投稿日:2025年8月17日

IoTは後回し設備稼働は人手記録から始めて精度を上げる段階導入

IoTは後回し、設備稼働は人手記録から始めて精度を上げる段階導入

はじめに:デジタル化が進まない製造現場の実情

製造業の現場には「昭和から抜け出せない」と揶揄されるほどアナログ文化が根強く残っています。

IT化やIoTの導入は話題になりますが、実際の現場で成果を上げている会社はごく一部にとどまっています。

それには理由があります。

さまざまな現場を経験してきた私の本音としても、すぐに最新技術を導入すべきとは言い切れません。

むしろ、記録の徹底やデータ精度の底上げといった“地味な基礎作業”を怠る企業が多く、そのままIoTや自動化の波に飛び乗ると期待通りの成果を出せないことが少なくありません。

本記事では、IoT化を急がず、まずは人手記録から始めていく「段階的な改善手順」を現場目線で解説します。

いま、現場で本当に求められていること

「作業を記録しているが、精度があいまい」「なぜか設備が休止している時間が多い」「IoTを導入したが、現場の混乱が大きい」…。

これは多くの製造現場で頻繁に耳にする悩みです。

最新テクノロジーを利用すれば一気に問題解決…そんな期待も分かりますが、現実はそう甘くありません。

例えば、データの入力が現場任せでバラバラだったり、記録のフォーマットが統一されていなかったり。

まずは、「何が本当に必要なデータか」「どのように記録したら再利用しやすいか」を考えて、人手による記録を徹底することが重要なのです。

IoT導入が後回しにすべき理由

IoTは確かに便利です。

設備が稼働しているかどうかを自動で監視し、異常停止や生産実績をリアルタイムで取得できるため、業務効率化やトレーサビリティ向上に役立ちます。

しかし前述の通り、現場で記録や管理のルールが浸透していないと、IoT化がかえって混乱を招く場合があります。

理由は主に以下の3点です。

1. 現場の実態把握ができていないまま自動化を進めても、問題点が表層化しない
2. 手書きや人手記録の経験がないと、データ意味の判断や異常値の発見がしづらい
3. IoT導入後にトラブルが発生した際、対処・改善するための知見やノウハウが欠落している

企業にとって真に大切なのは「何を自動化するか」ではなく「なぜそのデータが必要か」「どんな流れで記録・活用するか」をまず全員で理解することです。

人手記録の「本当の価値」と進め方

IoTを無理に導入する前に、人手による記録の精度向上からスタートしましょう。

デジタル化はこの基礎があってこそ意味があります。

例えば、生産設備の稼働時間を現場作業者が毎日1時間ごとに記録する。

休止していればその理由も一言で良いのでメモする。

これだけでも、何日か続けて集計すれば、どこでどれだけのロスがあるのか肌感覚でわかります。

また、記録データを振り返る中で「なぜここで設備が止まるのか」「何が根本原因か」といった現場なりの気付きが出てきます。

この“現場目線の洞察”こそ、外付けのIoTシステムだけでは得られない最大の価値だと私は考えます。

精度を上げる工夫と現場の巻き込み方

人手記録だとミスが出やすいのでは、と心配する方も多いでしょう。

ですが、そこは現場目線で以下のような工夫を加えることが現実的です。

・フォーマット(用紙や入力フォーム)を統一し、記録する内容を極力単純化する
・用語や略語を決めて、ダブルミーニングを排除する
・「こう記録してくれると助かる」という気持ちを説明し、現場の意見を吸い上げながら記録ルールを改善する
・記録内容はこまめに共有し、現場ごとで成果や問題点を議論する

このように、記録の精度を少しずつ上げるプロセスこそ、IoT化・自動化の前提条件です。

現場の協力を得るためにも、「最終的には現場の負担が軽くなる」「誰が見ても役立つデータになる」というゴールを明示して取り組みましょう。

IoT導入は“成熟度”に合わせて段階的に

現場の記録習慣とデータ精度が十分に上がって初めて、IoT化の効果が最大化します。

このタイミングで初めて、既存の人手記録をIoTに置き換えていけば良いのです。

技術導入を段階的に進めることで、以下のようなメリットが得られます。

・「いままで記録していた内容」がデジタルに切り替わるため、現場も違和感なく移行できる
・異常値や欠損があれば、現場経験から即座にフィードバックが可能
・IoT設置や新システムの要件を、自前の記録経験から具体的に指示できる

IoTセンサーの設置場所や稼働監視の仕組みも、「このボトルネックにフォーカスしよう」と職場で納得感を持って決められるのです。

バイヤーやサプライヤーにも役立つ真の「現場力」

また、この段階的アプローチは、社内の生産管理や品質保証担当だけでなく、調達購買(バイヤー)やサプライヤーにも大いに役立ちます。

バイヤーであれば現場の記録データが充実していれば「どの工程で歩留まりが悪いか」「安定供給に向けた課題は何か」を定量的に把握できます。

サプライヤー側からすれば、バイヤーがどこまで深く現場を見ているかを知る良い手がかりとなります。

記録の質が高ければ「この会社の現場管理はレベルが高い」「客先要求にきちんと対応してもらえそうだ」と信用も高まるでしょう。

逆に、IoTありきで実体のないデータに振り回されている会社は、現場への落とし込みや異常時の対応力が弱く、信頼関係構築が難しいといえます。

日本のモノづくり文化とアナログ的美徳

日本の製造業は、長年にわたり現場力と改善文化で世界をリードしてきました。

アナログ記録には、ただの非効率とは違う「現場への気付き」や「人と人の会話」が宿っています。

その美徳を捨ててまで無理にIoTに走るのではなく、まずは現場で自分たちの工程をしっかり見える化・言語化することが、今なお日本の製造業を底支えしています。

それでも真に効率化を図るためには、「人手記録からIoT・自動化へ」という“正しい順序”を守ることが肝心なのです。

まとめ:IoT・DXへの近道はアナログの徹底

結局、IoT導入は目的ではなく「達成すべき手段」に過ぎません。

本当に必要なのは、現場で「何をどう記録すれば改善につながるのか」を自ら感じ取り、段階に応じて精度や効率を高めていく姿勢です。

昭和的な現場文化をバカにする風潮もありますが、私の実感では「地味な積み重ね」がなければデジタル化も自動化も単なる“掛け声倒れ”になりがちです。

IoT導入は、すべてのスタッフが記録の意味と価値を理解し、現場目線で効果を実感できる“成熟度”に達した時にこそ、その真価を発揮します。

いきなり最新技術に頼るのではなく、アナログの徹底から一歩ずつ進める戦略こそが、今後も日本のモノづくりの本質を守りつつ進化を続ける最善策だと私は考えます。

バイヤーを目指す方も、サプライヤーとしてバイヤーの考えを知りたい方も、ぜひ一度振り返ってみてください。

“人手記録”こそが、製造現場のあらゆる課題解決の出発点なのです。

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