投稿日:2025年8月19日

複数港積み合わせで積載率を高めるマルチオリジン集荷の実務

はじめに:グローバル時代における物流最適化の重要性

グローバルサプライチェーンが高度化・複雑化する現代において、物流の最適化は企業競争力の源泉となっています。
特に製造業においては、原材料・部品の調達コストとリードタイム短縮の両立が大きなテーマです。
近年、LCL(Less than Container Load/混載輸送)の効率化に加え、FCL(Full Container Load/コンテナ丸ごと一括輸送)においても積載率最大化のニーズが高まってきました。
その解決策の一つが「複数港積み合わせ(マルチオリジン集荷)」です。
この記事では、現場経験をもとにマルチオリジン集荷の実務を掘り下げます。
製造バイヤーやサプライヤー、物流担当者にとって必ず参考になる内容を解説します。

なぜ今、「複数港積み合わせ」なのか ~業界背景と課題意識~

日本製造業を取り巻く物流構造の変化

かつて、日本の製造業は国内サプライヤーからの安定調達と「一括大量輸送」の仕組みが主流でした。
しかし、原材料・部品の産地多様化、分散生産、近年の地政学的リスクやパンデミックショックにより、単一オリジンからの調達リスクが顕在化しています。

さらに、アジア各国の工場・サプライヤーから原材料を調達し、日本や欧米の製造拠点へ輸送する取引が急増。
一つの港、一つの輸出国だけではコンテナ効率が上がらないケースが増えました。

コスト・納期・環境対応(ESG視点)の三重苦

・輸送コスト高騰(コンテナ不足、運賃高騰、燃料費上昇)
・短納期&フレキシブル対応への現場要請
・CO2排出削減など、環境対応ニーズ

これらを同時に満たす必要があり、部分最適から全体最適が問われる時代に突入しています。

「マルチオリジン集荷」の必要性とメリット

複数の仕入先や異なる国・地域のサプライヤーで発生する部材を、一つのコンテナに積み合わせることで、積載効率の最大化とコスト削減を狙うのがマルチオリジン集荷です。
従来は「同一路線・同一港の貨物のみ」を原則としてきた業界にとって、大きなパラダイムシフトといえます。

マルチオリジン(複数港積み合わせ)の基本フロー

マルチオリジンの全体像を、バイヤーとサプライヤー双方の立場から解説します。

1. 商流・物流設計(計画段階)

・発地(複数港)ごとのサプライヤー選定と出荷スケジュール調整
・積み合わせ対象品目の決定(品目・パレタイズ・混載可否の制約確認)
・最適な航路・船会社の選定
・商務条件(インコタームズ、納入責任範囲)の合意形成

ここがプロジェクトの成否を分ける最重要工程です。

2. 輸送現場での積み合わせオペレーション

・港Aで一次集荷し、一部だけコンテナ仮積み
・途中、港Bで追加貨物集荷、さらに港Cで追加…
・同一コンテナに所定の順番・スペース配分で貨物ローディング
・通関関連の書類(税関申告、原産地証明など)手配や突合の徹底

パズルのようなローディングプランニングと、各工程での「誰が何を管理するか?」の明確化がカギです。

3. 到着側での荷降ろしおよび受入検証

バイヤーは、どの仕入先のどの貨物が混載されているか、詳細な積荷リストで事前把握しておく必要があります。
また、港ごとに異なる梱包仕様の差異や損傷リスクも管理課題となります。

現場で直面する課題と、解決の実務ノウハウ

1. 混載の制約と日本発アナログ文化の壁

昭和からの商習慣・物流管理文化では、「1港1仕入先1コンテナ」の発想が強く根付いており、複数サプライヤー混載という発想が浸透しにくい現状があります。
下記のような課題も多く、実務的な「現場目線」が欠かせません。

・到着側での遅延やミス(「誰の責任か」分かりにくい)
・混載できない危険物・非混載指定品の混在
・梱包仕様や積載レベルの「バラツキ」
・商流上の「伝票・書類処理」の煩雑化

2. 解決アプローチ:バイヤー/工場長経験者からの提言

・サプライヤー毎に「標準梱包・標準積載マニュアル」を策定
・個々の仕入先とロジスティクス部門の密接なコミュニケーション
・混載可否の事前評価とリスクアセスメント(部品の形状・重さ・強度)
・混載対応できる信頼性ある物流パートナー(フォワーダー等)の起用

さらに、現場では「各サプライヤーの納入体制や港側の積み合わせオペレーション力」も見極めが重要です。

業界動向:先進メーカー・商社の取り組み事例

大手自動車・電機メーカーでは、早期から「多国籍拠点の積み合わせ集荷」を実践しています。
たとえば以下のような事例があります。

・アジア全域の電子部品を複数サプライヤー・複数港で集荷、最終組立工場へ集約

部品点数が数百~数千に及ぶ事例では、各輸出港で動的にローディングプランを策定。
輸送中もIoTタグやトレーサビリティシステムを活用し、コンテナ内貨物の動態管理と不具合早期察知を実現しています。

・ファブレスメーカーのコスト圧縮事例

同一船便・同一コンテナで、村ごと、県ごとに点在する複数サプライヤーの製品や原材料を積み合わせ。
貿易書類の電子化・EDI対応で、事務負荷とコストを同時削減しています。

サプライヤー・物流会社の視点:バイヤーは何を重視しているか

サプライヤーから見ると、「なぜ混載する必要があるか」「リスクは?」と疑問や抵抗感も根強いです。
しかし、バイヤー(買い手企業)は以下の点を重視しています。

・サプライチェーンの安定化(BCP強化)

不測の事態でも他港・他サプライヤーからのバックアップ輸送が可能となり、供給確保のリスクヘッジが図れます。

・トータルリードタイムの短縮と発注柔軟性

複数ルートで積載率を最大化することで、発注単位のタイミング管理や緊急発注対応も柔軟になります。

・原価低減とオープンな物流コスト透明化

コンテナあたりの貨物単価を下げ、全体コストを明確に把握することができます。
この仕組みをサプライヤーと共有することで、「単なる値下げ交渉・コストダウン要求」とは違う、パートナー型調達が進められるのです。

「昭和方式」からの脱却と、ラテラルシンキングで見える新たな価値

これまで多くの会社が慣行としてきた「港ごと・サプライヤーごとの一括輸送」は、効率的なようでいて実は大きな機会損失が潜んでいました。
現場の壁・商流の壁・データ連携の壁を越えることで、次のような新しい価値を生み出せます。

1. 真のサステナブル調達の実現

ログ単位の輸送効率化はもちろん、サプライチェーン全体の環境負荷低減に直結します。
単なる積載率向上だけでなく、「必要なとき、必要な量を、最適な経路で」運ぶ柔軟性やサステナブルロジスティクスが実現できます。

2. 全社巻き込みによるプロジェクト推進力

部品調達・生産管理・物流・IT・経営層まで横断的に巻き込み、全社的な最適化プロジェクトとして推進すると一気に推進力が増します。
多様な知見を集約するラテラルシンキングは、現場起点こそ真価を発揮します。

3. データ連携×現場力で起きる業務革新

紙ベースだった発注・積荷指示・海上輸送管理を、EDIやAPI連携により自動化・省力化し、「属人化」から卒業することも十分可能です。
進化するテクノロジーと現場の知見が掛け合わさることで、日本発の製造業物流が新しい地平線を切り開く時代が到来しています。

まとめ:今こそ現場主導の「積載率革命」を

複数港積み合わせによるマルチオリジン集荷は、単なるコストダウンの手段ではありません。
サプライチェーン全体のレジリエンス・柔軟性・サステナビリティを高めながら、日本のものづくりをさらなる高みへと導くための「攻め」の変革です。

バイヤーを目指す方は、「物流全体を俯瞰し、積載率という新しいKPIで調達管理を進化させる」姿勢が求められます。
サプライヤー企業・現場担当者も、変化をチャンスと捉え、プロアクティブに信頼されるパートナーを目指すことが重要です。

昭和から令和へ、そして世界標準へ。
積載率の最大化と、業界全体を巻き込んだ物流改革の未来に向け、今こそ皆さんの知見と経験、そして現場力が必要とされています。

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