投稿日:2025年11月14日

多色プリントTシャツの乾燥で版ごとの硬化差を吸収するためのゾーン温度制御

はじめに

多色プリントTシャツの製造では、色ごとに異なる版を使い重ね刷りを行います。
この工程の肝となるのが「乾燥」と「硬化」のプロセスです。
昭和時代から続くTシャツプリント工場の多くは、設備の近代化が進みきらず、乾燥結果の均一性を確保するのに課題を抱えてきました。
本記事では、私の20年以上の現場経験と最新の業界動向を交えて、多色プリントの「版ごとの硬化差」を吸収するためのゾーン温度制御について、実践的かつラテラルな視点で解説します。

多色プリントTシャツ製造の基本工程と課題認識

多色プリントの流れ

多色プリントでは、デザインごとに複数の版を用い、1色ずつ順番にインクを載せていきます。
各色の刷り上げが終わるごとに加熱乾燥を行い、最終的な硬化・定着を目指します。

硬化プロセスの重要性

インクは加熱により適正な硬化温度で定着しなければ、仕上げ工程や洗濯で剥がれやひび割れが発生します。
特にポリウレタン配合などの特殊インクは、素材ごとに硬化条件がシビアです。
1枚のTシャツに複数の色・異なるインクがのるため、「版ごとの硬化差」が大きな品質リスクとなります。

現場でよくあるアナログな課題

・古い乾燥炉の場合、温度ムラ・ゾーンムラが発生しやすい
・オペレータの経験に頼った温度セッティングになっている
・昨今のコスト削減で均一な換気・空調が維持できない
結果として、同じデザイン・同じTシャツでも、部分ごとの硬化がばらつき品質低下につながっています。

ゾーン温度制御の基本と考え方

ゾーン温度制御とは何か?

ゾーン温度制御とは、乾燥炉内を複数のエリア(ゾーン)に分け、個別に温度をコントロールする技術です。
各ゾーンにセンサーを設置し、制御盤で設定値と実測値(PID制御など)を比較しながら加熱ヒーターを緻密にON/OFFします。
これにより、各工程・各部位に最適かつ均質な加熱環境を作り出せます。

多色プリントTシャツ乾燥での応用視点

多色プリント工程では、
・一版目のインクは乾燥炉の前半部
・二版目、三版目…のインクは後半部
といった具合に、同じTシャツ上でもインクが乾燥炉を通過するタイミングがズレます。
各ゾーンで温度や滞留時間が異なると、インクごとに「硬化のしやすさ/しにくさ」の差が生まれます。

ゾーン制御を導入し、前工程のインク・後工程のインクにベストな温度プロファイルを与えることで、一気に均一化・高品質化が実現できます。

実際のゾーン温度制御導入事例と注意点

ユーザー工場での改善事例

消費者向けOEMプリントの大手工場では、以下のような改善を行っています。

– 乾燥炉を前・中・後の3ゾーンに分割
– 各ゾーンに熱電対と高精度ヒーターを設置
– 版ごとのインク特性・膜厚を分析し、「A版:高温短時間」「B版:低温長時間」などのゾーニング
– カラープロファイル(色順)ごとのレシピ管理をITシステムで標準化
これにより、化学繊維ベースのTシャツでも、5色プリントの全色で均質な硬化(ミクロンレベルの膜厚均一)を達成し、不良率を20%低減することができました。

導入時の注意点や落とし穴

・温度センサーの劣化・誤差を見逃さず定期校正を実施
・ゾーン数が多すぎると操作が煩雑になり現場トラブルが増加する
・インクメーカーや素材メーカーと連携し、「推奨乾燥条件」のバリエーションを事前に集める
・予算の都合上、古い乾燥炉を使い続ける場合は「エアフロー改善(熱風循環ファン)」の導入がコスパに優れる
昭和の焼き付け専用炉を使い続ける中小工場でも、小型ゾーンヒーター導入や熱感知ステッカー活用など、アナログとデジタルの融合で一定の効果を狙えます。

購買・調達・品質管理的な視点でのポイント

バイヤーが重視すべきポイント

ゾーン温度制御型乾燥炉を選定する際、
・ゾーンごとの制御精度(±1~2℃を継続保持できるか)
・遠隔監視やデータロギングの可否
・メンテナンス性(部材調達のしやすさや更新費)
など、単なる「導入価格」だけでなくライフサイクル価値を重視する必要があります。

サプライヤーに求められる説明力

新しい乾燥技術・ゾーン制御の導入提案時には、「なぜ必要なのか」の本質的な説明が求められます。
現場の後工程で起きている不良事例(剥がれ、色ムラ、膜厚ムラ)を数値化し、どのようにゾーン制御で是正するかを明確に示しましょう。
この「論理的ストーリーテリング力」は、現場知識に裏打ちされたサプライヤーの差別化要素になります。

アナログ業界の変革ヒントと今後の備え

デジタル化が進む中で大切なこと

乾燥炉のゾーン温度制御はデジタル制御の十八番ですが、最終的な品質を決めるのはやはり「現場の目」です。
インクののり具合、Tシャツ地の膨れ、思わぬ静電気によるトラブル——。
昭和から現代まで引き継がれてきた「ちょっと臭い」「煙の色が違う」といった現場感覚も、ゾーン制御の数値データと一緒にPDCAに生かすことが重要です。

ラテラルシンキングによる新たな地平線

今後、インク自体に微小温度発生体を混ぜ、Tシャツ内部からインクを硬化させる「自己加熱型インク」や、AIカメラ連動のリアルタイム膜厚制御といった技術も登場しつつあります。
これにより、ゾーン制御をベースとする乾燥プロファイル最適化が一層進展しそうです。

同時に、経験に頼るだけの昭和型アナログ現場を卒業し、
・デジタル・アナログ両睨みの見える化
・工場横断での標準化・情報共有
・若手人材への現場感覚の継承
といったトータルな現場改善が製造現場の未来を形作るカギとなります。

まとめ

多色プリントTシャツの乾燥工程においては、「版ごとの硬化差」をどれだけ制御できるかが、品質・コスト・歩留まりを左右します。
ゾーン温度制御技術は、単なる設備投資の域を超えて、現場・購買・品質管理が一体となったプロセス革新の要です。
アナログの知恵とデジタル制御を融合させ、昭和型から未来型へと進化する現場を、皆さんと共に創っていきましょう。

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