投稿日:2025年7月4日

潜在欠陥ゼロを目指す電子部品安全信頼性確保とライフセーフ設計

はじめに:潜在欠陥ゼロへの挑戦が求められる製造業

日本の製造業は、かつて“壊れないものづくり”で世界をリードしてきました。
しかし、技術革新や社会構造の変化、グローバル競争が激化する現在、従来の品質基準だけでは顧客の信頼は維持できません。
特に電子部品分野では、IoTや自動車の電動化といったトレンドによって、これまで以上に高い安全性と信頼性が求められています。
潜在欠陥ゼロを目指すことは、単なる理想論ではなく、企業価値や生活の安全・安心を守る現実的な戦略なのです。

本記事では、現場の視点から、電子部品の安全信頼性確保とライフセーフ設計について、最新動向にアナログ時代から続く業界的な背景も交えて解説します。
また、バイヤーやサプライヤーの立ち位置から「なぜ今、何を考え、どんな行動が必要なのか」を具体的に深堀りして解説します。

電子部品の「潜在欠陥」とは何か?

見えにくい危険、見えない脅威

電子部品における「潜在欠陥」とは、製品として出荷した時点では表面化していないものの、使用状況や経年劣化、ストレス変動で後に顕在化しうる欠陥です。
たとえば半導体の微細な内部クラック、プリント基板の未検知微小ショート、コネクタ端子部の酸化被膜、極性指定ミスなど、多くは目視や一般的な電気検査では検出できません。

こうした現象が後工程やカスタマー使用時に顕在化すると、膨大なリコールコスト、安全事故につながることがあります。
車載、医療、インフラ用の電子部品では、人命に関わるリスクとなるため、「潜在欠陥ゼロ」は経営的必達目標になりつつあるのです。

なぜ「今」潜在欠陥ゼロが求められるのか?

ここに来て急激に潜在欠陥対策が加速した理由には三つあります。

1. 車載・医療分野への展開拡大
2. 顧客によるトレーサビリティ要求の急増
3. 市場クレーム1件あたりの 金銭・信用リスク急拡大

“1ppmの不良で十分”という時代は既に過去のものです。
組み立てメーカーや最終顧客は、「この部品は本当に10年、20年安心して動くのか」を厳しく問うようになり、部品メーカーは従来型の検査・保証体系だけでは通用しない状況にいます。

潜在欠陥ゼロを目指すための実践的アプローチ

現場に根差したリスクマネジメントとは?

形式的な ISO やIATFの認証だけでなく、目の前の「なぜ」を繰り返し問うことのできる現場力こそが最重要です。
例えば組立ラインでは、「同じアクションを毎日繰り返すこと」に安住せず、“昨日と何か違うことはないか”“工程が手順通りで本当に良いのか”を常にウォッチします。
電子部品では「電気が通れば良い」だけでなく、「なぜその電気特性なのか」「全ての選別パラメータに異常傾向はないか」まで踏み込みます。
この継続的なリスク感度の強化が、異常値や工程の異変を早期発見するカギとなります。

アナログ手法×デジタル技術のハイブリッド化

実は、昭和時代から根強く残る目視検査や手書きチェックリストが、未だに重要な場面も多々あります。
高性能な画像検査装置でも拾えない“勘と経験”に支えられた不具合徴候は、現代でもなお重要なヒューリスティック情報です。

それをどう活かすか。
たとえば、現場作業者の毎日の異常メモや、検査員の「何か違和感がある」の記録を、デジタル化しビッグデータで傾向管理するアナログ×デジタル融合の工夫が求められています。

AIやIoTセンサーは、「異常と言い切れない予兆」を抽出し、人間の気付きと合わせることで“浅い潜在欠陥までもれなく拾う”ことができるのです。

ライフセーフ設計:故障モードを徹底的に洗い出す

製品設計段階での“ライフセーフ設計”は、単なる過剰設計とは異なり、想定しうる全ての故障モードから本質的な危険排除を図るコンセプトです。

例えば家電や車載向け回路基板なら、「万一、コンデンサが内部ショートしても電源が遮断される設計」や「万が一端子が外れても回路的に誤作動を抑止する」などの冗長化・フェイルセーフ設計を組み込みます。

そして近年では、部品点数削減、省スペース化、小型化という流れの中でも、その中に「安全リスクの閉じ込め・排除」という視点を必ず組み込むことがバイヤー・サプライヤー双方で求められています。

調達・購買バイヤーの視点とサプライヤーの姿勢

調達—購買バイヤーはなぜ安全信頼性に敏感なのか

バイヤーの責務は、“コスト削減”だけでなく、“供給の継続性”“社会的責任”を強く問われる時代になっています。
例えば主要取り扱い電子部品で致命的な不良が認定された場合、部品単価より遙かに大きな「回収費用」「市場損失」「取引信用失墜」というリスクが現実化します。

そのため、優秀なバイヤーほど「このサプライヤーは潜在欠陥ゼロを本気で目指しているか」「検査・工程に深い現場改善活動があるか」を見抜こうとします。
単なるISO認証やスペック記載だけでなく、実際の工場フロアの現場管理、作業員の教育状態、トレーサビリティ体制まで、現場視察によって確認したいと考えます。

サプライヤーの立ち位置:バイヤーの本音を理解せよ

サプライヤー側には、単なる品質保証体制の説明だけでなく、「当社は“潜在欠陥ゼロ”に本気で取り組み、こうした現場改善を日々行っています」という“行動”の可視化が求められます。

実際には、“もっと安く、たくさん作る”だけでなく、工程変更時のリスクアセスメント、設備可動率の安定化、検査工程の省力化の中で安全性が後退しない工夫の実施状況など、現場独自の取り組みが評価ポイントとなります。

「もし万一、同じ現象が再発したらどうなるのか」「設計と現場作業、サプライチェーン全体にゆるみがないか」「想定外の故障モードが本当に排除できているか」。
バイヤーの視点を理解し、説明できる現場力こそが、これからのサプライヤーの競争力です。

トレーサビリティとデータドリブン時代の部品管理

シリアルナンバー管理による個体レベルの追跡

近年、全数へのシリアルナンバー付与、工程ごとの検逸記録、出荷後の納入先まで一貫追跡できる「トレーサビリティ」が電子部品の新しい標準となっています。
これにより、もし問題発生時にも「どのロット、どの期間、どの工程を通った製品だけ」が即座に絞り込め、迅速な回収・限定が可能です。

また、こうした体制はバイヤーから「不良時の迅速説明」「原因追跡」の点で高く評価され、「このサプライヤーなら安心」と選定されやすくなっています。

ビッグデータ分析による予兆管理

生産設備や検査機器の膨大な点検記録や作業ログも、大切な信頼性管理データです。
AIや機械学習の導入が進む中、「どのパラメータが不良の前兆なのか」「閾値を超えた時、どのアクションをするべきか」が可視化しやすくなっています。

工場長時代の経験から言えば、“普通と違う”工程データの微妙な変動こそ、事前察知できればリードタイムだけでなく将来の大事故予防にも直結します。
こうした「データに基づいた予防保全」は、潜在欠陥ゼロに不可欠な視点です。

昭和のアナログ業界から未来志向のものづくりへ

「現場はアナログで良い」の限界

工場現場は長年、「現場の目と手」に頼り、信頼基盤を築いてきました。
しかし一方で、証拠やデータの裏付けがなければ、外部に「安全」を示せない時代です。
特に若手バイヤーやグローバル企業からは、厳密なデータ検証・監査が求められます。
“現場の勘”をデジタルシステムに落とし込み、継承するしくみが必須です。

新たな地平を切り拓く「現場起点イノベーション」

本質は、デジタル化と現場力の融合です。
工程ラインではAIやIoTを駆使しつつ、作業者の経験をデータベース化して全社共有。
サプライヤー同士の横断的な異常情報伝達・標準化も不可欠です。
異業種の知見も融合し、「なぜ故障するのか」「なぜ異常が混入したのか」を深掘りし、誰も踏み込めていない新しい整流化・自動化を徹底する。
これはコスト競争を超えた、真の安全付加価値として顧客から評価されるポイントです。

まとめ:製造業の未来に「潜在欠陥ゼロ」の文化を

潜在欠陥ゼロへの挑戦は、一過性の品質キャンペーンではありません。
顧客の命と信頼に関わる社会的責任として、現場と管理部門が一体となって取り組み続けるべき命題です。
個々の現場改善、バイヤーとの対話、そしてトレーサビリティやAIを活用した未来型ものづくり。
その全てを現場の「なぜ」から実践できるかが、組織の価値を左右します。

今こそ、アナログ文化の“現場力”と、デジタル時代の“データ駆動型管理”を融合し、業界全体で潜在欠陥ゼロを本気で目指しましょう。
高度な信頼性を備えた電子部品が、新たな社会インフラを支え、次世代のライフセーフ設計の礎となることを願っています。

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