投稿日:2025年8月18日

不良モードの再発防止を設計条項へ落とし込むDRの運用

はじめに:製造業における「不良モード」再発防止の重要性

製造業の現場に長く携わる中で、最も頭を悩ませる課題の一つが「不良モード」の再発防止です。
不良が発生した際、その原因を確実に究明し、二度と同じミスが起こらないようにすることは、現場の信頼性向上やコスト削減に直結します。
しかし、実際の現場では場当たり的な対策に留まるケースや、属人化したノウハウによって再発リスクを残したままとなることも多いです。

その中で「設計条項(設計要求事項)」へ不良モード再発防止策を的確に落とし込み、DR(デザインレビュー)で運用・共有していくことが、昭和型の根性と精神論から一歩抜け出し、次世代の品質を築く上で不可欠となっています。

本記事では、現場目線で実践的に「不良モードの再発防止を設計条項へ落とし込むDRの運用」について深掘りします。
調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化…
そのすべての現場で役立つ、リアルなノウハウとラテラルシンキングのヒントを、業界の現状を交えながらお届けします。

不良モード再発の原因と業界特有の課題

属人化と経験依存の現場体質

多くの製造現場でいまだに幅を利かせているのが、「ベテランの経験による暗黙知」と「感覚値での問題対応」です。
不良の発生原因が現場作業者の感覚や勘に依存しやすく、トラブル対応も「とりあえずやってみた」式になりがちです。

これには、
– 設計と製造現場の情報共有不足
– 教訓や再発防止策が文書化されず口伝えに終始してしまう文化
– 原因分析や設計見直しが後回しになり、次の製品設計に活かされない
といった、アナログ型業界に根深い課題があります。

対応が後手に回る“場当たり主義”の限界

不良対策が「とりあえず当座をしのぐ」処理になってしまう現象も珍しくありません。
ヒヤリ・ハットや過去の不良記録を活用しきれず、同じ不良モードが何度も現場を悩ませることになります。

また、製品ごとに設計~製造~検査~納入までのプロセスが分断され、知見の蓄積や水平展開が進まない…といった声もよく挙がります。
このような業界特有の“昭和的課題”が、不良再発防止を阻む最大の障壁となっています。

再発防止を設計条項へ落とし込むとは?

「対症療法」から「システム的根治」へ

再発防止策を設計条項として明文化することは、「直った気がする」ではなく、「設計思想やプロセス全体で二度と起こらない仕組みを作る」ことを意味します。
たとえば、以下のようなアプローチが必要となります。

– 不良モード(発生事象)とそのメカニズム(真因)を科学的に解明
– 原因が設計に要因がある場合は、設計資料や図面、仕様書へ明確な品質要求事項として明記
– 工程や取り扱い・使い方に関する場合も、標準作業手順や設備仕様へ反映
このとき、設計者と現場担当者・品質保証部門・調達部門など、多部門を巻き込んだ「合意形成」を必ず行うことが肝です。

設計条項化のポイント

– 具体的な数値・基準・条件で「守るべきライン」を明記
– 曖昧な表現や「~であることが望ましい」などのグレーゾーンを残さない
– FMEA、FTAなどの手法を使い、「抜け漏れ」を防止
– 対策の実効性を試作や実験で必ず検証し、その裏付けデータを記録
これらを、DR(デザインレビュー)のプロセスに組み込んで“全員でチェック”する仕組みを持つことが大切です。

実践的なDR運用と多部門連携の極意

DRは「儀式」ではなく「現場知の集合知化」へ

大手メーカーでありがちなのが、DRがあくまで通過儀礼に終わり、実質的な議論や問題摘出に至らないパターンです。
本来、DRは
– 不良モードの真因と設計へのフィードバック内容
– 前回製造品の問題点・市場クレーム・バイヤーからの声
– 設計変更時のリスク評価
などを、各部門のナレッジを持ち寄ってオープンに議論し、全社の標準へ昇華する場であるべきです。

現場/設計/品質/調達を巻き込む「共創型」DRフロー

DRの形骸化を防ぐため、以下のようなポイントを推奨します。

– 不良モードと対策を「設計仕様書フォーマット」に必ず記載→設計移管時・量産化前のDRで全関係者が確認
– 設計者主導ではなく、現場・品質・調達の“異なる視点”を意識的に組み入れる(ZoomやTeamsなどの活用も)
– バイヤー(調達)視点では、部材の過去トラブルやサプライヤー管理状況も共有
– サプライヤー側も参加を呼びかけ、“供給元とユーザー目線”両面での議論を行う
– 審議記録・議事録はナレッジDBで一元管理し、後任者/他拠点にも水平展開可能に

デジタルツールを活かすラテラルな工夫

昭和世代の紙ベースやExcel管理から、最新のPLM(製品ライフサイクル管理)やナレッジマネジメントツールへ移行する企業も増えています。
ですが、単なるツール導入では意味がありません。

たとえば、
– Excelで蓄積した「過去の不良レポート」と設計DRのアウトプットをシームレスにリンク
– QRコード・バーコード化した設計変更履歴を現場とリアルタイムで見える化
など、“点の情報”を“線→面”へ拡大するラテラル思考が、DR運用改革には欠かせません。

調達・購買/サプライヤー管理における再発防止の視点

調達・購買部門にとっても「設計条項への落とし込み」は死活問題です。
バイヤーを目指す人、調達担当者としてキャリアを歩む人には、以下の視点が特に重要となります。

調達・購買業務で肝心な“5M1E”視点

不良トラブルの発生源は「部材仕様」「加工方法」のわずかな違いから生まれることも多いです。
設計DRのなかで“5M1E”視点、「人・機械・方法・材料・測定・環境」すべてを点検し、バイヤーとしては

– サプライヤー工程のFMEA/工程能力
– 素材サプライヤーのロットごとの特性変動
– 代替材料・加工法への切替案
– 外部委託先・取引先の過去クレーム履歴
などを、設計条項と連動しながら管理することが求められます。

“部品指定”だけで満足しない再発防止マインド

単に「指定部品さえ使えば安全」という受け身姿勢は危険です。
設計条項へどのように折り込むか、DRでどんな議論をすべきか、バイヤー自身も能動的に関わり、サプライヤー教育や監査、監督体制の強化を推進する必要があります。

サプライヤー目線では、「お客様であるバイヤーがどこを重視し、どんな未来リスクに敏感なのか」を知ることが競争優位につながります。

【まとめ】設計条項とDRを進化させるヒント

不良モードの再発防止を真に実現するためには、単なる反省・対症療法に甘んじてはいけません。
設計思想から現場作業まで、全体を貫く明文化された「再発防止の設計条項」を、DRレビューで“知の集合体”として共有・管理し続ける…これが、昭和から続く製造業の「アップデート」に不可欠です。

これを実践する現場リーダー、バイヤー、サプライヤーが「面倒なことにも一歩踏み込む地道な努力」を惜しまないことで、個社の品質力・コスト競争力は確実に高まります。
そして、こうした現場起点の知見が業界の進化、SCM全体の強靭化につながるのです。

製造業界の未来を担う皆さんにとって、本記事が実践へのヒントと新たな地平線を拓く起点となれば幸いです。

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