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部品設計選定制御系安定性補償法基礎から実際まで

目次
はじめに
製造業の現場では、多品種少量生産が常態化し、かつての「大量生産・大量消費」のモデルが見直されています。
同時に、グローバルサプライチェーンの複雑化、エネルギー・材料コストの高騰、品質保証要求の高度化など、調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化のすべてが絡み合う難局が続いています。
特に「制御系」の分野は、設計・部品選定段階から現場稼働・保守運用に至るまで、製造業全体の“競争力の根幹”を担っていると言っても過言ではありません。
本記事では、制御系システムの要である「安定性補償法」について、部品選定とその設計思想、昭和から続く“現場に根ざしたアナログ”の知見および、最新技術との融合まで、分かりやすく・実戦的に解説します。
制御系と工場現場のリアル:なぜ安定性が命なのか
制御系とは何か
制御系とは、機械や装置を狙い通りの状態へ導くために、センサーやアクチュエータ、演算ブロック(例えばPLCやマイコン、産業用PCなど)を組み合わせて構成されるシステムのことです。
製造現場で言えば、自動ラインの搬送制御、温度制御、圧力・流量制御、各種位置決め、製品組み立てや検査ロボットの動作制御と、多岐にわたります。
工場現場で苦労するのは、設計通りに“動かす”ことだけでなく、“異常なく安定して動き続ける”ことです。
この「安定性」の確保こそ、生産ラインの品質・稼働率・歩留まりを左右する一丁目一番地です。
現場のアナログ:現実とのギャップ
工学書や設計基準に書かれた数式・理論も大切ですが、製造業の現場では「単体売りの部品の個体差」「現場でのゆらぎ」「電源周りのノイズ」「温度・湿度・経年劣化」など、書籍には載っていない“生きた変動要素”が常に介在します。
ここに、昭和から受け継がれた現場職人や熟練エンジニアのノウハウが根付いてきました。
安定性補償の要点は、「どんな状況でも、暴走や誤動作、不良の発生を抑え、制御目標値にちゃんと追従できるか」につきます。
そのためには、設計段階での部品選定・パラメータ設定から現場試運転、さらにはフィードバックループを繰り返す実践が欠かせません。
安定性補償法の基礎①:制御理論と現場の橋渡し
代表的な制御手法「PID制御」
現場で最もポピュラーな制御方式は、PID(Proportional–Integral–Derivative)制御です。
これは、「現在の偏差」(P動作)、「過去の累積偏差」(I動作)、「偏差の変化量」(D動作)の三つを組み合わせて出力制御を行います。
PID制御の魅力は、部品ごとの個体差や負荷変動にある程度自動適応できる柔軟性にあります。
だからと言って、理論値通りのパラメータを入れても必ずしも安定するわけではありません。
安定性補償とは何か?
システムの安定性補償とは、外乱やパラメータのばらつき、負荷変動があった場合でもシステムが暴走・発振せず、滑らかに目標値に追従し続けることを意味します。
具体的には、
・応答が極端に遅くなりすぎない
・振動やオーバーシュートを最小限に抑制する
・ノイズや外乱が混入しても閾値を超えた動作をしない
といったポイントを制御パラメータや部品特性、あるいは回路構成でバランスさせる技術が求められます。
古典的安定性判別法:根軌跡法・ボード線図
・根軌跡法では、制御系の伝達関数やその極(ポール)の動きを可視化し、閉ループ系が右半平面(不安定側)に入らないかチェックします。
・ボード線図(周波数解析)では、ゲイン余裕・位相余裕などの指標で、外乱やノイズによる不安定挙動への余裕度を可視化します。
しかし、現場で皆がボード線図を毎回詳細に書けるわけではありません。
ここが、設計・現場の“実践知”とのすり合わせの重要ポイントです。
安定性補償法の基礎②:部品設計・選定での勘所
アクチュエータとセンサーの個体差・応答性
たとえばモーター、エアシリンダ、電磁弁といったアクチュエータは、仕様カタログ値だけでは語れません。
「同じシリーズでもロット差」「経年劣化で立ち下がりが遅くなる」「負荷変動で動きが鈍る」といった現場要因が引き金となり、不安定な挙動を招きます。
センサーもしかり。
産業用のリミットスイッチ、エンコーダ、流量計などの物理センサー類は、温湿度変化や現場の振動、設置環境のノイズの影響を常に受けます。
この“ゆらぎ”を設計パラメータで吸収しきる知恵こそが、昭和から現場で培われた本当の“補償技術”です。
電子部品・制御回路の安定化策
オペアンプやマイコンによるフィードバック回路も、電源ノイズ・グラウンドループによる誤動作、パーツのばらつきによる応答遅延がボトルネックになりがちです。
ここでよく使われる業界伝統の工夫をいくつかご紹介します。
・余裕設計:「最大値ギリギリ」にならない定格選定。「負荷変動」に十分耐えるマージン。
・フェーズマージン確保:「わずかな遅れ」が暴走・発振につながらない設計。
・デジタル制御回路のウォッチドッグ実装(暴走検知・自動リセット機能)。
・“現場対策”としてのノイズフィルター、サージアブソーバ追加。
ベテランの設計者や現場技術者ほど、こうしたマージンや補償部品を要所要所に仕込んでいます。
設計―購買―品質管理の連携ポイント
日本の製造業では設計・購買・現場・品質管理、さらにはサプライヤーが別組織に分断されがちです。
しかし、設計段階でしっかりと
「どこまでパラメータ変動に耐えうる必要があるか」
「納入された部品の個体差や規格値でどこが重要ポイントか」
といった情報を購買・調達・現場に伝えることが極めて重要です。
バイヤー(資材調達)の観点では、品質トラブルや供給不安定を未然に防ぐために、設計意図や安定性の要件をしっかり理解・共有することがサプライヤー評価にも直結します。
現場目線での安定性確保:実際の対応とノウハウ伝承
現場で良くある「不安定トラブル」事例と対処
1)モーターの“微振動発振”問題
治具搬送用サーボモータが仕様ギリギリの重量扱いとなり、搬送中に不定期の微振動が発生。
シーケンス制御のPID値を見直し、D成分をほんの少し下げることで収束。
物理的にはモータ固定部の剛性強化やクッション追加も有効でした。
2)生産設備のセンサー誤検知
ライン用フォトセンサが、隣の溶接ロボットの電流ノイズで誤動作。
センサラインにツイストペアケーブル+ノイズフィルター追加、アースの見直しで大幅改善。
「設計段階からのノイズ対策部品選定」が後工程に大きく影響する例です。
3)エアシリンダの動作不安定
油分混入によるパッキン劣化でシリンダ動作が遅延。
定期交換サイクルの厳守と、選定時点での耐油性材質確認がポイント。
メーカカタログ値の裏側にある“現場実力”がモノを言います。
データ化×現場知見の融合へ
近年では、データロガーやIoTデバイス導入による“異常値の見える化”が進展していますが、真の安定性補償は「机上のパラメータ」×「現場技術者の肌感覚」の双方からのアプローチが必要です。
同じ「偏差5%以内」といっても、装置特性・負荷条件・設置環境で“最適値”は異なります。
今後は、ベテラン技術者の“逸話付きメモ”や「なぜこの部品を選んだか」の理由まで記録し、新しい技術者にきちんと伝承していくことが業界知の大切な資産となるでしょう。
これからの制御系設計と安定性補償の潮流
アナログの知恵とデジタル技術の補完関係
日本の製造業が世界で生き残るためには、「デジタルデータを駆使したアプローチ」と「現場アナログの知恵」を切り離すのでなく、両輪で回していく必要があります。
単にAI診断やビッグデータ解析に頼るのではなく、その分析結果に基づく「具体的な補償策」「現場での素早いフィードバック実施」「部品調達・設計への即時反映」が不可欠です。
バイヤーやサプライヤーに求められる力
購買・資材担当者は「単なるスペック表での比較」だけでなく、「なぜその仕様・部品が必要なのか」「もしも安定性トラブルが出た時、どこまでリスクを許容できるか」を現場目線で問う姿勢が必須です。
サプライヤー側も自社部品の特性・強み・弱み、そして“現場適応力”を訴求できる説明力やトラブル時のレスポンス力が問われます。
部品の安定供給・品質安定化を目指すには、設計・現場・バイヤー・サプライヤーが一体となり、“攻めと守りのサプライチェーン連携”を進めることが不可欠です。
まとめ
制御系の安定性補償――。
それは単なる数学的安定性の担保だけではなく、部品選定・設計思想・現場での施策・データ活用、そして“昭和の現場知”まで含む、製造業の総合力で成り立っているものです。
新しい技術やデジタル化が進む中でも、「最適な部品選定・設計企画」「現場でのトラブル即応」「購買・サプライヤー間の徹底的コミュニケーション」「知識とノウハウの伝承」が、これからの工場・製造業の競争力を押し上げていきます。
バイヤーを目指す方、現場で実際に苦労している方、サプライヤーとしてお客様の現場目線を知りたい方々、ぜひ“実戦の安定性補償”に目を向け、お互いの立場から現場の発展へ貢献していきましょう。
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