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プラスチックトライボロジー基礎と摩擦摩耗低減材質選定製品開発応用

目次
はじめに:プラスチックトライボロジーの重要性
近年、産業・社会インフラの多様化やグローバル化により、現場で求められる技術や素材のニーズは著しく進化しています。
その中で、「摩擦」と「摩耗」を制御し、効率化や長寿命化を図る「トライボロジー」は、製造業の根幹を支える技術領域です。
とくに、金属材料から樹脂(プラスチック)への置換が進む昨今、プラスチックトライボロジーの重要性はますます高まっています。
本記事では、現場目線でプラスチックトライボロジーの基礎、摩擦・摩耗低減の素材選定方法、さらに製品開発への応用まで、幅広く解説します。
アナログな部分が根強く残る製造現場でも、即実践できる示唆をお伝えします。
プラスチックトライボロジーとは何か
トライボロジーの定義と応用範囲
トライボロジー(tribology)は、摩擦(friction)、摩耗(wear)、潤滑(lubrication)の3要素を中心に、固体表面同士の相互作用を科学的に扱う学問分野です。
産業機械、自動車、家電から医療機器まで、あらゆる分野で「摩擦と摩耗は避けて通れない課題」となっています。
この中で、従来は金属が主役だった可動部・摺動部でも、プラスチック部品へのシフトが顕著に進むようになりました。
なぜいま”プラスチック”なのか?
その主な理由は3つです。
1つめは軽量化による省エネ・効率化。
2つめは耐食性・絶縁性・自己潤滑性など、金属では出せない多様な物性の実現が可能なこと。
3つめは複雑な形状加工性や大量生産性に優れ、コストパフォーマンスを高めやすい点です。
つまり、”省エネ・高機能・コスト削減”という製造現場の三大テーマを満たしてくれる素材として、プラスチックトライボロジーの研究と技術開発が急速に発展したのです。
摩擦と摩耗の基礎知識
摩擦係数とは
摩擦現象を定量的に表す指標が「摩擦係数」です。
静止状態で物体がすべり始める時の「静摩擦係数」と、滑り始めて動いている時の「動摩擦係数」があります。
この摩擦係数が低いほど、滑らかに動作しやすく、発熱や消費エネルギーも減らせます。
金属材料同士の場合、摩擦係数はおよそ0.3~0.6程度が一般的ですが、自己潤滑性を持つプラスチック化合物なら0.1~0.3まで低減できるケースもあります。
摩耗のメカニズム
摩耗は、固体表面が接触し相対運動が生じる際に、素材表面の一部が徐々に削られて失われる現象です。
主な摩耗形態は以下の4つに分類されます。
- アブレージョン摩耗(擦り減り摩耗):表面の凸凹や異物による物理的な削り取り
- アデージョン摩耗(付着摩耗):摩擦面同士が部分的に溶着し、次いで剥がれる現象
- 疲労摩耗:繰り返し応力によるクラック発生と破損
- 腐食摩耗:化学反応や環境要因と摩擦の相乗作用による摩耗
プラスチック材料は比較的柔らかいため、「アブレージョン摩耗」「アデージョン摩耗」への対策がポイントとなります。
摩擦低減・摩耗抑制の素材選定ポイント
合成樹脂の種類と特性
プラスチック部品の基本性能は「ベース樹脂」に依存します。
よく使われる代表的な耐摩耗性樹脂を挙げます。
- POM(ポリアセタール):高強度・耐摩耗・自己潤滑性に優れる。ギアや軸受で広く採用
- PA(ポリアミド・ナイロン):機械強度・耐熱性が高く、自動車・機械分野で定番
- PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):最強クラスの低摩擦(摩擦係数0.04)、耐薬品性も抜群。ただし、強度は低め
- PPS(ポリフェニレンサルファイド):耐熱性・難燃性・耐薬品性に優れ機械強度も高い
- PEEK(ポリエーテルエーテルケトン):超高性能。耐摩耗・耐熱・耐薬品すべてで最上位
フィラー(充填剤・添加剤)の活用
さらに近年では、単なる樹脂素材ではなく「フィラー」と呼ばれる添加剤による高機能化が主流です。
代表的なものには、
- カーボン系:滑り性を高め強度も補う
- ガラス系:耐久性や寸法安定性UP
- モリブデン、PTFE微粉末:極限まで摩擦低減
- シリカ、タルクなど無機系:摩耗削れカスの発生抑制
フィラーの種類や配合量、粒径のコントロールによって、まさに”カスタムオーダー”のように性能チューニングが可能です。
摺動相手との組み合わせ設計
意外と見落としやすいのが、”摺動相手材”との相性です。
相手が金属なのか、プラスチック同士なのか、あるいはコーティングや表面処理材なのか。
表面粗さ・硬度・熱伝導率などの物性やせん断特性もセットで考慮しないと、せっかく高性能樹脂に変えても、早期摩耗や焼き付き、鳴き音など新たなトラブルが隠れています。
現場では「必ず試作実機での寿命試験」まで入れることが失敗しない鉄則です。
摩擦・摩耗対策の実践ノウハウ
設計段階でのチェックポイント
自動化・省人化が進む現場ですが、設計ミスや想定外のトラブルは案外多いものです。
以下の5つを押さえておきましょう。
- 荷重(面圧)は部分的に極端になっていないか
- 摺動速度と温度上昇の見積もりは実態に即しているか
- 潤滑油やグリスの使用有無、それが部品寿命や安全規格にマッチしているか
- 定期的・自動的なメンテナンス性を担保できているか
- 粉じん・化学薬品・水蒸気等の環境条件は十分想定されているか
理論値だけでなく「現場検証⇔設計修正」のPDCAサイクルがきわめて重要です。
現場でよくある失敗例とその教訓
私の現場経験から、失敗しやすいパターンは次のようなケースです。
– コストダウン最優先で、材料グレードを根拠なく下げて早期摩耗
– 金属同士から安易にプラスチック置換したが、熱発生や変形でやはりトラブル
– 摩擦特性を重視しすぎて、他の物性(耐薬品性・化学的安定性)を見落とす
– モータートルクや制御条件が設計と現場で合っていない
これらの失敗から学べるのは、「1つの特性だけに囚われず、必ず現場・現物での評価を重ねること」です。
ハイスペックなプラスチックでも、必ず固有の弱点があります。
プロジェクト管理をする立場でも「現場に足を運び現物を触る仕事の癖付け」こそ非デジタル時代から活きてくる成功の鍵です。
アナログ志向の現場×最新樹脂技術の融合
昭和の時代から変わらぬ「現場の職人感覚」こそ、日本の製造業の強さの源です。
しかし、高度な一品一様品だけでなく、大量生産やグローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)の競争では、「誰でも正確に使いこなせる材料選定やトラブル予防策」が求められています。
たとえば現場ヒアリングを通じて、「どこで潤滑グリスが切れるのか」「どこで粉じんが詰まるのか」「どこで熱ひずみが出るのか」など、本当に起こる現象を精緻に洗い出す力が重要です。
そこに、最新の樹脂配合技術やAIを活用したトライボロジー解析を掛け合わせることで、「人の勘」と「科学」が補完し合う、より強靭な現場改善へとつながっていきます。
バイヤー・購買担当目線での材質選定とサプライヤー連携
バイヤーが重視すべきポイント
部品発注や新規調達の際、バイヤーはどこを重視すべきでしょうか。
重要なのは「カタログスペックに惑わされず、現場適合性」と「総合コスト=材料費+メンテ費+ダウンタイムロス」だと現場経験者として感じます。
製品寿命が2倍に伸びれば、単価が2割高くても十分効果がありますし、アップタイム(無停止率)向上は工場全体の安全・収益にも直結します。
また、日本の現場では「数値化されない不具合対応」や「突発修理の手間」など目に見えないコストに注目しましょう。
サプライヤー側のヒント:バイヤーは何を見ているか
サプライヤー(供給企業)が商品や新素材を提案する際、バイヤーの視点を知ることは大変有利です。
多くのバイヤーは「量産時の安定供給力」「トラブル時の緊急対応力」「技術サポート力」など、材料スペック以上の”安心・信頼”に重きを置きます。
とくに現場の声を反映したサンプルテストや現地サポート事例、またデジタルツールや遠隔支援が活かせると、他社との差別化ポイントとなります。
昭和的な”御用聞き”から一歩進めて、能動的提案型サプライヤーとしての付加価値を磨くことが、業界全体の発展につながります。
今後の業界動向と競争力強化のヒント
デジタル時代のトライボロジー×現場適応
IoTやAI解析による、「現場の見える化」「予知保全」「摩耗シミュレーション」は急速に実用化しています。
ただし、数値指標やアルゴリズムに依存しすぎて”現場起点のものづくり”が形骸化すると、思わぬ不具合や”原因不明のダウン”に悩まされます。
理想は、アナログ時代の現場力+デジタル自動化の”ハイブリッド化”です。
「樹脂材のデータバンク×現場検証ノウハウ」を活用して、摩耗トラブルの未然予防や、サイクルタイム短縮、保守コスト低減などバリューエンジニアリングを進めましょう。
まとめ:昭和から令和へ、プラスチックトライボロジーの新たな地平を切り拓く
プラスチックトライボロジーは、単なる部品コスト削減のための技術ではありません。
摩擦と摩耗ひとつとっても、現場目線で本質を深堀し続けることで、「省エネルギー」「長寿命化」「信頼性強化」を同時に実現できる大きな可能性があります。
アナログとデジタルが交差するこの時代、「実機による徹底テスト」「設計⇔現場現物のフィードバック」「サプライヤーとのオープンな連携」といった昭和から受け継がれる現場流儀を携えつつ、データや新材料と巧みに組み合わせて、唯一無二の製品・現場力を追求していきましょう。
製造業現場で働く皆様、技術系バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバリュー提案に挑戦したい方の一助となれば幸いです。
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