とのやり取りが多い領域でも同様です。
“ベテラン頼み”のサプライヤー、資料の場所が担当者しか分からないなど、情報流通が属人的になりがちな組織ほど、ミスのリスクが高まります。

ヒューマンエラーを生みやすい、現場の7つの代表的シーン例

1. 品番・ロット間違いによる誤投入

間違った部品や材料をラインや加工機に投入するミス。
納品書や伝票を“ちらっと”見ただけで作業してしまう、あるいは資材置場の表示が曖昧、そもそもレイアウトが複雑等が原因です。

2. 検査モレ・検査飛ばし

段取り作業や休憩明け、急なオーダー変更が発生した際、検査の一部が“誰もやっていなかった”というケースです。
作業標準書が分かりにくく、手順の一部だけ自己流になっているのもよくある背景です。

3. 機器・装置の設定ミス、パラメータ入力ミス

数字の読み間違いや打ち間違い、設定値の書き戻し忘れ。
慣れていないサブオペレーターや、新人ほど起きやすい典型的なミスといえます。

4. 誤納品・荷違い・個数違い

調達・購買業務で特に多いミスです。
製品や部品の取り違え、数量違い、搬入先間違い、送り状の記載間違いなど、ちょっとした確認欠如や伝票の“見落とし”で発生します。

5. 指示・引継ぎモレによるミス

口頭伝達や“メモ書き”に頼った引継ぎで内容が完全に伝わらず、「自分は聞いていない」「そんな操作をやるとは思わなかった」という事態です。

6. 残業・休日出勤時の重大な判断ミス

慣れた作業者でも疲労・睡魔の影響や、サポートが少ない状況下では判断が甘くなり、大きな見落としやミスを引き起こします。

7. その他:人間関係・組織風土由来の“仕方なくの妥協行動”

「急げと言われたので、確認を省略した」「上司の顔色で無理に手順変更した」というような、個人の意図を超えた現場の“空気”がミスを誘発することも特徴です。

未然防止のカギ!現場で活きる改善と管理のアプローチ

1. エラーを「人の注意力不足」と決めつけない(仕組み化視点)

ヒューマンエラーを単に「集中力が足りないせい」と片付けず、仕組みそのものを点検・可視化すること。
ミスが発生した時だけ注目するのではなく、エラーが起きても気づける/リカバリーできる仕組みをどこまで作れるかが肝心です。
たとえば、二重チェックやダブルサイン、バーコードでの自動照合など、「誰がやっても同じ結果になる」構造を意識しましょう。

2. “弱点ポイント”を特定し、重点管理する

全ての業務・手順を均等に厳しく管理するのは効率的でありません。
ヒューマンエラー発生頻度・影響度に応じて、重点的に厳格管理する「クリティカルコントロールポイント」を明確化します。
過去のトラブル履歴やヒヤリハット情報を定期的に見直し、「自工程・サプライヤー工程の中で、どこが最も弱点なのか」をリアルに共有しましょう。

3. IT・DX活用の“最適解”を現場の温度感に合わせて設計する

RPAやAI、IoTなど、近年は様々なDX施策が製造現場に導入されていますが、現場の実態や成熟度を超えて“新技術ありき”で進めても、むしろ混乱や新たなヒューマンエラーを招くリスクがあります。
現状のアナログ手順に寄り添った段階的なデジタル化、現場の声を吸い上げたシステム設計が最終的な効果に直結します。
バーコード管理の徹底、入力フォームの自動化、写真添付での証跡管理など、「ミスさせない」仕掛けをルール化し、現場展開しましょう。

4. マニュアル更新と教育訓練の“運用力”を高める

企業の多くは立派なマニュアルを作成していますが、現場では「活用できていない」「古くて現状と合わない」「実際の工夫や例外処理が反映されていない」ということが往々にしてあります。
また、新旧作業者が共通の認識・手順を持てるよう、単なる文字説明ではなく、動画・写真付きの手順書の定期的な見直し、OJT(On the Job Training)や実地訓練を織り交ぜた教育体系の構築が肝要です。

5. 現場の“声”を組織横断で拾い上げ、管理者と現場が対話する風土づくり

ヒューマンエラーの根本的な再発防止には、現場作業者のストレス・行動特性を把握したマネジメントや、働きやすさを重視した職場づくりが大切です。
不良やミスを「隠す」インセンティブが働く雰囲気ではなく、「早めの気づき・ヒヤリハット情報が評価される」運営体制に切り替えると、現場から自発的な改善提案・ナレッジ共有が進みやすくなります。

調達バイヤー・サプライヤーの現場でのヒューマンエラー対策

サプライヤー管理でも“ヒューマンエラー再発防止”は永遠のテーマ

サプライヤー選定や発注管理の場面でも、ヒューマンエラー未然防止は極めて重要です。
製造現場だけでなく、調達担当者のミスや意思疎通のミスマッチが全体の品質・納期・コストに大きく影響します。

バイヤー・サプライヤーで実践できる5つの対策

1. 発注内容・設計変更などは必ず書面化・照合プロセスを遵守する。
2. サプライヤーとの定例ミーティングで情報共有を徹底し、曖昧な点は早期に補正する。
3. 過去のトラブル事例やヒヤリハットを積極的にサプライヤーにフィードバックし、共通ルールを作成する。
4. 納期や仕様が変わる場合には、相手先担当者の“人”でなく、組織全体で共有できる仕組み(ポータルや管理表)を取り入れる。
5. サプライヤー現場に足を運び、エラーが起きやすい弱点箇所や実際の改善策を現地・現物で確認し合う。

こういった地道な取り組みを“形だけ”で済ませず、改善のPDCA(計画・実行・評価・改善)を現場レベルで着実に進めていくことが、信頼関係強化とサプライチェーン全体の安定化につながります。

令和時代の製造業、ヒューマンエラーと“どう共存していくか”

ヒューマンエラーは完全にはゼロにできません。
人が介在する以上、どんなにベテランでも、どれだけ仕組み化・自動化を進めても、“人らしさ”故の思いがけない失敗や気の緩みは必ず発生します。
しかし、だからこそ「人が間違うことを前提に、どれだけ未然に防ぐ仕掛けをつくるか」「エラーが起きても致命傷にならないリカバリー策や、迅速な再発防止ストーリーを描けるか」が現代の現場改善の本質です。

昭和のアナログ現場でも、“ヒト・モノ・カネ・情報”をバランスよく使いこなし、失敗体験を財産にできる組織が、令和のものづくり時代をリードしていくでしょう。

ヒューマンエラー未然防止は、小さな取り組みの積み重ねから始まります。
本記事が現場作業者、バイヤー、サプライヤーの皆さまの「明日から始める改善」のヒントとなれば幸いです。

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