投稿日:2025年7月14日

回転機械振動ロータダイナミクス設計診断状態監視計測事例

はじめに

回転機械は、製造業の工場ラインはもとより、あらゆる産業インフラで心臓部として稼働しています。

ポンプやファン、タービン、コンプレッサー、そしてモーターや発電機など、回転体を持つ機械の運用には「振動」が避けて通れない問題として存在します。

振動は機械故障の前兆であり、放置すれば致命的な損傷や生産ロス、最悪の場合は安全事故につながります。

本記事では、回転機械における振動の発生メカニズム、ロータダイナミクス設計、診断から状態監視、計測実例まで、現場目線で分かりやすく解説します。

調達購買、生産管理、品質管理の現場で培った知見を踏まえつつ、アナログからデジタルへの過渡期にある業界動向も織り交ぜますので、バイヤーを目指す方やサプライヤーの現場技術者にも参考にしていただけます。

回転機械振動の基礎知識と現場課題

振動の発生原因とは

回転機械の振動は、様々な要因に起因します。

主な原因は、ロータのアンバランスやミスアライメント(芯ズレ)、装置の軸受けの摩耗や損傷、取付け基礎の緩みなどです。

生産設備の中で昭和時代から使われ続けているマシンは、設計余力が大きく、頑丈な一方で、ロータのバランス調整や軸受けメンテナンスがアナログな手法に頼っているケースが少なくありません。

多くの工場で、「なんとなく調子が悪い」「音や振動が気になる」という感覚値にもとづく保守が根付いているのが現状です。

“勘”や“経験”だけでは危険な理由

熟練オペレーターの五感は重要ですが、それ一本槍では予兆保全や予知保全(CBM:状態基準保全)は実現できません。

現場では、「毎月定例点検」や「異常値が出てから対応する」といった走行距離頼みやリアクティブな対応が主流でした。

これでは、急なトラブル対応や突発修理対応が絶えず発生し、生産ロスや設備の寿命短縮につながります。

“勘”や“経験”+データによる客観診断が、昭和から令和にシフトする大きな転換点となっています。

ロータダイナミクスの役割と進化

ロータダイナミクスとは

ロータダイナミクス(rotordynamics)とは、回転体(ロータ)の力学挙動を解析し、設計・運用に生かす学問分野です。

共振(クリティカルスピード)、振動モード、軸受け支持剛性、非対称荷重などの評価により、異常を未然に防ぎ、設計値どおりの運転を維持できるかを判断します。

多くのトラブルは、「ロータダイナミクスを正しく理解しないまま経験則で機械選定・設計・据付を行ってきた」ことに起因しています。

特に、1次・2次共振を見落とすと、長期稼働後に破壊的事故が発生するケースがあります。

現場で重要視される設計・選定ポイント

現場目線で重視すべきは、メーカー公開値だけを信じて機材を調達しないことです。

「設計スペック=現場性能」とは限らず、設置環境や実際の荷重・配管応力、ベースフレームの剛性など、現場実態に即した検討が不可欠です。

また、部品調達時も、サプライヤーのカタログ値やテストリポートの読み方について、ロータダイナミクスの観点から確認することが重要です。

これはバイヤー・サプライヤー双方で、設計意図・現場の運用実態を深く理解し合う姿勢が求められる分野ともいえます。

診断・状態監視手法の最前線

振動診断の切り口

一般的な診断方法には、以下のアプローチが挙げられます。

– 周波数分析(FFT):異常振動成分の原因特定
– 波形モニタリング:突発変化の検出
– トレンド監視:経時変化トレースによる予兆検知

これらは従来、専用の振動計やオシロスコープ、アナライザーで人手計測されてきました。

最近ではIoT振動センサや常時モニタリングシステムが増え、状態基準保全(CBM: Condition Based Maintenance)が現場浸透しつつあります。

AI・デジタル活用とアナログ文化の融合

課題は「センサーのデータを現場で使いこなせる人材が少ない」こと。

いたずらにAIシステムやIoT振動モニターを入れても、アナログ現場では“データの解釈力”が追いつきません。

現場では、ベテランオペレーターの勘・過去の修理履歴・設備稼働履歴と最新センシングデータを重ね合わせ、「実際、何がどうなっているのか」を可視化するスキルが求められます。

こうしたことから、AI活用とアナログ五感の“ハイブリッド監視”が最適解として注目されています。

なお、AI診断は設備メーカー選定や納入仕様書作成時にも今後必須スキルとなり、調達バイヤー・サプライヤー双方の競争力につながります。

振動計測の具体的な現場事例

事例1:老朽ファンの異常診断

長年稼働してきた工場排気ファンで「異音+異常振動が発生」との相談を受けました。

現地でポータブルFFTアナライザーによる計測を実施したところ、1X(回転数と同じ振動数)が突出して大きいことが判明。

新旧ベアリングの交換+バランスウエイト追加で、振動レベルが規定値の1/4まで低減し、Cbm(状態基準保全)の適用例となりました。

事例2:高圧ポンプのロータダイナミクス設計検証

新設ラインにおける高圧プロセスポンプ選定時、メーカー標準設計のまま据え付けたところ、実稼働後に2次共振点付近で大きな振動が発生。

ロータダイナミクス解析ソフト(ANSYS等)でシミュレーションを再実施した結果、据付ベース剛性が設計値より低く、理論値からずれたことが分かりました。

アンカーボルトの本数増強とフレーム補強後、安定稼働が実現。

この事例から、カタログスペックだけでなく「現場条件に即したロータダイナミクス設計検証」の重要性が再認識されました。

事例3:IoTによる遠隔監視の実践

食品工場ラインの主要モーターに常時監視センサーを設置。

取得値をクラウドでモニタリングし、定常稼動値からの逸脱をAIで自動判定。

わずか1.2Gの変化を察知し、突発停止前に軸受け潤滑異常を補正することで、ライン停止時間を年間30時間削減できました。

現場担当者からは「データ活用+経験が融合できた良い事例」と高評価を得ています。

これからの回転機械メンテナンスとバイヤーの役割

バイヤー・サプライヤーが持つべき視点

従来の機械設備調達は「価格・納期・スペック」重視が主流でした。

しかし今後は、設計上の強みに加え「現場の設備状態変化をいかに可視化し、異常に気づき、対策できるか」が重要な発注・選定要素になります。

バイヤー側には、単にローコストな設備を探すのではなく、Cbm対応力やモニタリング連携性、現場ワーカーの“ラストワンマイル”までサポートする提案力が求められます。

サプライヤーからも「振動解析」「ロータダイナミクス設計能力」「AI診断支援」など、現場目線に寄り添える技術力が信頼のカギとなります。

アナログから脱却するための現場アクション

現場には根強いアナログ文化が残っていますが、データ活用への意識改革と教育、第一歩となるIoT導入のハードル下げが必須です。

– 振動計測の定期化
– トラブル履歴とデータの可視化
– ベテランの五感+データでダブルチェック

こうした地道な活動が、設備トラブル0(ゼロ)を目指す1歩となります。

まとめ

回転機械の振動、ロータダイナミクス設計・診断・状態監視・計測について、現場のリアルな視点と業界動向を交え解説してきました。

これまでの「経験頼み」「事後保全」から、データに基づく「予知・予兆保全」へのパラダイムシフトが、今まさに工場現場で起こっています。

調達バイヤー、サプライヤー、そして製造現場技術者それぞれが「現場で本当に使えるデータ・診断力」を身につけ、適材適所の設備投資と効率的な保守体制を築くことこそ、製造業全体の競争力強化に直結します。

アナログとデジタルが融け合う新時代。ぜひあなたの現場にも「振動」「ロータダイナミクス」「状態監視」を、一歩先行く形で導入してください。

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