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自社技術をビジネス化するMOT流セールスエンジニアリング成功法

目次
はじめに:MOT流セールスエンジニアリングとは何か
製造業において、自社が培った技術力を如何にして新たなビジネスへ昇華させるかは経営の根幹とも言えるテーマです。
その手法として近年注目を集めているのが「MOT(Management of Technology)流セールスエンジニアリング」です。
MOTとは「技術経営」と訳され、技術を単なる研究開発や現場主導の改善だけにとどめず、企業の競争力や事業成長に直結させるための経営手法です。
一方、セールスエンジニアリングは、技術に精通した人材が営業活動を担い、顧客の技術課題を理解しつつ提案型のソリューションを提供するアプローチです。
MOTの考え方とセールスエンジニアリングが融合することで、今まで埋もれていた自社技術を「現場発」の目線でビジネス化し、競争優位につなげていくことが可能になります。
本記事では、現場経験豊富な筆者の視点から、MOT流セールスエンジニアリングの理論と実践ノウハウ、昭和のアナログ文化が根強い現場での課題と対応策まで、徹底的に解説します。
なぜ、技術は「売れない」のか?アナログ業界ならではの現実
多くの製造業では、優れた自社技術を持ちながら、なかなか売上につながらないという悩みがつきまといます。
その理由は多岐にわたります。
1. 現場と営業の分断
アナログ文化が色濃い製造業では「現場は現場、営業は営業」という意識が根強いです。
本来は密接に連携すべき両者が、現場は「技術のことは現場しか分からない」、営業は「顧客対応や値段交渉が最重要だ」といった姿勢にとどまりがちです。
これではせっかくの現場ノウハウや独自技術も、市場の本当のニーズと結びつけられません。
2. 顧客価値への変換力の不足
優れた技術も、それが「顧客から見てどう役立つのか」を言語化できなければ価値を発揮できません。
スペックや機能の自慢になってしまいがちで、「結局、それで私の悩みはどんなふうに解決されるの?」という問いに明快に答えられないケースが多いのです。
3. 成功モデルが未整備
日本のものづくり産業は長く下請け構造に依存し、高度成長時代の延長線上で「良いモノさえ作れば必ず売れる」という信仰が続いています。
しかし、現代の産業構造や顧客の購買スタイルは大きく変わりました。
工場の自動化やデジタルシフトの波に中途半端に乗りかけている会社ほど、このギャップを強く感じているはずです。
MOTの基本思想:技術の“意味”を売り込め
MOTの根幹は「技術をビジネスに変えること」にあります。
技術そのものではなく、技術がもたらす『意味』や『価値』にフォーカスし、それをいかにしてお客様にわかりやすく届けるかが重要です。
技術ベースの提案から、価値提供型への転換
たとえば「0.01mmの高精度加工ができる」ではなく、「医療機器メーカーの新製品開発工程で歩留まり率を10倍改善させられる」など、技術が誰の、どんな困りごとをどう解消できるかを語る必要があります。
ここで現場目線のアプローチが効いてきます。
「不良品削減につながる逸話」「1人何役も兼ねる現場の知恵」「納期遅れを未然防止した改善策」など、実体験や具体事例をセットにして語ることで、お客様の“腹落ち”を演出できます。
現場ファーストの情報発信を徹底せよ
ビジネスの決裁者には、しばしば現場感覚が伝わりにくい場合があります。
逆に調達や購買の担当者ほど、現実的な問題解決やコスト改善の具体像に強い関心を持っています。
現場係長や班長の等身大の体験談、苦労話とその解決策といった情報を生きた言葉で届けましょう。
専門専門した解説よりも、「ウチでも同じ苦労をしているから参考になる」と思わせる共感が、最初のハードルを突破するカギになります。
セールスエンジニアリングの役割と成功に必要な資質
単なる営業とセールスエンジニアの一番の違いは「現場技術の翻訳者」「ソリューション自体の設計者」である点です。
そして、この役割には従来の営業スキルに加え、現場経験や現場の知見が求められます。
1. バリューチェーン全体を見る目
調達~生産~品質管理~物流まで、バリューチェーン全体で「どこにどんな技術課題が潜んでいるか」を見抜く力が必要です。
製造現場のマイクロな課題もサプライチェーン全体の流れに昇華し、「サプライヤーがここを改善すると、バイヤーはこう動く」といった構造を想像できるようになります。
2. アナログ現場の“クセ”も理解する
いまだに紙の伝票、手書きの日報、電話ファクスのやりとり―これが日本の製造業現場のリアルです。
こうした非効率や現場固有の事情に「ダメ出し」するのではなく、まずは受け止め、そこから一歩ずつ変革していく姿勢こそが信頼を勝ち得ます。
そうした積み重ねが、真に価値ある提案(=現場の負担軽減や効率化など)となって返ってくるのです。
3. ロジックとエモーションの使い分け
工場長や管理職層には「論理的説明」が刺さりますが、現場リーダー層には「気持ち」や「納得」といった共感軸が効果的です。
技術説明と現場目線のストーリー、その両輪のトークを身につけることが、難易度の高い提案型営業を成功に導きます。
MOT流セールスエンジニアリングの“勝ちパターン”実践編
それでは、具体的にどのようなステップでMOT流セールスエンジニアリングを現場に落とし込めばよいのでしょうか。
ここでは実践的なプロセスを段階ごとに紹介します。
ステップ1:現場発の技術棚卸し
まずは自社の現場に眠る「隠れた強み」や「お客様の役に立つしくみ」を洗い出しましょう。
たとえば、最小ロット短納期対応、工程の自動化で実現した高再現性、ベテランによる目視検査ノウハウなど、他社が真似できないポイントが見えてきます。
この時、「何ができるか?」だけでなく「なぜ、それができるようになったか?」という背景情報もセットで整理しておくと、後の提案ストーリー作成に役立ちます。
ステップ2:顧客の意思決定構造を解析
受注する側(サプライヤー)からすると、バイヤー(購買担当)の視点や社内事情を深く把握することが重要です。
バイヤーは技術面だけでなく、価格、納期、安定調達、リスク管理など総合的なバランスを見ています。
どこが最重要事項なのか、誰が決裁権を持っているのかを観察し、出来る限り「顧客企業の現場プロセス」にも着目してください。
ステップ3:バリューシナリオの作成
顧客の現状課題(As-Is)を具体的に整理した上で、「自社技術でどんな新しい状態(To-Be)に変えられるか」を提案書で表現します。
KPIやROIだけで押すのではなく、現場工程のラクになるポイントや、「万一の際の素早い対応力」など、顧客の現場の“肌感覚”を盛り込んで説得力を高めましょう。
ステップ4:現場同士の対話の場を設定する
経営層や購買担当に話を通すだけでなく、「実際に使う現場担当者」「技術者」「管理者」とも直接会話を持つようにします。
現場視察やワークショップなどを通して、両社の現場同士で課題に向き合う場を仕掛けることで、お客様の納得度や信頼度が飛躍的に高まります。
現場発MOT営業の落とし穴と突破ポイント
どれほど素晴らしいMOT戦略も、現場文化や職人気質が強い工場では「変わること」への強い抵抗感がつきものです。
1. 組織内の“昭和マインド”を刺激しすぎない
いきなり「DXだ!モダナイゼーションだ!」と叫ぶのではなく、小さな成功体験を積み重ね、信頼を得ていくのが肝要です。
数字で証明できる成果(不良品半減、工数削減など)と現場作業者の声をセットで報告し、「やっぱり現場は変わるんだ」という納得感を醸成しましょう。
2. 革新の担い手を現場から“巻き込む”
現場リーダーやベテランの知見を如何に活かしていくかが、MOT流セールスエンジニアリングでも成否の鍵です。
改革の旗振り役になる人材を育成し、彼らの「自分ごと化」の度合いを高める施策を講じましょう。
3. 失敗事例もオープンに
技術提案は必ずしも成功ばかりではありません。
失敗ストーリーや挫折体験まで包み隠さず共有することで、本気度や誠実さが伝わります。
むしろ「うまくいかなかったことも一緒に乗り越えていく姿勢」こそが、長期的な顧客信頼につながります。
今後の製造業バイヤー・サプライヤー関係の変化を見据えて
MOT流セールスエンジニアリングは、調達購買や生産管理、品質管理のあり方そのものにも大きなインパクトを与えます。
今やバイヤーも「単なる価格交渉役」から「全社最適の中で付加価値を創造するパートナー」への脱皮を迫られています。
1. サプライヤー側からの“価値起点”提案が選ばれる時代
言われた通りにつくるだけでなく、「我々だから実現できる新しい価値」「ともに新規事業を育てる協創型スタイル」を、サプライヤー側から積極的に持ち込めるかが差別化の決定打となります。
2. バイヤーも現場感覚を重視する時代
脱コスト一辺倒、安定調達重視といった旧来型から、「できるだけ現場がやりやすい構造」「自社ラインにフィットするカスタム対応」など、現場密着のソリューション選定へ比重がシフトしています。
だからこそ、現場目線で語れるセールスエンジニアの存在価値がますます高まっています。
まとめ:現場から価値創出するMOT営業で輝け!
技術の可能性を正しく世の中に伝え、ビジネスに変えること。
昭和から連綿と続く現場力と、令和型の柔軟な顧客志向の融合点こそ、MOT流セールスエンジニアリングの神髄です。
現場を知り抜いた皆様の知見が、これからの製造業を変えていきます。
小さな一歩から、自社の隠れた技術をお客様の課題解決ストーリーに結びつけ、真のバリュークリエーターとして新たな時代を切り開いていきましょう。
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