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ねじ・ボルト締結体における強度設計と破損・ゆるみ対策

目次
はじめに:ねじ・ボルト締結体の重要性と現場のリアル
ねじやボルトは、あらゆる工業製品や設備、建造物の構造を維持するうえで欠かせないパーツです。
その締結体がもしも破損・ゆるみを起こせば、場合によっては重大な事故や生産停止など、莫大な損失につながります。
しかし、実際の製造現場では、締結体に関するトラブルや不適切な設計が依然として多く報告されています。
昭和時代の成功体験や「昔ながらのやり方」が色濃く残る現場でこそ、ねじ・ボルト設計の考え方や対策を見直すことは非常に重要です。
本記事では、ねじ・ボルト締結体における強度設計のポイントと、現場で発生しがちな破損・ゆるみのメカニズム、そしてその具体的な対策について、現場経験者の目線も交えながら詳しく解説します。
ねじ・ボルト締結体の基礎知識と用語整理
まず最初に、ねじ・ボルト締結体に関する基本用語と、その種類・役割について整理しておきましょう。
ねじ・ボルトとは何か?
「ねじ(Screw)」とは、山と溝が螺旋状に切られた部材全般を指します。
「ボルト(Bolt)」は、基本的にナットと組み合わせて使われるねじ部品を意味します。
一般的に製造業の設計・調達現場において「ねじ」と呼ぶ場合、機械に直接タップしたり、ナットを介さず締結するケースを指すことが多いです。
一方「ボルト」は、ワッシャやナットと組み合わせ、より強固かつメンテナンス可能な結合方法として多用されます。
締結体とは?
締結体(Fastening system)とは、ねじやボルト、ナット、座金など複数の部品を組み合わせて、2つ以上の部材をしっかりと連結する構造を意味します。
この構造の強度や安全性は、使用環境や構造体の目的に応じて綿密な設計が必要です。
実際の現場で多発する締結体の問題
製造業の現場でねじ・ボルトに関わる問題として、破損・ゆるみ・脱落・かじり・早期摩耗などが挙げられます。
これらの問題は、しばしば同時発生し、原因が複雑に絡み合っています。
ここでは現場目線で起こりがちな現象を解説します。
1. 破損の主な原因
・適切でない強度設計(設計荷重の見積もり誤り)
・締付トルク管理の不備(過大・過少締付)
・材質選定ミス(強度不足・耐食性不適)
・設計上のストレス集中や疲労破壊
・部材自体の品質不良(クラック混入、寸法不良)
2. ゆるみ・脱落の主な原因
・振動や衝撃を受ける環境での設計不備
・温度変化による熱膨張・収縮差
・潤滑剤の有無、もしくは過剰塗布
・繰り返しの分解・再締結
・ねじ山の精度不良や異物のかみこみ
現場では、「仕様書通りに組み立てたのに不具合が出る」「昔は問題なかったのに最近トラブルが多い」といった声をしばしば耳にします。
背景として、部品の調達先が多様化し、グローバル調達やコストダウンに伴い品質のバラつきが大きくなってきている事情も影響しています。
ねじ・ボルト締結体の強度設計:現場で使える基本の考え方
ねじ・ボルトの強度設計は、「安全率」を念頭に、“本当に必要な強度”を見極めることが最重要ポイントです。
この際、設計上は解析ソフトやFEMを使うこともありますが、現場では「勘」に頼った設計がなされがちな部分でもあります。
ここでは、実践的な設計の考え方を紹介します。
1. 目標安全率の設定
安全率(Safety factor)は、想定最大荷重に対してどれだけ余裕をもたせるかの指標です。
例えば、最大作用荷重の2倍、3倍といった倍率を確保することで、突発的なショックや誤差を吸収します。
日本の製造業では、安全率2.5~4程度が目安となりますが、用途・リスクに応じて柔軟に判断することが重要です。
2. ねじ部のせん断・引張強度の計算
代表的な計算式は以下の通りです。
・引張強度(Tensile strength)= 有効断面積 × 材料の降伏強さ
・せん断強度(Shear strength)= 有効断面積 × 材料のせん断強度
・座面圧(Bearing stress)= 座面積 × 材料の許容圧縮強さ
設計時には、締結体全体(ボルト本体、ねじ込み部、ナット、部材側の母材強度)のいずれが最も弱くなりやすいかを俯瞰し、適切な材質・ねじ径を選ぶことが必要です。
3. ボルトの締付力と締付トルク設計
「指定トルクで締付けているはずなのに事故が起きた」という現象の大半は、摩擦係数(潤滑状態、ねじの状態)や現場の作業バラつきが影響しています。
潤滑剤の有無や種類によっても、同じトルク値でも実際の締付力は大きく変動します。
確実な締付力を確保するには、現場での締結状態の定期検査やトルク管理の徹底が不可欠です。
破損・ゆるみのメカニズムを現場感覚で理解する
理論的な強度・耐久設計を行っても、現場では「想定外の荷重」「予期せぬ振動」「組み立て時の作業ミス」など、さまざまなイレギュラーが発生します。
“何が事故を引き起こすのか”をよく知っておくと、対策の精度が格段に向上します。
1. 破損のメカニズム
・過大荷重による静的破壊(引張り、せん断)
・応力集中による疲労破壊(繰り返し応力)
・微細亀裂からの進行破壊(初期不良や再利用ねじ等)
・化学的腐食(サビや薬液、ガルバニック腐食)
・ガスケットや座金変形に伴う締結不良
2. ゆるみ発生のメカニズム
・振動や衝撃による回転方向への微小ズレ
・繰り返し荷重でのクリープ現象
・熱膨張差や極端な温度変化
・潤滑剤の揮発や流出による摩擦低下
これらは「現場で目で見る」ことで、早期に発見できるケースが少なくありません。
対策:現場で効く“昭和な知恵”+“現代技術”の融合
一度発生した破損やゆるみを再発させないためには、設計・調達・現場作業それぞれの段階で多層的な対策が重要です。
1. 設計段階での対策
・荷重方向及び変動荷重をしっかり見積もる
・余裕を持った強度選定、過剰品質でなく最適設計(コストバランス重視)
・二重安全機構(インシュレーション付ナット、割りピン、追加のナットロック機構)の採用
・ボルト選定時には、JIS、ISO等の標準品の活用・再検討
2. 調達・品質管理段階での対策
・信頼できるサプライヤー選定とロット毎の強度チェック
・鋼材証明書やミルシートの入手徹底
・寸法公差やねじ山のピッチ・精度の抜き取り検査
・摩耗、熱処理、メッキ品質(防食処理)の確認
3. 現場作業段階での対策
・正しい工具、トルクレンチ使用の徹底
・締付手順・トルク値の見直しと作業マニュアルの明確化
・ワッシャや座金の適切な選定・装着
・Loctite等のケミカルロック剤やスプリングワッシャの活用
・組立後のダブルチェック・振動締付試験
これからの製造業調達・生産現場で求められる視点
現在、製造業はサプライチェーンのグローバル化、調達先の多様化、自動化の進展など大きな変革期にあります。
ねじ1本を“ただの部品”と考えず、構造体トータルでの安全と品質を考えるマインドが今まで以上に重要になっています。
調達バイヤーや現場リーダーの立場では、
・信頼性のある製造元との協力
・“現場の声”を反映した仕入仕様の明確化
・低価格だけでなくトータルコストと品質維持を重視
・不良やトラブル発生時の迅速な是正、フィードバック体制
こうした広範な視点で締結体の管理を行うことが、調達・購買現場でも欠かせない時代になっています。
サプライヤー・購買の立場からバイヤーの思考を読むコツ
サプライヤーの皆さんにとっても、ただ見積りを出すだけでなく、バイヤーが今何を重視しているのか、現場でのトラブル事例をリアルに把握することが営業・技術サービス向上のカギになります。
多くのバイヤーは、
・トラブル発生時のクレーム対応力
・万一の事故防止と長期安定供給
・変更・代替提案時の十分な技術説明
・納期遵守と柔軟なロット対応
これらの観点でサプライヤーと向き合っています。
現場トラブル例の情報提供や、実際の運用状況改善に役立つアドバイスを添えた提案は、信頼獲得に直結します。
まとめ:ねじ・ボルト締結体の課題を乗り越え、製造業の未来を創造する
ねじ・ボルト締結体の強度設計と破損・ゆるみ対策は、ものづくり現場の安全と信頼性の要です。
昭和のアナログ的な知恵と、デジタル・グローバル時代の最先端技術をバランス良く取り入れ、現場の視点を常に反映した仕組みづくりが、今後ますます重要になります。
「たかがボルト、されどボルト」。
現場でねじ1本にきちんと向き合うことこそが、現代日本の製造業の競争力の礎です。
調達・購買、生産管理、現場作業、サプライヤーまで、すべてのプレイヤーが“現場リアル”を共有し、進化し続けることを期待します。
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