投稿日:2025年8月27日

リーファー温度逸脱の原因切り分け:PTI証跡・データログ・設定責任の立証

はじめに – リーファー温度逸脱問題が及ぼす現場への影響

冷蔵・冷凍貨物や医療品、生鮮食品の国際輸送では、リーファー(冷蔵/冷凍コンテナ)の温度管理が生命線となります。

しかし、現場では「温度逸脱」すなわち設定温度を外れるトラブルが起こることがあり、発生原因の切り分けや責任所在の明確化が大きな課題となっています。

物流現場や工場で、納入品質の信頼性やサプライチェーン全体の調和に直結するこの問題。
購買担当者(バイヤー)、生産現場、サプライヤーのすべてが知っておくべき、現場での実践と最新トレンドをまとめます。

リーファー温度逸脱:なぜ起きる?

リーファー温度逸脱には、典型的な原因がいくつか存在します。

現場で多い3つのパターン

1. コンテナ積載時の誤設定
2. リーファー本体の機器不調
3. 輸送中の外的要因や不適切操作

コンテナ内貨物の破損、カビ・腐敗や医薬品の品質低下など、温度逸脱が顕在化したとき、最も問題となるのが「どうやって原因を証明するのか」「責任はどこにあるのか」という点です。

現場で不可避な「責任の押し付け合い」構造

製造業の調達現場や物流業界では、未だに「証拠がないから責任が明確化できない」という昭和的アナログ体質が根強く残っています。

たとえば
– バイヤー:「きちんとした温度管理がマスト。逸脱はサプライヤーの責任」
– サプライヤー:「うちで積んだ時点では正常。輸送とその後の管理に問題があったのでは?」

この“押し付け合い”がしばしば紛争の引き金になります。

切り分けのキーファクター1:PTI(Pre-Trip Inspection)証跡

PTIとは、リーファーコンテナ出荷前点検のことです。

PTIの現場的役割

PTIは、リーファーが正確に機能していることを証明する重要な前提証拠です。
工場や倉庫で貨物を積載する前、リーファー機器業者が設定温度・冷却能力・アラーム履歴などをチェック。
「PTIレポート」として記録され、客観的なエビデンスとなります。

PTI証跡で責任範囲を明確に

PTI証跡があれば、「積載前まで機器に問題はなかった」ことが証明できます。
責任の切り分けに際し、PTI未実施や不備があれば、サプライヤー側に瑕疵が問われる場合もあります。
逆にパーフェクトなPTI証跡があれば、その後の問題は輸送経路や荷扱いの工程に責任を限定できます。

切り分けのキーファクター2:データロガー(温度記録装置)

近年、リーファーには必ずといっていいほど「データロガー」が装着されます。

データロガーとは?

輸送中の温度、湿度、場合によっては衝撃や開閉履歴まで、時系列で「ログ」を取得する装置です。
これにより、「いつ」「どの地点で」「どの程度」温度逸脱が発生したか、科学的に可視化できます。

データロガーの運用のリアル

工場・現場側が積載直後にデータロガー起動や、荷卸し担当が回収~解析する…といったアナログな運用が多いのが現状です。
データロガー解析には
– 時間軸のズレへの注意
– 温度センサー取り付け位置の「ずれ」による誤差
– ロガー自体の記録エラー/電池切れ
などの検証が必須です。
この運用手順の曖昧さや属人的ノウハウこそが、現場紛争の火種になっています。

切り分けのキーファクター3:設定内容と責任範囲

現場で最も論争になるのが「そもそも正しく温度設定されていたのか?」という問題です。

設定責任はどこに?

– 調達/バイヤー:購買仕様・契約書に数値指定できていたか
– サプライヤー/荷主:出荷指示書・インボイスで要件共有できていたか
– 物流事業者:積載時のダブルチェックや、輸送中の現場対応ができていたか

このように責任分界点が複層的です。
業界では、アナログな電話・FAXや手書き指示も依然多く、設定ミスや伝達ミスに気づけないままトラブルになるケースも見られます。

デジタル化の遅れと現場課題:昭和からの脱却はあるか

製造業・物流の現場では、「結局〇〇さんに頼る」「何となく大丈夫だったから現場の判断で」が根強く残っています。

一方で、
– クレームリスクの高まり
– 顧客からの監査強化(トレーサビリティ要求)
– 品質/コンプライアンス経営への移行
などの流れから、デジタル証跡や自動化推進の流れが着実に進んでいます。

AI解析やIoT連携による「リアルタイム温度監視」システムの導入例も、少しずつ広がりつつあります。

現場がすぐできる!温度逸脱対策アクション

現場の視点で、今すぐ強化できるポイントをまとめます。

1. 記録・証跡の「二重化」

データロガーは念のため2台(タイプ違い)設置し、異常時の裏取りができるようにします。
PTI証跡やチェックリストを写真データ併用で残すのも有効です。

2. チェックリストの明文化と簡素化

現場担当者の教育・引き継ぎには「〇〇の手順を誰でも理解できるマニュアル化」「煩雑ではなくA4一枚で済む」仕組みづくりが欠かせません。

3. 温度逸脱時の即対応フロー再点検

万一、運送時に温度逸脱をロガーが検知した場合、どのタイミングで誰がどんな連絡・措置を取るべきか、明文化し、全体で共有しておくことが重要です。
これを怠ると、逸脱後の判断や調査が後手になり、紛争の長期化につながります。

サプライヤー/BtoB現場で求められる「バイヤー視点」

購買・バイヤーの視点からすると、「原因の見える化」「再発防止策の論理的説明」を重視します。
再発防止とは「自分(サプライヤー)が不可抗力・現場判断ではなく、体系的に品質保証を遂行できる仕組みを持っているか」の証明に他なりません。

サプライヤー側が
– PTI証跡を揃えて出せるか
– データロガー記録の根拠資料を即時提出できるか
– 設定内容・契約書・仕様書の整合性を誤りなく開示できるか
この3点を体系的に見せられるかが、何よりの信頼獲得につながります。

まとめ:アナログ文化からのアップデートこそ競争力

リーファー温度逸脱は、単なる物流事故ではなく、製造業・サプライチェーン全体の信頼性に直結する問題です。

対策は、PTI証跡・データロガー・設定書類の三位一体による“エビデンス主義”の推進。
購買/バイヤーの視座を理解し、現場の「昭和的カンと経験」から「論理と可視化」の地平線にアップデートすることこそ、グローバル競争を勝ち抜く突破口です。

今こそ、現場での一歩が未来のスタンダードを創ります。
この考え方を共有し、製造業の現場力を底上げしていきましょう。

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