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ID/CMF指示書テンプレ:色・素材・仕上げを誤解なく伝える方法

目次
ID/CMF指示書とは?製造現場での重要性
ID/CMF指示書は、製品開発において「色(Color)」「素材(Material)」「仕上げ(Finish)」に関する情報を正確に伝えるための設計指示書です。
製造業が高度化・グローバル化していく中で、ID(インダストリアルデザイン)部門と購買・製造現場、サプライヤー間のコミュニケーションミスによるトラブルが多発しています。
私も過去に工場管理職として、「発注した仕上げと微妙に違う」「色が最終イメージと合っていない」という苦い経験を何度もしてきました。
特に、昭和から続く製造現場では“言った・言わない”の文化や、図面に書ききれない「現場感覚」での指示が根強く残っており、デジタル化社会の今もなお「わかってくれるだろう」という思い込みが混乱の元になっています。
ID/CMF指示書を正しく作ることは、発注者とサプライヤーの相互理解を深め、無駄なコストや手戻りを抑制し、短納期・高品質を実現するための基本です。
なぜ伝わらない?アナログ文化で根強い現場の課題
「感覚」での伝達とミスの温床
製造業、とくに長い歴史を持つ工場ほど、“経験則”や“現場感覚”に頼る文化が根強いです。
「ツヤ感は前回と同じで」「この色はいつものヤツで」など、互いの経験への信頼が強い一方、イメージの共有が曖昧なまま進行する現場もあります。
しかし、人によって色や質感のとらえ方は違います。ベテランの“あうんの呼吸”は、世代交代やグローバル化・多拠点化が進むと機能しなくなり、意図が伝わらず手戻りや品質クレームにつながります。
紙図面やFAX文化が残す落とし穴
本来デジタル管理されるべきカラーデータや仕上げ指示が、未だに紙図面やFAXでやり取りされる現場では、カラーチャートの色味や材質感が正しく伝わらないリスクが高くなっています。
プリンターによる色の再現性の問題や、経年劣化した印刷物の色ズレ、ファイルで渡しても開くPC環境によるカラープロファイルの違い、さらには「Excelで描いただけ」など専用フォーマットになっていないケースも多数あります。
ID/CMF指示書の基本構成と必須項目
指示内容の誤解や曖昧さを減らすため、最低限押さえておくべきID/CMF指示書の構成・記載項目を整理します。
1. 製品名と仕様番号
どの案件・どのロットかを明確に記載し、間違えて過去の指示内容と混同されないようにします。
2. 使用部位の明記
本体・ボタン・カバー・枠など、どのパーツに対する指示なのか、図版や写真付きで具体的に示すことが重要です。
3. 色(Color)
JIS・PANTONE・RALなど、国際的なカラーチップ番号を明記し、品番やメーカー指定も添えます。
必要に応じて色見本(現物サンプル・カラーチップ)を同封し、「標準光下での確認」「目視での許容公差」など、判断基準もセットで伝えます。
4. 素材(Material)
ABS、アルミ、ステンレスなどの素材名だけでなく、グレード・型番・調達ルート(サプライヤー名まで指定する場合も)記載します。
リサイクル材や環境対応素材使用時は、その証明書や管理番号も明記しましょう。
5. 仕上げ(Finish)
グロス、マット、梨地、ヘアライン、メッキ、塗装、コーティングなど、仕上げ種別と工程を詳細に書きます。
表面粗度Ra値などの定量指標がある場合は必ず明記し、現物サンプル・マスターとの一致基準も伝えます。
6. 特記事項・管理方法
ロット管理・トレーサビリティの要求事項、色ムラ発生時の判定基準、現物照合の承認フロー、サンプル提出手順など、現場で迷いがちな運用方法まで記載します。
テンプレート例:現場で即使えるシート案
以下は実際に私も現場で使った例です。ExcelやWordでカスタマイズして活用すると便利です。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 製品名/仕様番号 | 〇〇型アッシー/NO.2024-01 |
| 部位・パーツ | カバー上面、操作部ボタン |
| 色(Color) | PANTONE 186c(カバーパーツ)/ RAL 9017(ボタン部) カラーチップ添付。標準光D65で目視確認。ΔE 2.0以内。 |
| 素材(Material) | ABS樹脂(旭化成グレードX-12)、リサイクル比率30% |
| 仕上げ(Finish) | 本体カバー:マット梨地 #220番 ボタン部:グロス塗装(BASF塗料指定)、表面硬度2H以上 |
| 特記事項・管理方法 | 初回ロットは現物サンプル承認後に量産開始。 色ムラ・ゴミ混入はNG/発見時は写真記録し調達部まで連絡。 |
このように、数値、現物サンプル、運用ルールまでわかりやすくまとめることで「これってどうだったっけ?」といった現場の迷いを減らせます。
脱アナログ!現場とバイヤー間で誤解が生まれない工夫
現物サンプルの活用とマスターマネジメント
理想を言えば、ID/CMFの全指示はデータだけでなく「現物サンプル」とのマッチングを必須とするべきです。
実際、私の職場でもカラーサンプルや仕上げ板、組立加工後の“マスター品”をよく作り、照合基準としています。
問題は、「どの段階のサンプルをもって合格とするか」を曖昧にしないこと。
また、年月が経ち色褪せたり、サンプルそのものが紛失して現場で誰も参照できなくなる――
そうした事態を避けるためにも、ID/CMF指示書に「サンプル現物と保管場所」「責任者」を常に明記しましょう。
カラーマネジメントシステムの活用
デジタルでもっと精緻に管理したい場合、専用カラーマネジメントシステム(CMS)との連携がおすすめです。
カラープロファイルや分光測色値など、定量データをID/CMF指示書フォーマットに反映し、「人の目」に頼らず色指示や検査ができるよう設計しましょう。
特に生産拠点が国内外に点在する場合や、大量ロット生産時には、こうしたシステム化はトラブル防止に大きく寄与します。
業界動向:DX化とサスティナブル対応が急務に
ここ数年で、特に大手メーカーを中心に、電子データベースによるID/CMF指示書管理やサスティナブル素材指定、カラーマネジメントDXが進んでいます。
これまでは「アナログ管理が長所」とされていた現場力も、海外OEMや外部サプライヤーとの協働時には、標準化・デジタル化が求められ始めました。
また、ESG経営やCO2排出量管理、グリーン調達といった新たな潮流では、「どの素材をどんな工法・条件で調達・加工したか」をサプライチェーン全体でトレーサビリティ管理する必要があります。
国際標準化や法規対応も強く求められており、従来の「現場の勘」→「定量指示・デジタル共有」への意識転換が急務です。
バイヤー・工場・サプライヤー間での心理的ミスマッチ解消術
「発注者本位」vs「現場本位」のギャップ
発注側(バイヤー)は、「これくらい分かってくれるはず」と、つい要求を明文化しなかったり、逆に細かすぎる指示をしたりしがちです。
サプライヤー現場は「言われた通りやったがイメージと違う」「そもそも理解できないほど複雑な要求だ」と戸惑うことも多々あります。
こうしたミスマッチは、発注者と現場担当が現物を囲みながら「なぜそうしたいか?」という目的意識まで共有することで減らせます。
打ち合わせプロセスに「なぜ」「何を目的に」を必ず組み込む
例えば、新素材や新色指定をする際、発色条件や工程上の制約まで共有すれば、現場側での工夫や代替案提案がしやすくなります。
また、「コストがどう変化するか」「歩留まりへの影響」など、実制作段階の意見も指示書にフィードバックできる体制にしましょう。
まとめ:伝わるID/CMF指示書が製造力を高める
製造業の現場では、ちょっとした「伝達ミス」が大きなコストや納期遅延、信頼失墜につながります。
ID/CMF指示書は単なる型通りの文書ではなく、設計意図と現場の知恵を橋渡しする「意思疎通のツール」です。
属人的な“現場感覚”に頼りすぎることなく、標準的なテンプレートを誰もが使える形で整備し、「数値」「現物基準」「運用ルール」まで明記しましょう。
バイヤーや設計者、サプライヤーそれぞれの立場で“なぜこの指示が必要か”という目的意識を共有しながら、日本の製造業が更なる高みを目指せることを願っています。
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