投稿日:2025年8月20日

フレートサーチャージ(BAF/PSS/GRI)高騰期に価格転嫁を抑える契約条項

はじめに

フレートサーチャージ(BAF/PSS/GRI)の高騰期に、どのようにして価格転嫁を抑える契約条項を設けるべきか——。
これは今、多くのバイヤー、サプライヤー、工場経営層が直面している喫緊の課題です。
特に製造業界においては、グローバルサプライチェーンの混乱、エネルギーコストの上昇、船会社の統合など、外部要因による運賃の乱高下が経営を直撃しています。

本記事では、調達・購買実務、生産現場の事情、アナログ体質のまま進化できていない業界慣行も踏まえ、現場目線で実践的かつ今すぐ役立つ価格転嫁抑制の契約条項や交渉テクニックをご紹介します。

フレートサーチャージとは?業界動向も解説

BAF・PSS・GRIの基礎知識

フレートサーチャージとは、国際海上輸送時に運賃本体とは別に課される追加料金です。
以下の3つは特に頻出します。

  • BAF(Bunker Adjustment Factor):燃油価格変動分の調整費
  • PSS(Peak Season Surcharge):繁忙期のスペース確保名目の追加料金
  • GRI(General Rate Increase):運賃改定や値上げのための幅広い追加料金

たとえばBAFは原油高や船会社の企業努力(=値上げ)で簡単に上下します。
PSSは6〜9月や年末商戦の直前、スペース競争の激化期に突如設定されるのが常です。
GRIは “赤字だから” の大義名分で繰り返し発動されます。

業界の気風と最近の傾向

製造業界、特に昭和からの慣習が色濃く残る分野では、運賃やサーチャージを内々で“仕方ないもの”と受け入れる空気が根強く存在します。
そのため、契約でしっかり抑えなければ、コスト増がダイレクトに利益を圧迫します。

2021年以降、海上運賃は一時的に4〜5倍にも高騰し、サーチャージも比例して異常値を記録しました。
今もその影響は尾を引いており、今後もコスト高の局面は必ず再来します。
こうした荒波に備える契約条項こそ、バイヤー・サプライヤー双方の“命綱”になるのです。

なぜ価格転嫁が起こるのか?現場目線で考察

バイヤーの苦悩

バイヤー側としては、原材料のみならず物流コストの上昇をどこまで社内に転嫁できるか、もしくは最終顧客に価格改定交渉が可能か、非常にナーバスな判断を迫られます。
特に大手機械メーカーや自動車部品メーカーなど、長期の価格固定・供給責任を持つ契約の場合、サーチャージ導入は死活問題です。

サプライヤーのジレンマ

サプライヤー側もまた、新規受注時にサーチャージ込みの価格提示を強いられる一方、突然の高騰期には“運送実費”などの名目で客先へ追加請求を求めざるを得ません。
しかし日本的取引文化では、「契約は絶対」「値上げは泣き寝入り」が長年の暗黙ルール。
強い立場のバイヤーに飲まざるをえず、自社の利益を圧迫し続けてきた歴史があります。

現場のリアル

購買現場では、「前年同月比」を基準に価格改定感覚が残っている場合も多く、急激なサーチャージ高騰を反映しきれず予期せぬ赤字を招く例があります。
加えて、契約時に細かな運賃条項を曖昧にした結果、責任所在が不明確→“とりあえず折半”といった曖昧決着で済ましてしまうケースも目立ちます。

価格転嫁を抑える3つの契約条項

(1)CAP(上限)条項の設定

サーチャージの高騰リスクを可視化・限定化するための最も有効な武器が「CAP」条項です。
値上げ幅、あるいは発効時期を明記し、“ここまでなら応じる”という上限を契約書・覚書・注文書のいずれかに明文化しましょう。

たとえば、「B/L発行時点でのBAFが前月比X%を超えた場合、Y円/コンテナを上限とする」といった具体的指標を盛り込むと、交渉余地が生まれます。
定量的なルール化により、現場判断のバラつきを抑止できます。

(2)Sliding(スライド)条項の応用

燃油や運賃指数(例:上海コンテナ運賃指数、Bunker Price Index等)に連動させた『スライド条項』も有効です。
これにより、サーチャージ変動の透明性を担保し、“市場の変動幅”を自動的に価格移転へ反映できます。

ただし、現場実務では毎月価格改定のやりとりが煩雑・ストレスになることも事実。
この場合、「基準月+半年ごとに調整」「変動幅が±5%以上に達した月のみ改定」など、実務負荷を減らす条件を併設することで、現場負担を最小化しましょう。

(3)ピュアFOB/CFR契約の組み合わせ

既存の取引慣行(CIF,FOB等)が“ざっくり”としか定めていない物流費部分を明確化し、サーチャージ高騰分のみを明細化して条項化する、というアプローチも効果的です。

たとえば…

  • 通常分はFOBで固定、BAF/PSS/GRIのみCFR調整に切り替え
  • 年度契約でなく四半期ごとにサーチャージ分だけ見積もりを分離(都度合意)

こうした細かい取り決めは、日本の“なあなあ”文化でも紙に落としやすいメリットがあります。

実際の交渉術・運用技術

現場で使える交渉フレーズ事例

バイヤー・サプライヤーそれぞれ立場ごとに、現場で役立つ“切り返し”トークもご紹介します。

  • バイヤー:「御社のサーチャージ申請額、業界標準や法的根拠に照らし合わせて再確認させてください」
  • サプライヤー:「今回のBAF適用範囲は過去の実績と比較して妥当ですか?別途データ開示にご協力いただけますか?」
  • 双方:「変動幅が±3%以内なら据え置き、それ以上は半額負担でいかがでしょうか」

ポイントは、“相手の立場”と“業界標準”を武器に、感情論でなくロジックで譲歩ラインを探り合うことです。

エビデンス管理・数値化の重要性

どの条項、どの交渉も結局はエビデンスをどれだけ具体的にそろえられるかが勝負です。
「上海航運取引所」や「日本船主協会」など、信頼性の高い統計を参照し、現場で毎月データ比較を習慣化しましょう。
「感覚」や「前年踏襲」のアナログ意識から脱却し、数値→契約→現場運用、のPDCAサイクル定着が、サーチャージ時代の競争優位を生みます。

昭和マインドからの脱却——実践に活かすための工夫

旧来型アプローチの限界

昭和世代に根付く“相談すれば何とかなる”“上司の丸め込みに頼る”やり方は、フェアでスピーディな調達環境とは言えません。
グローバル化、IT化が未対応の中小工場や、ベテラン担当者の勘頼み取引では、この種のコスト変動リスクに太刀打ちできません。

デジタル化・自動化との連動

最新のERPや購買管理システムでは、サーチャージを明細化し、自動で契約条件に沿った価格調整を実現する国際的な機能まで実装が進んでいます。
日本の製造現場でも、“帳簿・メール・口約束”の文化から一歩抜け出し、デジタルで交渉・リスク管理までする時代がすぐそこです。

現場主導のプロアクティブな動き

「本当にこの高騰が不可抗力か?」「競合他社はどうしているのか?」と現場主導で積極的に情報を集め、柔軟な契約見直し・運用改善を提案できる人材が今後広く求められます。

自社だけでなく、取引相手サプライヤー・バイヤー双方が納得できる枠組みを作ることで、中長期の信頼関係も育成され、自社の強固なバリューチェーン維持につながります。

まとめ:持続可能な契約・交渉で競争優位を

フレートサーチャージ(BAF/PSS/GRI)の高騰期には、その全額を価格転嫁するのではなく、事前の契約条項で上限やスライドルールを設け、双方にとって納得感のある条件設定を進めることが重要です。
さらに、現場でのエビデンス収集、デジタル・数値化の徹底、フェア&オープンな交渉姿勢が“昭和的な曖昧さ”を打破し、持続的な競争優位性につながります。

単なるコスト管理の枠にとどまらず、自社のサプライチェーン全体を最適化し、お客様と共に進化する——。
そんな現場からのイノベーションを、今こそ皆で起こしていきましょう。

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