投稿日:2025年7月2日

昇格後マネジメント力を最大化するリーダーシップ実践講座

はじめに:リーダーシップが求められる時代背景

日本の製造業は、デジタル化やグローバル化の荒波にさらされる一方で、依然として古き良き昭和の職人気質やアナログ文化が色濃く残っています。
とりわけ、現場主導型の伝統と規律、そして「現状維持は後退である」という価値観が複雑に絡み合い、現代の管理職やマネージャーのリーダーシップには新旧双方のバランス感覚が強く求められています。

そのような中、昇格を果たしたばかりの新任マネージャーや、これから管理職を目指す方、さらにバイヤー・サプライヤー関係で自社を力強く牽引したい方にとって、「リーダーシップとマネジメント」の実践的な知見は必要不可欠です。

この記事では、20年以上の現場経験を持つ視点から、アナログ業界特有の事情もふまえつつ、昇格後すぐに現場で役立つリーダーシップ実践ノウハウを解説します。

昇格したら最初に取り組むこと:現場の空気を“聴く”

マネジメントは「傾聴力」から始まる

新任マネージャーの多くは、プレーヤー時代の成功体験から「指示命令型」のリーダーシップに傾きがちです。
しかし、現場のベテランや多様な価値観を持つ若手が混在する現代の工場では、まず“現場の声をまっすぐに聴く”ことが最重要課題です。

部下の小さなつぶやきや、ベテランが感じている違和感、サプライヤーからの不満や将来への不安。
こうした「言葉にならない空気感」まで敏感にキャッチする傾聴力こそが、マネジメント力の基盤となります。

昇格直後は、積極的に現場での一対一面談や小集団での雑談の場を設け、率直に“耳を傾ける”ことから始めましょう。

見抜け!「昭和の壁」と「デジタルネイティブ」のすれ違い

製造業の現場では、長年積み上げた習慣や作法が「目に見えない壁」を作りがちです。
昭和的な上下関係を重んじるベテラン世代と、成果重視・効率化志向の若手世代の間にはしばしば溝があります。

リーダーとしては、いずれにも肩入れせず、公平・公正な姿勢で双方の価値観や主張を丁寧に可視化し、認め合える場づくりを意識することが肝心です。

デジタル活用や自動化の推進も、反発や戸惑いを無視せず寄り添いながら「なぜ変えるのか」「どんなメリットがあるのか」を粘り強く説明しましょう。

実践!マネジメント力を高めるリーダーシップ手法

目標設定は“三方よし”思考で取り組む

部下のモチベーションを上げ、組織の成果を最大化するうえで最も重要なのが「目標設定」です。
ここで大切なのは、「上司(会社)・現場(部下)・取引先(サプライヤーやバイヤー)」の三方にとってメリットがある目標を設定することです。

例えば、「コスト削減だけ」を求めれば現場の士気が下がり、安易な協力会社いじめにもつながりかねません。
「品質」「納期」「働きがい」「パートナー企業の発展」など総合的な視点で、Win-Winを作る目標を掲げることが信頼を得る第一歩となります。

現場の改善提案やQCサークル活動も、部門単位で終わらず、取引先や関係部門と横断的に共有してノウハウを循環させましょう。

ラテラルシンキングで“新たな地平”を開く

製造業の管理職には、既成概念に縛られず斬新な発想を生み出す「ラテラルシンキング(水平思考)」が不可欠です。
たとえば、“こうあるべき” “昔からこうしてきた”という固定観念にこだわり過ぎず、「もしも違う業界だったら?」「逆の立場だったら?」と問い直してみましょう。

私自身の経験では、調達購買のコスト改善において、工程ごとにサプライヤーを分断する従来手法から“ワンストップ調達化”を提案し、取引先の工場長と“一枚岩”になってリードタイム短縮に成功したことがあります。
このように、業界の常識を一度リセットし、現場目線・サプライヤー目線・バイヤー目線で多角的に考え直すことで、想像以上のブレークスルーが実現します。

問題解決は「現場主義」×「データ活用」で

不良品の発生や納期遅延などトラブルが発生したとき、現場経験の長いマネージャーほど「現物・現場・現実(3現主義)」を重視します。
これは極めて有効ですが、現代はIoTやBIツールなどデジタルデータを活用した“科学的アプローチ”との融合が求められます。

現場で目視やヒアリングによる原因究明を進めつつ、工程データの徹底分析やサプライチェーン全体の可視化にもチャレンジしましょう。
こうした“ハイブリッド型”問題解決力は、従来のアナログ思考から一歩抜け出した先にこそ、強力な武器となって現れます。

バイヤーとサプライヤー:パートナーシップ型リーダーシップの重要性

競争から共創へ、バイヤーの本音を知る

従来、調達・購買部門は「コストを叩く存在」と見なされやすく、サプライヤーとの間に“壁”ができがちでした。
しかし、現代の製造業では、単なる価格交渉を超えた「共創型パートナーシップ」が生き残りのカギとなっています。

サプライヤーの日々の苦労、工場長が頭を悩ます人材育成や技術継承の課題に寄り添い、「お互いの強みを統合する姿勢」を示しましょう。
そのためには、バイヤー視点では「品質・納期・コスト」の3要素だけでなく、「サプライヤーの持続的成長」「現場スタッフのやりがい向上」まで含めた最適解を常に探り続けることが大切です。

サプライヤーの立場であれば、「自分たちがどのような価値を提供できるのか?」を言語化し、単なる下請けから“提案型パートナー”へ進化する意識が必要です。

現場情報を“隠さず”開示し、真の信頼関係を築く

トラブルや計画ミス、納期遅延など、“都合の悪い情報”ほど早めに開示できる組織風土を築くことは、リーダーシップの一丁目一番地です。
『悪い情報は、できるだけ早く上げるほうが組織は強くなる』
私が工場長時代に叩き込まれたこの教訓は、バイヤー・サプライヤー関係でも全く同じです。

「どうしても今週の出荷に間に合わない」「想定外の品質問題が出た」など、現場で起きているリアルな課題を正直に共有しましょう。
発見と同時に“対策案”もあわせて報告するのがポイントです。
これにより「この人なら信頼できる」とバイヤー・サプライヤー双方の評価は格段に高まります。

リーダーシップを「仕組み」に落とし込むコツ

属人化しない!仕組み化のススメ

優れたリーダーほど、「自分しかできない状態=組織のリスク」と考えます。
現場で培った知識やノウハウも、マニュアルやeラーニング化、改善提案制度など「仕組み化」して残しましょう。

また、標準化することで「誰がやっても同じ品質」「忙しい人や新人も失敗しにくい現場」が実現します。
現場の課題感を経営に直言できる“窓口役”を立てる、工程ごとの業務分掌を明確にするなど、みんなで支え合える体制を早めに整えましょう。

育成型リーダーシップ=「任せて、信じる」

部下育成においては、「失敗を恐れずチャレンジできる環境」「考えて行動する機会」を積極的に与えることが重要です。
昭和の現場では“上司の顔色”を見て仕事をする習慣が根強く残っていますが、現代の管理職は“部下に任せて、信じる”タイプのリーダーシップが求められます。

小さな業務でも「ここは任せる」と宣言し、ちょっとした成功体験を積み重ねることが現場の活性化に直結します。
「指示待ち族」を脱却させ、自ら手を挙げてチャレンジする人材を育てましょう。

まとめ:リーダーシップ実践こそ、製造業発展の原動力

日本の製造業の底力は、現場の知恵と努力、そして困難な状況下でもあきらめず挑戦し続ける「人」の力にあります。

昇格後にマネジメント力を最大化するには、「現場の声に耳を傾ける」「既成概念を柔軟に見直す」「現実とデータを組み合わせて課題解決する」「共創型のパートナーシップを育む」「仕組み化と人材育成を徹底する」といった実践的なスキルが不可欠です。

昭和のよき文化を大切にしつつ、新しい発想やデジタル技術も積極的に取り入れる。
そして「やってみよう」「任せてみよう」と腹を括るリーダーの一歩が、現場と製造業の未来を大きく切り開くのです。

今こそ、現場目線×新時代視点で、最高のリーダーシップを実践していきましょう。

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