投稿日:2025年7月23日

コストダウンカム機構設計トラブル発生箇所トラブル要因防止策

はじめに:製造業を取り巻くコストダウンの現実

製造業において「コストダウン」は永遠のテーマと言っても過言ではありません。
特に機構設計の現場では、製品そのものの構造や部品選定がコストに直結するため、設計担当者と調達・購買担当者の連携が欠かせません。
一方で、コストダウンの追求が過ぎると、設計や現場に無理がかかり、思わぬトラブルが頻発してしまいます。

この記事では、「コストダウンカム機構設計トラブル発生箇所トラブル要因防止策」と題して、現場目線でのトラブル事例や業界に根付く課題、その原因と防止策を具体的に解説します。
業界に長く根付いた“昭和型の発想”から脱却し、現代ものづくり現場の新たな課題にラテラルシンキング(横方向思考)で光を当てます。

コストダウンカム機構とは何か?

カム機構は、回転運動を直線運動や断続運動に変換する重要な装置です。
自動車や家電、産業機械の内部には必ずと言ってよいほどカム機構が登場します。

コストダウンカム機構とは、従来のカム設計よりも部品の合理化や省略、材質の見直しなどによってコスト低減を図ったタイプを指します。
しかし、コストダウン施策が強く求められるほど、設計・生産・調達上のトラブルリスクも高まります。

コストダウンと現場のジレンマ

調達購買部門は「とにかく安く」と要請します。
設計現場は「性能・信頼性と安全マージン」を死守したい。
このジレンマが長年、現場に複雑な課題を生み続けてきました。

発生しやすいトラブル箇所~過去の事例から学ぶ~

コストダウンカム機構に特有のトラブル発生箇所は多岐にわたります。
ここでは、現場でよく遭遇するトラブルの具体例を紹介します。

1. 材質ダウンによる摩耗・破損トラブル

従来、高価な炭素鋼や特殊鋼で製作していたカム部品を、コストダウン目的ですぐに安価なSS材や焼結金属へ切り替えるケースが多く見られます。
この場合、摩耗が加速したり、小さな異物で表面にクラックが入るなど新たなトラブルが発生します。

2. 寸法公差緩和による動作不良

部品ごとの寸法公差(許容誤差)を緩めに設定することで、加工費を下げる手法です。
しかし、公差が広がることで動きが渋くなったり、途中でカムがロックしてしまう現象が発生します。

3. 工程短縮による未熟な加工・組み立て不良

工程の省略や検査工程の簡略化も、コストダウン活動でよく行われます。
その結果、カム溝の面粗度が悪化し、摺動部でのかじりや異音が発生。
量産初期は問題なくても、累積生産が進むにつれて問題が露呈します。

4. 共通化・流用で生じた設計ミスマッチ

「どれも同じ部品が使えれば安いだろう」と、既存カム部品や他製品用を流用する事例があります。
それぞれの用途で要求される動きや負荷条件がわずかに異なり、その違いを無視して流用設計を強行すると、早期摩耗や破損を生み出します。

トラブル要因を深堀り!コストダウン施策が事故を呼ぶメカニズム

製造業の工場長として、さまざまなトラブルに直面し、真の原因究明に努めてきました。
表層的には「部品が弱い」「公差が広い」と見えますが、背景には以下のような要因が強く関係しています。

1. コミュニケーションの断絶

設計部門と調達部門、現場と本社、サプライヤーとOEMなど、立場が異なる組織での意思疎通不足はトラブルの温床です。
コストダウンの内容が逐次伝わらず、「勝手な簡略化」「根拠なき材質ダウン」が現場で独断的に行われることも。

2. 業界に根付いたアナログな慣習

「昔からこれでやっている」
「周りもこれだから」
こういった保守的な文化が、根本的な問題意識のズレや本質的解決の邪魔になるケースが多いです。
例えば、まだ紙ベースの図面指示や“口頭伝承”が幅を利かせている現場もあります。

3. サプライヤーとのパワーバランス

コストダウンをサプライヤーに一方的に求める構図が生まれると、「この設計変更は本当に妥当ですか?」といった意見が現場からあがりにくくなります。
下請け企業側も“言いなり”にならざるをえない場面が多いのも事実です。

4. ライフサイクルコスト視点の欠如

目先の調達価格だけに着目するあまり、「10年後・15年後のメンテコスト」「不良品リスク」が見過ごされがちです。
その場しのぎの部品選定や設計変更が、のちの莫大な保証費用や回収コスト発生へとつながります。

現場目線で提案するトラブル防止策

コストダウン施策においても、品質や信頼性、現場オペレーションを犠牲にしては本末転倒です。
ここからは、昭和から続くアナログな業界にもすぐ導入できる、現実的な防止策を提案します。

1. コストダウン施策前の「現場巻き込み」

設計部門・調達部門から現場作業者・サプライヤーまでを巻き込んだコストダウン協議会が効果的です。
部門横断的に「この設計変更は本当に妥当か」「加工方法や組み立て面で無理はないか」を、知見を出し合って擦り合わせましょう。

2. ワンポイント検証を義務化

現場でのワンポイント検証(PoC:Proof of Concept)を義務化すると良いです。
例えば、コストダウン用の新材質カムを数ロットだけ組み込んだラインで長期稼働テストを行い、不具合や摩耗パターンを実際に評価します。
導入前の“安全弁”として有効です。

3. 加工・検査工程のデジタル化推進

いつまでも手作業・目視検査・紙図面に頼らず、カメラ検査装置や自動計測システムを導入することで段取りやばらつき低減が期待できます。
検査データをクラウド蓄積し、不良発生パターンをAIで分析させる最新事例も増えています。

4. サプライヤーへの「意見出し」推奨

単なる指示命令型ではなく、調達会議にサプライヤーも招き、「絶対に譲れない設計要求」「現場で気づいた懸念点」などを双方向で出し合う機会を設けましょう。
部品メーカーの技術力・改善提案がトラブル未然防止につながります。

5. ライフサイクルコストを可視化

調達単価の試算だけではなく、品質トラブル発生率、不良品クレーム、アフターサービス負担増など中長期のコストを可視化します。
設計変更前に「10年間のトータルコストが本当に下がるのか?」を現場と調達担当で吟味しましょう。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場での要点整理

バイヤー(購買担当)の視点

・コストダウン施策を推進したいのは当然ですが、現場からの“現実的で根拠ある反論”をネガティブに捉えず、品質・納期・供給安定性もバランスよく見ましょう。
・サプライヤーとの価格交渉も、長期的パートナーシップ構築を意識することが、真のコスト低減と高品質確保につながります。

サプライヤー(部品メーカー)の視点

・「これでは問題が出やすい」と感じた場合、遠慮せず情報発信を行いましょう。
下請けだからと萎縮せず、“現場から生まれた改善案”をどんどん提案できます。
・全体最適・納入安定を優先し、不具合予防策を自主的に組み込んだ製造・品質管理体制づくりが信頼獲得に直結します。

まとめ~業界の“昭和的発想”から抜け出そう

製造業の現場は今もなお、アナログな文化や縦割り意識が根強く残っています。
コストダウン一辺倒で強引な設計合理化を求めることが、むしろ手痛いトラブルや品質低下を招く時代です。

目先のコストだけに囚われず、設計・現場・調達・サプライヤーが同じ目線でテーブルにつくラテラルな連携が、今こそ求められています。
日本のものづくり発展のため、現場一体・部門横断のコストダウン活動にぜひ取り組んでみてください。

コストダウンカム機構設計の現場でお悩みの方も、この記事の内容をヒントに“ひとつ上の発想”で新たな改善アクションに役立てていただければ幸いです。

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