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仕様書の記載不足が責任分担の混乱を招く課題

目次
はじめに:なぜ仕様書は“命綱”なのか
製造業において「仕様書」は、部品や製品、装置などの品質・機能を決定づける最重要文書です。
社員が口を揃えて「仕様書通りに」と言う現場の声は、それだけ仕様書の威力とリスクを知っているからこそです。
私自身、調達購買、生産管理、工場管理を歴任した現場で「仕様書の記載不足」がもたらすさまざまな混乱と、それに伴う“責任分担”のもつれに幾度も直面してきました。
この記事では、現場目線でどこに落とし穴があり、アナログ文化の色濃い業界体質の中でどのように課題を乗り越えるのかを解説します。
仕様書とは何か?バイヤーとサプライヤー双方の視点
バイヤー(調達側)の視点
バイヤーは、自社の求める品質・性能を達成するため、サプライヤーに正確な情報を伝える責任があります。
この仕様書が曖昧だったり、情報が不足していたりすると、サプライヤーは“想像や経験”に頼って製作せざるを得ません。
これは品質トラブルや納期遅延、不具合発生時の責任分担でもめる最大の要因です。
サプライヤー(供給側)の視点
サプライヤーは、仕様書に記載された内容を基に生産や納品を行います。
仕様の記載が不十分、または矛盾していれば「これは守るべき仕様なのか」「どこまで責任を負うべきなのか」と現場で余計な判断や調整を強いられます。
その結果、微妙な“解釈違い”が現場レベルで積み重なり、重大トラブルの遠因となるのです。
現場で起きている記載不足が招く典型的なトラブル事例
1.「当たり前」が当たり前でなくなる落とし穴
「○○社製の材料を使うこと」「JIS○○準拠」など、調達担当者や設計者の頭には“常識”でも、外部サプライヤーにとっては情報がゼロからの出発。
「言わなくても分かるだろう」は危険です。
実際、些細な一文の不足から、納品後に「この材料では困る」「JIS認証品じゃないから納品不可」など現場は大混乱。
原因を辿ると仕様書の一文不足…というケースによく出遭います。
2.納期トラブル:「作れるもの」と「求められるもの」のギャップ
仕様記載が曖昧なまま“納期厳守”を指示された結果、サプライヤーは自身の過去経験を頼りに製作。
ところが「これでは機能または安全基準を満たさない」と判明し、再製作や仕様変更で大幅なスケジュール遅延。
この場合、責任分担はどちらに?というバトルに発展します。
3.不良品発生時の“なすり合い”と後味の悪い関係
納品後に検査でNG判定となった際、「仕様に記載がないので責任は免責」「いや、業界の常識では品質基準」が双方で平行線。
結局、誰も納得しないまま信頼関係が損なわれることもしばしばです。
なぜ記載不足はなくならないのか‥昭和的アナログ業界の根深い課題
“阿吽の呼吸”が美徳の文化
日本の製造現場は「空気を読む」「長年の取引だから分かり合える」という一種の“暗黙の了解”文化が根強く残っています。
結果として、「文書化しない情報」が現場では大きなウェイトを占めています。
口頭説明や現場任せが常態化
特に中小メーカーや老舗サプライヤーの現場では、「図面に書ききれていなくても直接相談」「電話で調整すれば良い」という仕事の進め方が多いです。
このアナログ体質が仕様書記載不足の温床になっています。
「書きすぎても嫌がられる」「細かすぎる客先は面倒」のジレンマ
仕様書を詳細にすればするほど、「細かく書くな」「それほど厳密じゃない」と逆に敬遠されるという現実も見逃せません。
このバランス感覚が担当者の判断ミスを生みやすくなります。
実践的な対策:混乱を防ぐ仕様書づくりのキーポイント
バイヤーの立場から:伝える努力の徹底
・「普段のルール」「常識」も確実に明文化
・“理解しているだろう”は禁物。新人が見ても分かるレベルで記載
・「書きすぎてうるさい」と言われることを恐れない
逆に、曖昧な契約や口約束は紛争の元。
不十分な仕様書によるトラブルの多くは、最初に明記されていれば防げるものばかりです。
サプライヤーの立場から:「確認」のクセをつける
・読み返して分からない点、不明確な項目は必ずバイヤーに確認
・自社都合の勝手な“解釈”や“アレンジ”は厳禁
・小さな疑問や追加事項の記録を徹底するクセをつけましょう
また、曖昧な指示や文言が入っていたら、そのまま放置せず理由や背景を問い合わせましょう。
現場まかせにしない文化こそが将来の損失リスク回避につながります。
組織で取り組むべきこと:デジタル化とナレッジ共有の促進
DX・デジタル化の力で「言った言わない」からの脱却
仕様書を紙やエクセルで管理している会社も多いですが、トラブル時には「最新版はどれ?」「修正履歴が曖昧」と更なる混乱を招きます。
できるだけ早くデジタルプラットフォーム(例:仕様管理システム・クラウド文書管理など)を導入し、修正・履歴管理・関係者全員の同時確認をルール化しましょう。
これによって、責任分担の曖昧さを減らし、情報共有がスピーディーかつ正確になります。
ナレッジマネジメントの徹底と事例蓄積
過去のトラブル事例・仕様書サンプル・業界標準ガイドラインを、全員が検索・活用できるナレッジベースを作成しましょう。
仕様書づくりの質を高めるだけでなく、担当者が変わった際の「引き継ぎ」や、外部への“教育”にも効果大です。
まとめ:仕様書は製造業の信用の証
仕様書一つが「企業の信用」と「サプライチェーンの安全・安心」を守ります。
アナログ文化の名残がある製造業でも、新しい考え方や仕組みを積極的に取り入れることで、仕様不備による責任分担の混乱は大幅に減らせます。
バイヤー・サプライヤー双方がお互いの立場における“本音”と“リスク”をよく理解し合い、仕様書を共通言語として育てること。
ここにこそ、日本のものづくり現場が、昭和から令和へと進化する真の原動力があるのです。
特に、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーからの立場で現場改善をしたい方にとっては、仕様書整備こそが最初の一歩であり、“トラブル知らず”の製造業への第一歩となります。
新しい地平線を、ぜひ一緒に切り拓きましょう。
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