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他社特許における権利範囲の判断と対抗・防衛策のノウハウ

目次
はじめに:製造業における知的財産リスクの現状
製造業はデジタル化やグローバル化の波を受け、かつてないほど変化のスピードが増しています。
その一方で、製品や部材の技術的優位を確保するために、特許を始めとする知的財産権(IP)に関わるトラブルも急増しています。
特に昭和から続くアナログ思考が残る日本の工場現場では、「特許は開発部だけの話」「うちには関係ない」と捉える向きも少なくありません。
しかし、調達・購買、生産管理、品質管理など広範な現場業務でも、他社特許に抵触するリスクが現実的な脅威として存在します。
本記事では、20年以上の製造業実務経験と現場管理職の視点から、他社特許の権利範囲の判断方法や、バイヤー・サプライヤー双方に必要な防衛策・対抗策のノウハウを詳しく解説します。
知的財産のリテラシーを高め、トラブル回避や競争優位の武器として活用するための参考としてご活用ください。
特許権とは何か?基礎知識と業界動向
特許の基本と業界に与えるインパクト
特許権とは、発明を独占的に実施(製造・販売・輸出・輸入)できる法的権利です。
ポイントは「独占排他権」であり、特許取得者は他社の実施を禁じる権利を持つのみならず、ライセンスや訴訟を通じたビジネス戦略にも活用できます。
近年は製造プロセス、装置、材料、IoTやAI技術まで広範囲な技術が対象となり、トヨタや三菱電機など大手メーカーのみならず、中小・部品サプライヤーでも特許網が広がっています。
また、グローバル展開や中国・新興国の台頭で、特許取得・調査の重要性はますます高まっています。
製造・調達購買現場での特許リスクとは
「開発部に任せれば良い」と思いがちですが、実際には仕様書作成・図面流用・部品選定など日常的なオペレーションに、他社特許への抵触リスクが潜んでいます。
特に下請けの立場、あるいは委託先サプライヤーとのやりとりで、特許トラブルが製造現場や調達・購買の段階で発生する事案も増えています。
また、近年は「特許調査サービス」や「特許クリアランス報告書」を要求するバイヤーが増加しつつあり、サプライヤー側も特許への意識変革が不可欠となっています。
他社特許の権利範囲を判断するポイント
請求項(クレーム)を読み解く力が必須条件
特許権の権利範囲は、基本的に「請求項(クレーム)」という技術的記載によって定義されます。
このクレームをどう解釈するかが、実際の侵害判断や設計回避の肝となります。
典型的なミスとして、「似ていなければ関係ない」「構成部品が全く同じでなければ大丈夫」と安易に考えるケースが挙げられます。
しかし、特許は技術思想の本質部分を幅広くカバーしており、「一部形状を変えただけ」「表現を置き換えただけ」では抵触する可能性があります。
現場では、製品図面の表現とクレームの記載とを“突き合わせ”、クリティカルパーツや工程が権利範囲内に含まれるかを徹底して確認しましょう。
均等論と非侵害論の実際
製造現場でよく話題になるのが「均等論」と「非侵害論」です。
均等論とは、製品が特許クレームの構成要件と形は違えど、実質的に同等であれば侵害と認められる理論です。
逆に、製品やプロセスがクレームから明確に逸脱している場合、「非侵害論」として防衛できます。
均等論が認められる・認められないボーダーは実務上極めて曖昧なので、設計・購買の現場単独判断は危険です。
常に専門家(知財部門や弁理士)との連携が不可欠ですが、少なくとも「要件分析表」を使い、権利主張の根拠を論理的・ドキュメント化することが現場力強化につながります。
関連特許・周辺特許にも注意
主特許だけでなく、その周辺に補完的な関連特許が存在することが珍しくありません。
特に完成品・ユニット単位での特許検索だけでは漏れが発生しやすく、部材やサブアセンブリーの各工程ごとに特許リスクを分解・ヒアリング・調査する必要があります。
バイヤーとしては、単なるスペックやスペックインだけでなく、特許調査、検索レポート取得の手間とコストをプロジェクトスケジュールに組み込むことがリスク低減のポイントです。
特許クリアランス調査と現場レベルでの防衛策
特許クリアランス調査の進め方
特許クリアランス調査とは、自社製品・部品が他社の特許権利範囲に抵触しないかを事前確認する作業です。
設計初期段階から「該当技術分野・関連キーワード」に基づく検索を行い、発明の主要要素を抽出します。
次に、発見した特許リストから、各クレームの内容と自社仕様を突き合わせ、「権利範囲外か」「関連するが参入余地があるか」「明確にバッティングするか」を分類し、リスクレベルを評価します。
ここで重要なのは、「グレーゾーン」を見逃さないことです。
明白な侵害でなくても、特許権者が権利主張してきた場合、裁判・損害賠償・製品回収など巨大なリスクにつながるため、サプライヤーやバイヤーは必ず報告・協議フローを確立しましょう。
設計変更による回避策の実践
比較的コストの小さい防衛手段として「設計変更による回避」が挙げられます。
例えば、特許クレームに「A部とB部をねじで固定した構成」とあれば、「溶接や接着による固定」に置き換えることで非侵害主張が成立する可能性があります。
ただし、品質・性能・安全要件も踏まえた上で、“本当に特許を回避したか”は自社判断のみでなく専門家と協働で確認を行うべきです。
この際、変更履歴・意思決定プロセスを文書化し、将来の万一の訴訟に備えてエビデンスを残しておくことも重要です。
サプライヤー・バイヤー間の知財対応規定
近年、大手バイヤーでは「特許保証条項」をサプライヤー契約書に明記するケースが増加しています。
これは、納入品が一切第三者特許に抵触しないことをサプライヤーが保証し、万一訴訟になればサプライヤーが連帯して責任負うことを義務付ける条項です。
サプライヤー側は安易な保証は避けつつ、「自社調査の実施範囲」「免責事項」「協議手続き」など契約上のチェックポイントを必ず明記し、一方的なリスク負担を回避する交渉力が必要です。
また秘密保持契約下での図面・技術情報の授受や共同調査のルールも明文化し、情報リスクを遮断しましょう。
対抗措置と”攻め”の知財活用ノウハウ
他社特許に対する無効審判・異議申し立て
他社の特許があまりにも広く、業界慣習や既知技術(先行技術)にもとづいている場合は、「特許無効審判」「異議申し立て」が有効な対抗手段となります。
例えば、「公知文献」で既に明らかにされていた内容と同一、あるいは特許性の要件を満たしていないケースが該当します。
無効理由が明確であれば、「警告を受けた」「侵害を疑われた」段階で積極的な無効の主張を行い、交渉カードとすることで損害拡大を抑制可能です。
クロスライセンス・共同開発の持ち込み
取引規模や技術分野によっては、”敵対”よりも”共存共栄”を模索した「クロスライセンス契約」「共同開発」も有効な選択肢です。
特許の一方的主張でなく、相互の特許を評価の上でライセンス契約を締結し、市場での競争優位を維持しつつ、紛争リスクを最小化するバランシング戦略です。
実際に自動車・家電など成熟産業では「クロスライセンス網」が複雑に張り巡らされており、自社単独主導の限界を超える新たな競争戦略として注目されています。
サプライヤーの立場でも、自社の開発成果やノウハウの特許化・知財収益化で、単なる受注業者から知財戦略パートナーへの進化を目指せます。
模倣品・不正競争への自衛策
クラウド化・グローバル調達の時代は、模倣品・特許侵害部品の混入も現場の大きな課題です。
調達購買・QC担当者は、”仕様適合”のみならず、「知財クリア宣言書」や「出荷証明書」の提出を契約で義務付け、問題発覚時はいち早く弁護士・知財対策チームへ連携できるよう体制強化を図りましょう。
同時に、独自の技術コンテンツやブランド保護も並行して進め、知的財産リスクの”守り”と”攻め”の両立が求められます。
まとめ:知財リテラシーで新しい価値を創造する現場力へ
昭和的なアナログ思考が根強い製造業界ですが、構造変化と競争激化、法律リスクの多様化により、全社員・すべての現場担当者が知財リテラシーを持つ時代に突入しています。
他社特許権利範囲のベーシックな読み方・現場でのクレーム分析力、設計段階から調達・品質管理まで横断的なリスク評価、サプライヤー・バイヤー双方での知財契約戦略、そしていざという時の攻守の対策まで。
今や知財は“開発部門だけの問題”ではなく、現場のあらゆる業務に根付く競争力の源泉です。
いつまでも「うちは大丈夫」と油断せず、広く学び続けることで、製造業の未来と現場の価値創造に貢献できる人材・組織として進化していきましょう。
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