撚糸不良によるムラ糸発生を防ぐ回転数とテンションの制御法

はじめに — ムラ糸が製造現場にもたらす課題とは

製造業の中でも繊維・糸製造の現場では、撚糸不良によるムラ糸発生が品質問題の大きな要因となっています。

製品の安定供給やコスト競争力、そしてサプライヤーとして信頼を築くためには、ムラ糸の発生をいかに抑えるかが絶えず求められます。

安価な海外製品の台頭や納期短縮化、カスタマーからの品質要求の高まりなど、昭和の高度成長期から令和の現代へと時代は変わりました。

それでも「勘と経験」「手作業による調整」が製造現場に色濃く残り続けているのが、この業界の現状です。

本記事では、ベテランの現場目線で、撚糸不良によるムラ糸発生メカニズムを整理し、「回転数とテンション」という根本要素に注目して、ムラ糸低減の実践的制御法を掘り下げて解説します。

バイヤーやサプライヤーなど立場の異なる方にも有益な内容にまとめています。

撚糸不良・ムラ糸発生のメカニズムを再確認する

撚糸とは何か — 生地品質を左右する根幹

撚糸とは、複数の糸を一定の回転数で撚り合わせて一本の糸を作る工程です。

この過程で、撚り強度や糸の見た目、手触り、耐久性など、多くの生地スペックが決定されます。

工程のちょっとした異常が、最終製品である布地のムラや不良につながってしまうのです。

ムラ糸発生の具体的要因

主な要因は以下です。

– 撚りの回転数が一定でない
– 糸にかかる張力（テンション）が途中でバラつく
– 原糸自体の太さや性状にばらつきがある
– 異物の混入や、湿度・温度変化による膨張・収縮

特に「撚りの回転数」と「テンション」の管理失敗が、ムラ糸の発生を顕著に悪化させる傾向にあります。

昭和から抜け出せない伝統技術と現代のギャップ

勘と経験頼みの現場 — それでも見逃せない技術者のノウハウ

長年の製造現場では、
「この機械、この番手ならここを××rpmにセット」
「新しいロットの糸なので、今日はテンションちょっと強めに」
といった職人技が重視されてきました。

計器やセンサはあっても、数値管理は部分的。

日々異なる原材料や環境条件への「現場流アジャスト力」を否定できません。

これが、高度に自動化が進んだ海外メジャーと比べて日本の中小工場・下請け現場で根強く残っている文化です。

アナログ現場の問題点と現代的ニーズ

昭和の「現物主義」現場の弱点は
– 数値根拠の曖昧さ
– 効率・再現性の低下
– 技能継承が難しい

近年はバイヤーや川下のメーカーから
「安定供給」「根拠に基づく品質説明」「異常時のトレーサビリティ」
を強く求められるようになっています。

この背景で、回転数・テンションの管理手法も大きな転換期に差し掛かっています。

なぜ「回転数」と「テンション」に注目すべきか

撚りの質＝回転数×テンションの管理精度

撚糸で重要なのは、単純な回転数やテンション値ではなく
「一定の設定を維持し、糸1本ごとのバラつきを最小限にする」
ことです。

いくらテンション計や回転計で狙い値を設定できても
– 機械本体の直進性・剛性劣化
– ガイドやロールの摩耗
– 原糸コーンの残量減による巻取り径変化
– 現場環境（湿度・温度）変動

などの影響で、「見かけの設定値」と糸にかかっている「実際の値」にはどうしてもズレが生じます。

このズレが蓄積してムラ糸となり、不良ロット発生・クレーム・コスト増加の悪循環につながるのです。

バイヤー・サプライヤーが知っておくべき本質

バイヤーからすれば
「安定して品質基準内で納品されればそれでいい」
が本音です。

しかし、現場のプロなら
「今この設備、この原糸状態、この季節なら、どこまで厳しく管理すれば安定供給できるか」 を日々模索しています。

ムラ糸発生防止の制御法は、単なる設備投資や自動化では到底片付かず、現場の知恵と技術の融合が欠かせないのです。

現場力を引き出す撚糸制御の実践的ポイント

基本指標の見える化 — まずは「基準値」「実測値」の可視化を徹底

– 回転数（rpm）、テンション（cN）は、毎ロットごとに「標準値」と「許容変動幅」を定め、現場で掲示・共有しましょう。
– 出来ればIoTセンサやデジタルテンション計で連続データ記録を始めましょう。
– 記録は、単なる“保管”ではなく、問題発生時の迅速なトレースと、異常傾向の早期発見が重要です。

現場チェックリストの導入 — 点検と巡回で未然防止

– ロール・ガイド部の摩耗、軸ズレ、オイル切れは定期的に点検しましょう。「異音・異振動」といった五感チェックも意外なムラ防止に役立ちます。
– 原糸のロットイン前に必ず抜き取りで「太さ・外観・テンション」のバラつきを確認しましょう。
– 気温・湿度が大きく変化する日は、始業時に追加で２、３点「試運転測定」を推奨します。

設備投資のポイント — “狙い撃ち型投資”が有効

– 全自動ライン化が難しい現場は「テンション一定化ユニット」「回転数制御用インバータ」「異常検知用カメラ」など後付け投資でピンポイント強化を検討できます。
– 効率を考え、限られた投資で「最もばらつきやすい・ムラ被害が大きい工程」を優先しましょう。
– 測定機器類も、現場の見やすい場所に集約設置して「気づき」を生むレイアウトを心がけましょう。

人の力×デジタルの融合 — 昭和と令和の良いとこ取り

– ベテランの直感による微調整と、データに基づく異常アラートを組み合わせることで「勘どころ」を人からAIシステムへと部分継承しやすくなります。
– 作業マニュアルだけでなく、朝会やOJTで“今日の狙い値”や“昨日との違い”を口頭でシェアする仕組みも大切です。

バイヤー・サプライヤー間コミュニケーションの深化

技術説明責任の時代 — なぜ、ヒトと設備管理が重要なのか

バイヤーが「なぜムラ糸が発生するのか」を知っておくことは、価格交渉や納期管理だけでなく、不良対応や追加発注時の信頼にもつながります。

一方で、サプライヤーも「どの範囲まで現場でリスクコントロールしているか」を根拠立てて説明できれば、単なる品質問題ではなく、“根底の改善活動”までアピールが可能です。

時には現場の実地見学を通じて、データや履歴を見ながら「なぜ現場はこうしているか」を言語化し、お互いに理解・信頼を深め合いましょう。

ムラ糸発生を防ぐ“チーム”としての取組み

– 定期的な原糸サンプルの提出と評価
– クレームや改善事例の情報共有会の実施
– 設備の点検や新調の際の共同検証

など、川上から川下まで一気通貫した「品質志向のつながり」が、付加価値の高いモノづくりのベースとなります。

まとめ — 持続的改善こそ生き残りへの道

撚糸不良によるムラ糸発生は、現場なら誰しもが直面する悩みです。

安易な“設備頼み”も、過信の“勘と経験”だけでも不十分です。

– 現場の知識・技能・五感と
– IoT・デジタル技術・データ管理

両方を素直に学んで、現状の“あたりまえ”に疑問を持ち、「回転数とテンション」という基本をコツコツ磨くことが、ムラ糸低減の一番の近道です。

アナログ文化とデジタル制御の“ハイブリッド現場づくり”にチャレンジすることで、激変する製造業の中でも圧倒的な競争力と信頼性を構築していきましょう。

現場と管理、バイヤーとサプライヤー、生産と品質、全ては「きちんとした管理とコミュニケーション」から始まります。

この記事が皆様の現場改善や新しい時代の業界力強化のヒントとなれば幸いです。