投稿日:2025年7月10日

エンジニアリングPC-SI合金射出成形とドローンプロペラ耐衝撃試験

はじめに:エンジニアリングPC-SI合金とは何か

エンジニアリングプラスチックとして近年注目されているのが、ポリカーボネート(PC)にシリコン(Si)を組み合わせたPC-SI合金です。

この材料は高強度、高靭性、優れた耐熱性を兼ね備えているため、従来のPC樹脂以上の性能が求められる製品に多用され始めています。

特に、進化著しいドローンの分野では、軽くて壊れにくいプロペラ材料として需要が拡大しています。

射出成形による部品製造が主流ですが、その際の課題や現場の工夫、ドローンプロペラで不可欠な耐衝撃試験について、現場視点で詳しく解説します。

なぜPC-SI合金がドローンプロペラ用樹脂に選ばれるのか

従来材料の課題

ドローンプロペラに使われる素材は、長年PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)、ABSなどが主流でした。

しかし、進化するドローンの高回転・高速飛行には、これらの素材では「割れる」「変形する」「長期信頼性が不十分」など、現場から不安の声が絶えません。

PC-SI合金がもたらす性能アップ

PC-SI合金は、基本性能である衝撃強度・耐摩耗性・高温下での寸法安定性に優れ、しかも軽量です。

– 通常PCよりもシリコン添加により摺動性、低温特性が強化
– 過酷な衝突にも破損しにくい
– かつ薄肉成形が可能で、軽量化に寄与

これらが、最新型ドローンの求める「軽く・壊れず・精密」なプロペラ設計にベストマッチなのです。

射出成形現場のリアル〜PC-SI合金の成形技術

現場での取り扱い注意点

PCベース樹脂はその高性能ゆえに、射出成形時の温度管理や金型設計に繊細な配慮が必要です。

– 樹脂温度は280~320℃と高め
– 金型温度は100~130℃推奨
– 吸湿しやすいため、成形前の十分な予備乾燥が必須

ここを怠ると、「ウェルドライン(継ぎ目が脆くなる)」「銀条(シルバーストリーク:外観不良)」が発生し、強度低下や外観不良によるコスト高の原因になります。

薄肉化への現場工夫

ドローンプロペラは軽量化のため、1mm以下の薄肉設計も珍しくありません。

ですが薄肉射出成形は、樹脂の充填不良によるショートショット(成形品の欠損)や、そり・歪みなどの変形リスクが高まります。

現場では以下のような技術工夫が求められます。

– 金型ゲート部位置やスプルー径の最適化
– 急速充填・高圧保持工程のバランス調整
– 真空引きなどでエアトラップ対策

特に、現場に昭和から根付く「勘と経験」のノウハウがここでも強く息づいているのが現実です。

PC-SI合金のリサイクル・サステナビリティ

サステナビリティが叫ばれる今、PC-SI合金もリサイクル材活用やサイクル寿命の観点で研究が進んでいます。

ですが実際現場では「リサイクル工程で品質低下」「異樹脂との混入トラブル」が起きがちです。

エンジニアリング樹脂の再利用は現時点では限界があり、高品質を維持するためには「クリーンな材料供給」「トレーサビリティ徹底」が引き続き必要なのが現場のホンネです。

ドローンプロペラに求められる耐衝撃試験とは

なぜ耐衝撃試験が重要か?

ドローン運用では、不意の墜落・接触事故が避けられません。

プロペラが破損すれば、二次被害や飛行の安全に直結するため、想定外の衝撃にも耐えるだけの「リアルな現場基準試験」が必須です。

代表的なプロペラ耐衝撃試験

– アイゾット衝撃試験:規定形状の試験片を一定高さから落として割傷度を測定
– シャルピー衝撃試験:異なる角度・部位での欠けや破断状態を観察
– ドロップウェイト試験:本物のプロペラ形状で鉄球を落下、割れ・欠けの有無をチェック
– 繰り返し衝撃試験:複数回の反復衝撃での疲労・経年変化を評価

現場では、上記「JIS/ISO規格試験+独自の実験(実機プロペラ)」を組み合わせます。

顧客(ユーザー)は、単なるJIS値だけでなく「実飛行やカーボン繊維製との比較、耐久サイクル」など“現場ならではの生の安心感”を求めます。

プロペラ成形品の評価事例

– 常温、氷点下、高温それぞれで衝撃試験
– 塗装・表面処理後の割れやすさ比較
– ベアリング部との一体成形品の連結耐久(連続振動+衝撃)

「このくらいは壊れない」「もっと過酷な条件でも変形しない」など、現場の“お墨付き”がエビデンスとして販促材料にもなります。

昭和的CRAFT(職人)の知恵と最新デジタル活用の融合

過去の現場ノウハウが今も活きる場面

PC樹脂成形は実は40年以上の実績があり、昔から「樹脂乾燥の勘どころ」「金型メンテの隠し技」「音・匂いで樹脂劣化を察知」など、職人経験が品質直結するプロセスが多数あります。

昭和の職人魂で生き抜いてきたエンジニアリング現場には、今も伝承される「生きたマニュアル」が無数に存在します。

一方で、脱昭和・デジタル活用も着実に進んでいます。

デジタル変革がもたらす効率化

– 射出成形機のパラメータ自動記録・AI自動補正
– 各成形品のトレーサビリティをバーコード管理
– 耐衝撃試験時の動画データ保存とクラウド共有
– 金型予防保全のIoT遠隔監視

これらの最新IT導入で、「再現性が高い品質管理」「不具合要因の可視化」「検査コスト削減」につながっています。

現場の昭和チックな“腕と勘”を、若手や外国人スタッフにどう伝えていくか。その橋渡しツールがデジタル技術だと言えます。

バイヤー・サプライヤーの視点

バイヤー(調達担当)に求められる審美眼

「単価」「納期」だけじゃなく、「設計変更の柔軟対応」「品質管理」「現場での生産安定性」まで見極められるのが、これからのバイヤーです。

特にエンジニアリング樹脂の成形委託は、言われた通りの成形だけでは現場不良が頻発します。

– 成形の細かい現場ノウハウを持つ・聞き出せるサプライヤーか
– トラブル時のフォロー力、提案力があるか
– 納品実績や現場監査の開示姿勢

ここをしっかり確認・評価することで、真のパートナーシップが生まれるのです。

サプライヤー(成形メーカー)側が持つ業界地図

サプライヤーから見て「赤字体質の短納期商売」に陥らないためにも、昭和的「下請け意識」からの脱却が必須です。

– 経験値に基づく“成形プロセス提案型”営業
– リスク開示や追加コスト提案のタイミング
– PC-SI合金の材料特性、試験データをもとにバイヤーと共創

現場力に裏付けられた「説得力あるコミュニケーション」が、価格競争だけに巻き込まれない鍵となります。

まとめ:現場の知恵と新技術の融合が、製造業の未来をつくる

エンジニアリングPC-SI合金による射出成形は、ドローン用プロペラなど最先端製品で不可欠な技術です。

一方、現場では依然として昭和から引き継がれる職人ノウハウが息づき、これとデジタル技術の融合こそが、日本のものづくり現場の強みとなっています。

これからのバイヤー、サプライヤーには、単なる価格・納期交渉を超えた「提案力」「現場視点の課題共有力」「新しい改善と古き知恵の融合力」が求められます。

“ものづくりの進化を、現場の知恵から”を合言葉に、製造現場・調達現場が今より一歩踏み出す、その一助となれば幸いです。

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