投稿日:2025年6月20日

造粒の基礎とプロセス最適化およびトラブル対策のポイント・最新技術

はじめに:製造業における造粒プロセスの重要性

製造業において「造粒」は、粉体・粉末状の原材料を一定の大きさや形状の粒(グラニュール、ペレットなど)に加工する工程です。

医薬、化学、食品、金属、自動車部品など、さまざまな業界で活用されています。

特に、日本のものづくり現場では、今もなお昭和から続く伝統的なアナログ手法が根強く残っています。

一方で、グローバル競争や市場ニーズの多様化、高度な品質要求が年々高まる中、造粒工程の最適化や標準化、さらにはAIやIoTなど先端技術の導入が求められています。

この記事では、造粒の基礎、現場目線でのプロセス最適化、トラブル対策、そして最新技術の動向まで、実践的な知見を共有します。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの方、製造現場を持つ管理職の方にも役立つ内容です。

造粒の基礎知識 ― なぜ“粒”に加工するのか?

造粒の目的と効果

なぜ原料を“粒”にするのでしょうか。

その目的は多岐にわたります。

主な理由として、
– 流動性の向上:粉のままだと扱いづらいものも、粒にすることで搬送や混合が容易になります。
– 比表面積や分散性の調整:造粒によって反応性や溶解性、焼結性など用途に応じてコントロールできます。
– 製品の均一化:有効成分や機能性素材の均質分散、不良品発生率の低減など品質安定化につながります。
– 粉じんの抑制・安全性向上:飛散や爆発のリスクを低減し、作業環境や労働安全にも直結します。

これらの効果により、工程の効率化・コストダウン、顧客に対する信頼性向上など、造粒はメーカーの競争力維持にとって重要な存在です。

造粒の主な方式とその特徴

造粒方式は以下のように大別されます。

  1. 乾式造粒
    原則として水や溶剤を加えず、圧力をかけて粒を成形します。ローラープレス造粒、ブリケッティング(塊成形)、ドライコンパクションなどが該当します。湿式に比べてエネルギーコストが低く、製品の再現性が高いですが、粒が崩れやすい場合もあります。
  2. 湿式造粒
    粉体に液体(バインダー・結合剤)を加えて粘度を調整した後、造粒機(撹拌造粒、押出し造粒、造粒塔など)で成形する方法です。食品・医薬・セラミックス・飼料業界など幅広く使われています。粒径調整や配合自由度が高い反面、乾燥工程などが必要となり工数が増えます。
  3. 流動層造粒や噴霧造粒
    粉末を気流で舞い上げ、そこにバインダーや溶液を噴霧することで粒を成長させます。粒径・形状の制御性や生産性が高いことが特徴です。

製造現場によっては、複数の方式を組み合わせるケースも珍しくありません。

このように、造粒技術は「なにを・どう加工するか」によって最適な手段が異なります。

現場の目線で見る造粒プロセスの課題と最適化のコツ

昭和的な“カン・コツ”頼みの現場からの脱却

日本の製造現場では、「ベテランが見て・触れて・においで判断する」――そんな昭和的なアナログ思考が根強く残っています。

確かに、蓄積されたノウハウや経験は大切です。

しかし、技術承継や標準化が遅れがちになり、属人化や品質ブレの原因にもなりかねません。

コスト競争や多品種・小ロット・短納期対応が求められる今、そのままの手法では通用しません。

AIやIoT活用も視野に入れ、プロセスの見える化、工程データの数値化・標準化・最適化がカギとなります。

造粒工程の最適化――重要なポイント

造粒工程での最適化に取り組むうえで、重点的にチェックすべき観点を挙げます。

  1. 原材料の性状管理
    原料粉体の粒径・水分・添加剤含有量・混合比などが造粒品質に直結します。ロットごとのバラツキ管理や受入検査工程の強化が重要です。
  2. バインダー(結合剤)の種類・添加量
    最適な種類・濃度を管理することで粒の強度や崩壊性、流動性が変化します。定量添加や自動制御システムを活用すると安定化しやすくなります。
  3. 造粒装置の設定条件
    撹拌速度やプロペラ角度、加熱温度、流量、時間など、すべてのパラメーターが粒径や形状、歩留まりに影響します。最適条件の決定と管理が要となります。
  4. 乾燥工程の管理
    粒子間の結着や表面物性を左右します。乾燥条件(温度、湿度、風量)、装置点検などをルーチン化し、連続生産性と品質を両立する必要があります。
  5. 検査・フィードバック体制
    粒径分布・強度・含水率・成分均一性など、客観的な検査値を蓄積し異常時は工程へ迅速フィードバックします。DXを活用したデータ管理が有用です。

これらのポイントを押さえ、「ヒト」に依存する属人業務から、「データ」に基づいた管理型工程へとシフトすることが求められるのです。

よくあるトラブル事例と解決策

ここでは、実際の工場現場で遭遇しやすい造粒トラブルとその対応策、考え方について解説します。

トラブル1:粒径バラツキ・品質不良の発生

現場では「粒が大きすぎる」「細かすぎる」「硬さにムラがある」などの品質不良が頻発します。

要因の多くは、原料混合不足、バインダー量の変動、装置の劣化などに起因します。

解決策:
– 原材料受け入れ時の検査(粒径分布、水分、純度)ルールを明確化
– 自動計量・自動混合設備の導入でバッチ間のバラツキを削減
– 装置の定期点検、消耗部品交換サイクルの標準化促進
– AIや画像解析による粒径分布監視の導入、異常発生時のフィードバック強化

トラブル2:目詰まり・付着物による歩留まり低下

湿式造粒や流動層造粒の現場では、装置の壁面や網に粉が付着しやすく、頻繁な洗浄が発生します。

これは、効率低下、歩留まり悪化、場合によってはライン停止のリスクも孕みます。

解決策:
– 原材料の予備乾燥、温度・湿度管理の徹底
– 粒子設計や配合見直し、離型剤や表面改質剤を活用
– 装置改造(撹拌部の素材切替、清掃性向上パーツ導入)
– CIP(定置洗浄)や自動洗浄機能の活用

トラブル3:ラインの自動化・DX導入時の“壁”

近年、造粒ラインも自動化やIoT化、AI活用が進められています。

しかし、既存設備との連携や、現場担当者の“アナログ思考”がボトルネックとなるケースも多いものです。

解決策:
– 小規模部分導入から開始し、成功事例を積み上げる“段階的DX”を推進
– 現場従業員への教育やワークショップを実施し意識改革を促進
– IT部門や生産技術部門と現場担当者の密なコミュニケーション体制を構築

このように、単なるトラブル対応にとどまらず、「根本からの工程見直し」による抜本改善を実施することが現場のレベルアップにつながります。

造粒分野の最新技術&デジタル化の潮流

スマートファクトリー化・デジタルツインの導入

2020年代以降、先端企業では造粒プロセス全体をデジタル上で模擬再現する「デジタルツイン」の導入が進められています。

これにより、
– 各種センサーによるリアルタイム監視
– 装置条件や環境の微細な変化までデータ化
– 生産シミュレーションによる最適条件探索
– 不良発生時の要因分析や予知保全
– 品質管理情報の客先提供

が実現可能となり、バイヤーからの信頼度が格段に向上します。

現場の職人技を、デジタル技術の力で「見える化」し、新人・ベテラン問わずノウハウ継承を支援します。

AI・機械学習による品質予測と自律制御

これまでは経験や暗黙知に頼っていた粒径制御や不良予測も、生成AIや機械学習アルゴリズムの発達により、“手触り”の領域が自動化つつあります。

画像解析によるリアルタイム粒径分類、AIによる最適な粉体配合の提案、統計モデルによる品質異常の事前検知など、造粒業界にもDXの波が押し寄せています。

省エネ・環境負荷低減への新アプローチ

– 低温・省エネルギー型造粒装置の開発
– 循環型(水・原材料リサイクル)プロセスの標準化
– バインダーの環境安全配慮や天然素材への切替

これらもグローバルサプライチェーンで重要なキーワードです。

日本の“ものづくり”ファンとして、持続可能性と先進性の両立を現場主導で進めることが、今後ますます求められます。

バイヤー・サプライヤー視点で押さえるべき“造粒”のチェックポイント

バイヤーが造粒工程で重視する要素

– 安定した粒径・粒度分布
– 異物・混入リスク管理および工程トレーサビリティ
– 品質検査記録・データ提出体制
– 生産量・納期対応力、増産・多品種化への柔軟性
– ISOやGMP(Good Manufacturing Practice)等、認証取得の有無

これらがきちんと抑えられていれば、発注側(バイヤー)は安心して調達先を選定できます。

サプライヤーに求められる「造粒現場の透明性と技術力」

– 造粒プロセスのデータ管理(エビデンス提出可)
– トラブル予防・不具合時の即応体制
– 常に現場改善の意識・体制
– 顧客ニーズへの技術提案力

バイヤー側が「なぜ、そのスペック(粒径、流動性等)が必要なのか」まで理解しておくと、サプライヤーも効果的な改善策や新技術を提案しやすくなります。

まとめ ― 昭和から“令和デジタル”への造粒現場進化論

造粒技術は、決して「粉を固めて終わり」ではありません。

長年のカンやコツ、現場力の蓄積が大きな競争力であり、今後はそれをデジタルで「誰でも再現できる知識」へ変換していく必要があります。

伝統的な現場感覚と最新テクノロジー。

どちらも活かしながら、造粒プロセスの最適化と品質向上を進めましょう。

そして「ヒト中心のものづくり」に、データやAIなどの新しい価値を融合させることこそ、今後の製造業に求められる進化と言えます。

現場で働く方、これから調達・購買やバイヤー・サプライヤーを目指すすべての方が、時代の変化を敏感にキャッチしながら、製造業の新たな地平線を開拓する一助となることを願っています。

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