投稿日:2025年6月22日

材料力学の基礎と有限要素法による応力ひずみ解析および強度設計への応用

はじめに:製造業の基礎を支える「材料力学」

製造業の現場において、高品質で信頼性の高い製品をつくるためには、材料がどのように力を受け、変形や破壊に至るのかを正確に理解することが不可欠です。
その根幹をなすのが「材料力学」という学問領域です。
材料力学の知識は、設計者やエンジニアだけでなく、調達やバイヤー、工場の生産や品質管理に携わるすべての人にとって重要な基盤となります。

昭和から続く日本の現場力は、ベテラン職人の経験と勘による判断に支えられてきました。
しかし、グローバル競争が激化し、製造プロセスが高度に自動化される現代では、理論と数値解析に基づく「見える化されたものづくり」が強く求められています。
本記事では、材料力学の基本と、近年「有限要素法(FEM)」として知られる数値解析の活用、さらに応力ひずみ解析を通じた強度設計への応用について、現場視点で分かりやすく解説します。

材料力学の概要と基本的な考え方

材料力学とは何か?

材料力学とは、材料が外部から力を受けたときにどのように変形するか、どの程度まで力に耐えられるのか、そして壊れるときのメカニズムはどうなっているのかを科学する分野です。
この知識は橋梁、自動車、家電、産業機械など あらゆるものづくりの基盤となります。

力が加わると材料には「応力」と「ひずみ」が発生します。
「応力」とは単位面積あたりにかかる力、「ひずみ」とは元の長さに対してどれだけ変形したかを示す割合です。
たったこれだけの定義ですが、これが設計や不具合解析の出発点になります。

応力ひずみ曲線と材料の性質

材料によって力に対する変形の仕方は異なります。
金属や樹脂、セラミック、ゴムなど、それぞれ特性を持っています。

特に金属材料では「応力ひずみ曲線」が重要です。
これは「初期の直線域(弾性域)」「比例限界」「降伏点(弾性から塑性へ)」「最大応力点」「破断点」といった区分で説明します。
これによって、「この部品はどれくらいまでの力に耐えるのか?」を予測できるのです。

製造現場では過大な応力で部品が破断し、ラインが停止する事例も多くあります。
熟練者のカンに頼らずとも、応力ひずみ解析を通じて設計時点で安全率まで含めた強度確認が可能となります。

強度・剛性・靱性:製品ごとに異なる最適解

材料力学には様々な設計指標があります。
例えば「強度(壊れるまでの強さ)」「剛性(変形しにくさ)」「靱性(粘り強さや衝撃に対する耐性)」などです。

例えば自動車のシャーシには「剛性」、エンジン部品には「強度」、サスペンション周りには「靱性」がとくに重要となります。
要件を満たす材料選定と設計最適化には、材料力学理論と現場データの両輪が不可欠です。

有限要素法(FEM)とは何か

なぜFEM解析が必要なのか?

昭和の時代、図面上で手計算やゲージ試験によって部品の強度を見積もってきました。
しかし部品形状が複雑化し、各部で応力が集中する現代の製品では、手計算だけに頼るのは危険です。

「有限要素法(Finite Element Method、FEM)」は、構造物を細かな「要素」に分割し、それぞれの変形や応力をシミュレーションする最新の数値解析技術です。
設計段階や試作段階で「どこに応力が集中するのか」「どれくらいの荷重で壊れるのか」を予測するために、いまやFEM解析なしでは信頼性設計が成立しないほど、重要な手法といえます。

FEM解析の基本プロセス

FEM解析は次のステップで進みます。

1. モデル化(3D-CAD等で実物形状を取り込む)
2. メッシュ化(部品を数千〜数百万の「要素」に区切る)
3. 材料物性値の設定(ヤング率、ポアソン比、降伏応力等の入力)
4. 荷重・境界条件の設定(どこを固定し、どこに力がかかるか)
5. 解析の実施
6. 応力・ひずみ分布の結果解析
7. 設計フィードバック・最適化

大量の要素分割と複雑な計算が必要ですが、近年の計算機能力やクラウドサービスの進化で、中小企業や現場レベルでも活用できる時代が到来しています。

FEM導入の現場的メリットと注意点

FEMの現場導入によるメリットは、設計変更のスピードアップ、不良率の低減、トラブル予知、試作や型費の削減、品質保証力の向上です。

一方で現場では「FEM結果を信じすぎる危険性」「材料データの精度」「現実の荷重条件との乖離」などに注意が必要です。
屁理屈に強いだけの“解析屋”にブラックボックス化させず、「なぜこの応力値になるのか?」を現場の知見と合わせて読み解くことが、製造現場の新たな実力といえます。

応力ひずみ解析による設計最適化への応用

応力集中・疲労破壊の予防に生きるFEM

現物サンプルの繰り返し試験だけでは発見できない微細な応力集中。
FEM解析を活用すれば、従来型の“見えないリスク”も可視化できます。

例:プレス加工品の曲げ部、鋳造部品の肉厚変化部、樹脂成型品のジョイント部などは局所的に応力が集まりやすいポイントです。
FEMで応力分布を確認することで、現場力だけでの判断では見逃されがちな「疲労破壊」や「クラック発生箇所」の予知が可能となります。

安全率とコストダウンのジレンマを解決

部品強度の設計では、安全率を大きく見積もればコストが跳ね上がり、逆にギリギリを攻めると現場トラブルやリコールリスクが高まります。
FEM解析で「最低限必要な材料量」「最適な肉厚」「リブ追加の効果」などを事前検証することで、安全確保とコストダウンのバランスを高い次元で両立できます。

定量的な証拠データも得られるため、バイヤーや調達担当者がサプライヤーや社内で合理的な説明を行う場合にも、大きな説得材料になるのです。

新素材・新工法チャレンジの加速剤として

カーボンニュートラル、軽量化、自動車の電動化などの潮流のなかで、新しい材料(高張力鋼板、アルミ合金、複合材など)の活用が加速しています。
現場では「いったいどこまで使えるのか?」「工程や歩留まりはどうなるのか?」という不安も多いですが、FEM解析による材料評価や工法開発のシミュレーションは、未知のチャレンジを後押しする強力なツールとなります。

調達・購買バイヤーとサプライヤーにも役立つ材料力学とFEMの知見

調達・購買の最適化に科学的視点を

調達や購買のバイヤー業務では、従来は「過去の実績」「単価比較」「安全率の過大設定」など感覚的な判断に依存してきました。
材料力学とFEM解析結果をロジカルに用いることで、「なぜこの材料・形状にするのが最適なのか」「どこまで薄肉化、軽量化できるのか」といったサイエンスに基づく交渉・判断が可能となります。
適正なコストと高い品質の両立が実現できます。

サプライヤーが知っておくべきバイヤーの「リスク思考」

サプライヤーが現場主体の古いやり方に固執していると、設計やバイヤーとのコミュニケーションで齟齬が発生しやすいです。
FEM解析結果や材料力学の根拠をもって、「当社の提案はこの安全率と解析値に基づいています」と示せれば、相手に根拠ある安心を与え、受注獲得力も大きく向上します。

逆に「現物合わせ」や「カンと経験」だけでは、リスクを気にするゼロディフェクト志向のバイヤーからは選ばれなくなりつつあるのです。

昭和的アナログ体質からの脱却と、今後の展望

現場力×数値化のハイブリッドで進化する日本のものづくり

これからのものづくり現場は、昭和的な現場力(観察眼、修正力、改善精神)と、FEM解析などの科学的数値化手法を巧みに組み合わせた“ハイブリッド進化”がカギとなります。
特に若手技術者や異業界からの転職者には、「材料力学の基礎」と「FEMを使った根拠ある判断力」の両面をバランスよく身につけることが武器となります。

FEM解析の民主化と、サプライチェーン全体の強靭化

今やFEMツールは大手だけでなく、中小サプライヤーにも普及しつつあります。
サプライヤーが自社で事前に解析を行い、「この設計なら応力集中もクリアし、コストも抑える」と自信をもって提案できれば、バイヤーやOEMメーカーからの信頼度は格段に向上します。

AIやIoTとも連携した「リアルタイム応力監視」など、これからのスマートファクトリー化時代においても、材料力学とFEM解析の素養は、サプライチェーン全体を強靭にする原動力なのです。

まとめ:材料力学とFEMが製造業の未来を切り拓く

材料力学の基礎と有限要素法による応力ひずみ解析は、設計・製造現場の見えないリスクを見える化し、より安全で合理的なものづくりを実現する根幹技術です。
昭和的な現場力を最新解析で磨き上げることで、製造業はさらに高い競争力を獲得できます。

調達やバイヤー、サプライヤーとしても、「なぜこの選択なのか」を科学的に説明し、合理的な交渉が可能となります。
日本の製造業の持続的進化の基礎として、材料力学とFEM解析の知見を現場で積極的に活用していくことを、強くおすすめします。

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