投稿日:2025年6月23日

レオロジーの基礎と測定評価法と製品開発への活かし方事例

レオロジーの基礎とは何か

レオロジーという言葉は、あまり日常で聞く機会は多くありません。
しかし、製造業に携わる方々、特にバイヤーや生産技術、品質管理担当者には極めて重要な概念です。

レオロジー(Rheology)は、ギリシャ語の「流れる」という意味の言葉に由来します。
簡単に言えば「物質の流動や変形に関する科学」です。

液体、半固体、固体など、あらゆる材料が外力によってどのように形を変えるのか、流れるのかに着目します。
この学問はゴム、プラスチック、接着剤、食品、塗料、インク、化粧品、合金、セラミックスなど多岐にわたる素材に関係します。

なぜ今レオロジーが注目されるのか

デジタル制御や自動化が加速している現代工場で、従来の「経験と勘」だけに頼った品質管理・購買判断には限界があります。
生産ラインの自動化・高速化が進む一方で、微妙な素材の流れや硬さ、粘り気などの「数値化しにくい特性」が製品クオリティを左右しています。

ここでレオロジーの知見が活きてきます。
例えば、樹脂成形や食品加工において、「ちょうど良い粘度」「理想的な伸び」「的確な固さ」など、定量的なレオロジー評価なくしては、高度な製品開発も、ムダのない購買も成立しません。

レオロジーの基本用語と測定項目

レオロジーを理解するためには、以下のような用語を押さえておく必要があります。

粘度(Viscosity)

流体がどれだけ流れにくいか(=どれほど粘りがあるか)を示す尺度です。
水はサラサラで粘度が低く、ハチミツやモーターオイルは高粘度です。

弾性(Elasticity)と塑性(Plasticity)

弾性は外力を加えても、元に戻ろうとする力。
塑性は変形したまま戻らない性質です。
バネと粘土を例にすれば、イメージしやすいでしょう。

粘弾性(Viscoelasticity)

粘り(粘度)と弾力(弾性)を同時に持つ性質です。
食品のネバリや、ゴム、樹脂など多くの素材はこの粘弾性を持っています。

せん断応力、せん断速度、ひずみ

材料が変形する際にかかる力と、その時の様子を数値化します。
これらを測定することで「何がどの程度の力で、どのように流れる・変形するか」が定量的にわかります。

主なレオロジー測定評価法

材料の特性を正確に把握するには、各種測定法が活用されます。
現場の実務では、装置選定とデータ解釈力も問われます。

回転型粘度計

シリンダーやスピンドルを回転させ、その時にかかった力から粘度を算出します。
樹脂、インク、塗料、オイルなど、広範な分野で活躍します。

キャピラリー型レオメーター

細い管(キャピラリー)を素材が通過する際の圧力から、粘度やせん断特性を測定します。
特に高分子材料や高粘度樹脂の評価に多用されます。

振動型・せん断型レオメーター

材料にごく微小な振動やせん断を与え、応答を測定。
粘弾性(E’、E’’、tanδなど)解析に優れ、ゴムの加硫特性やゲル化挙動、食品や化粧品の物性評価に使われます。

テクスチャーアナライザー

押し込みや引張、破断などの動作を通じて、食感や感触、破断強度などを定量化します。
食品、医薬品、紙パルプなどの分野で活用が拡大しています。

現場での測定・QCツール

JIS規格に則ったバー粘度計、ボールフォール粘度計、簡易ペンネトロメーター(硬さ測定)など、現場ラインで使える測定機器も重要です。
近年は、IoT連携型で自動計測+データ蓄積する機種も登場し、従来の「人によるばらつき」を抑えたQCが現実になっています。

昭和時代から抜け出せない現場に潜む課題と、デジタル化の壁

現在でも多くの工場では、「手触り」「見た目」「長年の経験則」を重用する文化がしぶとく残っています。
これには、現場力を大切にする日本独特のよさもありますが、グローバル競争・品質保証・トレーサビリティの観点からは大きなリスクとなりつつあります。

アナログ主義の限界

・QC担当者によって測定結果が変わる(ヒューマンエラー)
・文書化されないノウハウ、新人継承の難しさ
・バッチ毎の微細な違いを検知できない
・海外顧客や自動車OEMの厳格な仕様に対応できない

このような課題の解消には、レオロジー評価のデジタル標準化と、教育研修が不可欠です。
先進工場では、レオロジーデータをサプライヤー管理や、FOB(Free On Board)取引、EPCM(Engineering, Procurement, Construction Management)時の品質交渉に活用する動きが加速しています。

バイヤーが知っておくべきレオロジー評価と活用ポイント

バイヤーや購買担当者の立場では、
「取引先A社のインクはなぜ生産トラブルが少ないのか?」
「新素材候補の安定品質をどう見極めるか?」
「コストダウンのために類似品を購入しても、流動性が異なり機械トラブルとなる」
このような課題にしばしば直面します。

ここで重要になるのが、レオロジー評価です。
同じ「粘度50,000mPa・s」であっても、温度依存性やせん断速度依存性、始動粘度と定常粘度の違い、徐々解離の有無など、1つの数値だけでは語れない隠れた違いが存在します。

サプライヤーの立場でも活かせる

サプライヤーの営業・技術担当者も、「自社製品のレオロジーデータ」を用意し、顧客先(バイヤーや生産技術担当)との交渉に臨むことで、価格交渉力・差別化アピールが高まります。
納入時だけでなく、仕様変更やトラブル発生時にも、トレーサビリティの観点から極めて重要です。

製品開発・工程設計へのレオロジー活用事例

レオロジーを「カタチだけの測定」ではなく、「新たな価値創造」に役立てた事例をいくつか紹介します。

事例1:生分解性プラスチックの金型充填トラブル改善(自動車部品)

新素材の生分解性プラスチックは、環境適合というメリットの裏側で、従来品よりも粘度特性が大きく異なりました。
成形時の金型充填不良が頻発。

プロセスエンジニアはキャピラリーレオメーターで温度×せん断速度条件ごとの粘度曲線を解析。
最適成形条件を設定することで、歩留まりと製品寸法ばらつきを大幅に改善しました。

このデータを元にバイヤーが「類似仕様で安価な海外品を検討」する際、粘度特性の違いから
「見た目は同じでも製造ライントラブル増加リスクあり」と早期に判断できました。

事例2:食品の“食感”開発(冷凍食品・惣菜分野)

冷凍食品メーカーでは、加熱後の「もっちり感」や「プリっとした歯ごたえ」の再現が新製品開発のカギです。
テクスチャーアナライザーや動的粘弾性解析を駆使し、加熱・冷却・解凍プロセスで変化する物性を数値化。
消費者の食味官能結果とレオロジー評価のデータをひも付け、製品のリニューアル・改良に活かしました。

事例3:ゴム部品の低温クラック対応(建材・自動車)

ゴムシール製品の市場クレームで、低温下での割れ発生原因を調査。
DMA(動的粘弾性測定)で温度依存特性を分析し、従来品よりもガラス転移点(Tg)近傍の粘弾性値を絞り込むことで、対策配合を開発。
バイヤーも「どの工程条件でどのレオロジーデータが品質に効くのか」を理解し、調達基準の適正化につなげました。

まとめ:レオロジーは未来の製造現場の共通言語

製造業の現場はデジタル変革・グローバル化の波にさらされ、取り扱う素材の多様化・複雑化が進んでいます。
「レオロジー」という共通言語を持つことで、バイヤー、エンジニア、サプライヤーの意思疎通が円滑になり、無駄なトラブル・手戻り・コストことを減らせます。

そして、昭和型の「勘」「経験」だけではない、定量的で納得感ある製品開発や工程管理が進みます。
ぜひ、このレオロジーの基礎と評価法を「自分の現場・取引先・製品開発」に取り込み、次世代のものづくり、賢い調達、クリエイティブな設計に活かしていきましょう。

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