投稿日:2025年6月21日

腐食の基礎とエロージョンコロージョンの発生メカニズムおよび現実的対策

はじめに―製造現場を脅かす「腐食」と「エロージョンコロージョン」

製造業の現場において、設備の老朽化や予期せぬトラブルの多くは「腐食」がきっかけで発生します。

また、近年駅やプラント、配管などで話題に上る「エロージョンコロージョン」は、従来の知識では対応できない新たな課題となっています。

アナログな風土が色濃く残る日本の製造現場では、腐食の本質や、エロージョンコロージョンの発生メカニズムが正しく理解されていないケースも多く、熟練者ですら「経験則」や「勘」に頼ることが珍しくありません。

そこで今回は、腐食の基礎からエロージョンコロージョンの現象理解、現場で本当に使えるリアルな対策方法、さらには今後の業界動向も踏まえて深く解説します。

現場担当者、購買バイヤー志望者、サプライヤー視点でバイヤーとのコミュニケーションを考えたい方にも役立つ内容です。

腐食の基礎知識―なぜ金属は錆びるのか

腐食とは何か?身近な現象の原理

腐食とは、金属などの材料が周囲の環境と化学反応を起こして劣化する現象です。

もっとも身近なのは鉄の「赤錆(酸化鉄)」でしょう。

しかし腐食は鉄に限らず、ステンレスや銅、アルミニウムなど多くの産業用材料で発生します。

腐食の主な原因は、金属が空気中の酸素や水分と反応し、安定な「酸化物」に変質してしまうことにあります。

この現象は、物質がより安定した状態へ移ろうとする自然界の「エネルギー最小化」の法則に従っています。

つまり、腐食は金属そのものの“性(さが)”であり、これを完全にゼロにすることは基本的には不可能です。

腐食は「材料×環境×時間」で進行する。だからこそ、現場では材料選定と運用環境の両面で継続的な対策が欠かせません。

腐食の主な種類とその特徴

腐食には多種多様な形態がありますが、製造現場で頻繁に遭遇する主なものは次の通りです。

  • 全般腐食:材料全体が均一に劣化する。多くは錆や変色として視認できる。
  • 孔食(ピッティング):表面の一部だけが深く腐食する。見過ごしやすく、突然の破壊リスクが高い。
  • すき間腐食:ボルトやフランジの隙間など、微小な空間で限定的に腐食が進行。
  • 応力腐食割れ:引張応力と腐食環境が重なることでひび割れが発生。破断事故につながる。

これらは現場での異常兆候を見極めるうえで非常に重要な知識です。

エロージョンコロージョンとは何か―複合ダメージの本質に迫る

エロージョンコロージョンの定義と発生要因

エロージョンコロージョンとは、単なる腐食現象に「流体(液体または気体)」による物理的な摩擦や衝突が加わることで、金属表面の損傷が著しく加速する現象です。

たとえば、配管を通る高流速のスラリー、ポンプやバルブ部の乱流、蒸気や海水の高速流などが典型的な発祥源です。

エロージョン単体:純粋な磨耗・摩擦による損耗。
コロージョン単体:化学的腐食のみによる損耗。
エロージョンコロージョン:この両者が相乗し、局所的に急激な損傷をもたらす。

特に、流体中に含まれる固形物(砂、錆粒子、異物)や気泡、局所的な乱流、圧力変動などが存在すると、金属表面が一瞬で保護皮膜を失い、新鮮な地肌の露出・腐食が反復することになり、損耗が加速度的に進行します。

製造現場でのエロージョンコロージョンの具体例

現場で代表的なのは、以下のような事例です。

  • 配管の曲がり部やチーズ/エルボー部での局部損傷(流速増加・乱流の影響)
  • ポンプインペラの腐食・磨耗
  • 冷却水管や凝縮器チューブなど、水分・液体が恒常的に供給される設備

たとえば、化学プラントや食品工場、水処理施設などでは、配管の特定部分のみが数年で抜けてしまうこともあり、見た目には異常がないのに突発的な漏洩・停止事故につながります。

腐食・エロージョンコロージョンの現実的な対策方法

1. 材料選定の最適化

腐食対策でもっとも根本的かつ有効なのは、稼働環境に適した材料を選びなおすことです。

よくある失敗例は「コスト削減目的で安価な鉄・鋳鉄を使用」「汎用ステンレスで十分と思い込む」ことです。

高塩分・高温多湿・高流速など、過酷な環境では耐食合金(SUS316L, チタン, モネル, ハステロイなど)の検討が不可欠です。

また、部分的なコーティングやライニング、防食塗装(エポキシ、ポリウレタン等)も有効です。

現場では「同じ材料なのに、なぜ一部だけ極端に摩耗しているのか?」という疑問が起きた場合、その用途に最適な材質か、再度見直す勇気が必要です。

2. 流体制御の高度化

乱流や異物の有無、流量変化があるとエロージョンコロージョンが一気に加速します。

以下のような現場対策がポイントです。

  • 配管径や流路設計の最適化で極端な流速増加を抑える
  • エルボーやチーズへの「直管長」確保による流れの整流化
  • 異物トラップやフィルタの定期設置・交換
  • 流体の温度管理と急激な圧力変化の回避

これらは設計段階だけでなく、日常のメンテナンスと運用改善にも有効です。

3. 保守点検の「見える化」と記録の徹底

アナログ志向の強い現場ほど、保守記録が「紙」や「口伝」で留まり、データ活用が進まない傾向があります。

しかし、腐食やエロージョンコロージョンの兆候は「時間差」で表れることが大半です。

そのため、定期点検で検出した「軽微な損傷(摩耗、変色、小孔)」も写真・寸法値でデータ化し、時系列で比較できる体制を整えましょう。

ここは現代のデジタル技術を積極的に活用すべき分野です。

4. シール・ガスパージや防食技術の導入

高リスク部では、機械的な方法による腐食防止も有効です。

  • グランドパッキンやメカニカルシール部分には、シール水や窒素ガスなどの保持
  • 犠牲陽極(亜鉛やマグネシウム)によるカソード防食方式
  • 配管内部へのセラミックライニングやゴム被覆の加工

特に金融資産価値の高い設備では、こういった多重防御策の導入がコスト面でも長期的に優位をもたらします。

購買・サプライヤーが知るべき腐食・エロージョンコロージョンの落とし穴と業界動向

購買バイヤー志望者へのアドバイス

現場の腐食防止は「ランニングコスト低減」や「安定操業の保険」につながる大きな投資です。

単にイニシャルコストや見積条件だけでなく、トータルライフサイクルコスト(LCC)視点で選定判断を行うことが現代バイヤーに求められます。

サプライヤーとの商談でも「腐食・エロージョンコロージョン対策はどこまで設計に盛り込まれていますか?」と一歩踏み込んで質問できるスキルが必須です。

サプライヤーが把握したい現場バイヤーの着眼点

サプライヤー側は、顧客(バイヤー)が「なぜこの材料や構造を望んでいるのか」「設備の運用背景や制約条件は何か」への深い理解が求められます。

また、材料選定や設計変更の提案力、定期的な保守点検へのサポート体制の構築も、今後メーカー選定の重要基準となるでしょう。

業界動向としては、IoTやAIを活用した「予兆保全」「腐食モニタリング」サービスの導入が急速に進行中です。

まとめ―腐食・エロージョンコロージョンを制する者が現場を制す

腐食およびエロージョンコロージョンは、製造現場の見えない部分で日々進行しています。

これを放置すれば、突発的な事故や巨額の修繕費用につながり、最終的に顧客満足や企業ブランドにも傷がつきます。

しかし、それらを理解し、日々の設計・運用・点検体制で先手を打つことができれば、現場力・購買力・サプライヤー力のすべてが飛躍的に高まります。

本記事が、現場経験に裏打ちされた実践的「腐食・エロージョンコロージョン対策」の一助となり、より安全・強靭なものづくり風土の発展につながることを願っています。

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