試験計画の分割統治で高価な型式試験を最小セットに絞る合格戦略

試験計画の分割統治で高価な型式試験を最小セットに絞る合格戦略

はじめに：製造業における型式試験の現実

製造業では、製品開発から市場投入までの道のりで「型式試験」が不可欠です。

型式試験は、製品の安全性や法的要件、取引先との約束をクリアするために必要とされる検証プロセスですが、その費用と期間は決して無視できません。

特に特殊な設備や第三者機関を使う場合、一回あたり数百万円以上のコストがかかることも珍しくありません。

また、やり直しを強いられるとスケジュールや予算の圧迫など、現場に痛い負担がのしかかります。

そのため、現場では「なるべく少ない試験回数」「一発で通す」ことが至上命題です。

この記事では、長年の現場経験をもとに、試験計画の“分割統治”という考え方を用いて、無駄な繰り返し試験を減らし、最低限の試験セットで確実な合格を狙う実践的な戦略について解説します。

試験計画における“分割統治”とはなにか？

IT業界で有名な「分割統治法」を製造現場に応用

「分割統治（Divide & Conquer）」は本来、複雑な問題を小さなサブ問題に分割し、それぞれを解決した後に全体を統合することで大きな課題を攻略するIT発の考え方です。

しかし、現場目線でみると、煩雑な型式試験にもこの考え方が応用できます。

無数にある検査項目・条件・バリエーションを“小さな単位”に整理し、それぞれのリスクや特性に合わせて効率よく検証することで、全体の試験コストややり直しリスクを最小化できます。

昭和的な「全部入り一括試験」の弊害

昔ながらの製造現場では「とりあえず全部盛りで一括試験」を選びがちです。

仕様書どおりに条件全部を組み合わせ、一度にまとめてやるため、一発で全項目OKを目指す流れです。

ですが、万一どこかで不合格が出ると、対策改修後にまた全項目一からやり直す必要があり、費用・納期・工数のムダが膨大です。

「元を取るには一回で全部クリアしたい」という気持ちは分かりますが、実態は一発NGで泥沼化しやすく、リスク分散の観点では非効率な戦略です。

なぜ型式試験は“最小セット”に収めるべきなのか

全体最適より部分最適の積み上げが効く理由

型式試験のコストは一項目ごとに固定額を取られる場合と、一案件ごと上限が設定される場合がありますが、どちらにせよ“不合格発生＝再現コストの再発生”が致命的に効いてきます。

また、バイヤーや認証機関の目線からすると、初回不合格や再試験依頼の多いメーカーは「管理が甘い、信頼できない」とみなされがちです。

こうなると、取引拡大のチャンスを逸し、新規案件へのハードルも高くなります。

逆に、“サブユニットごとにきっちり合格”させると、再試験が発生しても被害が小さくなり、現場のリカバリーやバイヤー対応もラクになります。

結局、“最小セット”戦略こそが、全体最適化されたトータルコスト抑制策になるのです。

「想定外」に備える保険としての分割統治

現実の試験現場では、図面や仕様書どおりに完璧な試験体ができることは稀です。

数値上はOKでも、現品では微妙な固有差によって性能NGや部品相性トラブルが生じることもしばしばです。

“全部乗せ一括試験”で想定外NGにぶち当たると、「どこが原因か」「どの検証項目まで巻き戻すか」の特定も大変になります。

分割統治戦略なら、発生原因を限定区間に閉じ込めやすく。効率的な手戻りが可能です。

現場で使える！型式試験の分割統治・実践ステップ

１．全試験項目を大きくカテゴライズする

まず、仕様書に列挙された検証項目＆条件を見渡します。

それを「安全規格」「環境負荷」「EMC」「耐久」「材料ごとの強度」「機能（入力・出力）」など、意味のまとまりごとに区分しましょう。

ラベルをつけてグループごとに検証タイミングや問責部門（技術、品質保証、外部機関等）も明確化しておきます。

この作業を怠ると、後から「あの試験も必要だった」といった抜け漏れや、権限のあいまい化でトラブルが勃発しやすくなります。

２．「変更が起きやすい部分」と「不変部分」を見極めてマッピング

型式試験の長所は、合格さえすれば同一型式内で追加試験の手間が不要になることです。

一方、不具合が見つかった場合、部品変更や工法変更で再試験要求に発展し、その影響範囲がどこまで波及するかをあらかじめ想定しておくことが大切です。

例えば、外装樹脂だけを変更しても通電機能やEMCの試験は再度不要な場合が多いです。

「どこを直してもここだけ再検証必要」というマトリックスを事前に作れば、絞り込みの精度が急激に高まります。

３．引き直しリスクの高い条件を“独立試験”として分離

過去の不具合データや似た製品のケーススタディを見て、再発頻度が高い箇所やリスクが高い箇所は、最初から独立して小さくテストするのが鉄則です。

例えば、高温高湿・低温・経年劣化など“環境ストレス系”は、メインの性能試験とは敢えて分割した方が柔軟に対応できます。

「もしNGだったらピンポイントにやり直せる状態」を目指して、設計・手順を工夫してください。

４．「バイヤー（買い手）」視点をインストールする

型式試験に関しては、サプライヤーの立場で受け身になりがちです。

しかし、バイヤーが「何を重視しているか」「本当に合格すべき必須項目はどこか」「逆に緩和や合理化ができる余地はあるのか」まで理解しておくと、事前交渉や試験計画の立案が圧倒的に有利になります。

例えば、性能保証書に明記すべき範囲と保証外とできる条件を精緻に調整することで、不要な型式試験や再試験の回避にも直結します。

試験計画を動かす「交渉力」も分割統治のキーファクターです。

５．現場での「柔軟な修正」を許容するプロセスを組む

どれほど周到な準備をしても、実際に試験が始まると「図面には書いてなかった要求」「前例にないイレギュラー条件」で現場が揺れることがあります。

現場オペレーター、品質保証担当、開発者、場合によっては外部試験機関の誰かが「この条件追加できないか」など現場レベルで判断を求めてきます。

このとき、分割統治で“区切っておいた項目同士”で影響範囲がかぶっていなければ、現場判断で柔軟な追加や変更がしやすくなります。

「型式試験ステージに進めない」と現場をストップさせない、ロードブロック対策にも有効です。

分割統治型試験戦略の最新事例紹介（業界動向）

有名メーカー事例：“並列化”によるリードタイム短縮

最近では、試験項目ごとに担当チームを分け、複数セクションで“並列に”型式試験を進めていくアプローチがトレンドです。

並列実施の成功には、「分割した項目の相互依存がない」「途中から一部やり直しOK」「試験データの一元管理」ができる仕組みが不可欠です。

この方式をまとめるプロジェクトリーダーの力量が問われますが、現場のボトルネック削減や手戻りダウンタイムの大幅削減で大手家電・車載部品サプライヤーなどで成果が出ています。

自動化・デジタル化推進による“テストシミュレーション”の活用

最近では、試験の一部をCAE（数値解析）やAIシミュレーションで代替することで、実施項目の“分割・省略”ができる事例も増えています。

現物試験とデジタルによる検証可能範囲との“分割統治”によって、実機・材料・工数の消費を抑えたコスト最適化が可能になります。

IT化が進みづらい昭和的アナログ現場でも、「まず一件でも実証例を作って成功体験を共有」することが普及のカギです。

まとめ：試験計画の“分割統治”は現場の最大防御であり攻撃

高価な型式試験をミニマムに絞る合格戦略の本質は、「複雑なリスクを最初から分割して、最小単位で厳しくテスト→やり直し損失を最小化」することです。

技術・品質・バイヤー心理・現場の柔軟対応――あらゆる観点から分割論理が製造業の生産性を高めます。

もし今「うちの現場はとりあえず全部一括でやっている」「うまく再試験コントロールできていない」と感じているなら、今日から分割統治への切り替えを検討してみてください。

それは現場を守る強力な防御策であり、競合より速く・安く・確実に認証合格を勝ち取る、攻めの武器にもなりえます。

分割・統治・深化――現場力で製造業の未来を切り拓いていきましょう。