投稿日:2025年8月29日

ブランク最適配置で材料歩留まりを上げるネスティング設計

はじめに:今こそ求められるネスティング設計の最前線

製造業が直面する課題は、年々複雑化しています。特に材料費の高騰やサプライチェーンの混乱を受け、少しでも無駄のない生産体制へのシフトが急務です。

その中で、金属・プラスチック・布地など「シート状材料」を扱う現場で鍵となるのが、「ネスティング設計」です。現場では「板取り」「ブランク配置」などと呼ばれることも多く、材料を無駄なくカットし、歩留まりを最大化する技術として再注目されています。

私自身、昭和から続く伝統的な現場に身を置き、時代の変遷とともにネスティングの進化を目の当たりにしてきました。本記事では、現場目線で「なぜ今、ネスティングが重要なのか」を深掘りし、実践のヒントを最新のトレンドも交えてお伝えします。

ネスティング設計とは何か?

ネスティングの本質と目的

ネスティング設計とは、「シート材」や「板材」からいくつもの部品形状を最適配置し、材料の無駄を最小限にとどめる工程設計のことです。

現場では、「歩留まり(ぶどまり)」という言葉がよく使われます。これは「投入した材料のうち、どれだけ製品になったか」を表す尺度です。材料価格が上がれば上がるほど、この歩留まり向上が利益に直結します。

従来、ベテラン作業者が感覚と経験技を駆使して板取りし、良品率を引き上げてきました。しかし近年はCAD/CAMソフトやAIを利用したネスティング自動化も進んでいます。

なぜブランク最適配置が重要なのか

ブランク最適配置は、以下のような多くのメリットをもたらします。

– 材料コストの削減
– 製造リードタイムの短縮
– 裁断・加工工程での省力化
– 不良率・スクラップ発生率の低減
– 環境負荷への配慮(SDGs対応)

一方で、設計側・現場双方に高度な連携が求められ、設計思想次第で数%~場合によっては20%以上も歩留まりに差がつくのがネスティングの奥深さです。

歩留まり向上とネスティングの関係性

歩留まりとは何か?現場での重要性

歩留まりは、原材料を製品化する際の「効率」を示します。

歩留まり(%)= 製品に使えた材料の体積・面積 ÷ 投入材料総量 × 100

たとえば、鋼板100kgから90kg分のパーツを得た場合、歩留まりは90%です。たった1%の向上が何十万、何億というコスト削減につながることも珍しくありません。

流通価格の高い材料ほど、またパーツ点数が多く多種少量生産の現場ほど、ネスティングの巧拙が経営を左右します。

なぜ今、ネスティングに再注目が集まるのか

昭和・平成の時代、板金工場ではベテラン作業員の「カン・コツ」に頼る部分が多くありました。

ところが近年、複雑形状部品の増加や寸法公差の厳格化、多品種少量生産化などにより、目分量や旧来の帳尻合わせが通用しなくなっています。

また、高品質・低コストを要求する取引先(OEM・Tier1など)も多くになり、調達・購買部門でも材料歩留まりが業績評価に加味されるようになりました。

そのため、自動化やソフトウェア設計による「再現性の高いネスティング」が求められ、アナログ依存からの脱却が急がれています。

課題だらけの製造現場:アナログのままで苦しむ業界事情

現場に根強い「昭和的」な慣習と限界

多くの現場では、今なお「印刷図面をカッターと定規で切り抜き、現物合わせで板取りレイアウトを決定」するという昭和時代の方法が残っています。

理由は大きく3つあります。

1. 新しいシステム導入に対する抵抗感
2. ベテラン技能者が持つ経験値の継承不足
3. 社内横断的な歩留まり改善プロジェクトの不在

アナログ現場では把握が難しい「誰が、どこで、どれだけ材料ロスを生じさせているか」が見えにくく、結果的に改善施策が後手に回る傾向が強いです。

海外工場との比較と日本の課題

グローバルではレーザー加工・ウォータージェット・NCルーターなどデジタル機器が普及し、データ連携を前提としたネスティングが主流です。

一方日本では「手離れの悪い加工」や「見積用と実際レイアウトの不一致」、「設計と現場の距離の遠さ」など、非効率が慢性化しています。優れた工作機械を持っていても、ブランク配置で3%歩留まりが悪化すれば、ライバル企業にあっさり敗れる時代です。

ネスティング設計の実践アプローチ

事前準備:設計・生産管理部門の連携強化

優れたネスティング設計に不可欠なのは、「設計初期から歩留まりを意識する姿勢」です。たとえば以下のような連携が重要です。

– CADで部品設計時に「板取り最適化」を考慮する
– 生産準備段階でパーツ同士をグルーピングし、“まとめて配置”の工夫をする
– 裁断方向・穴あけ位置など、二次加工も見据えた配置を検討する

設計現場と実際に加工する現場が分断されていると、この最適化がうまく進みません。設計担当者が現場に足を運び、一緒にブランク検討したり、現場側から加工の「クセ」を設計へフィードバックする仕組み作りがカギとなります。

自動化ツール・ソフトウェア活用のポイント

最新のネスティングソフトでは、CADデータを読み込み、複雑な形状部品も自動的に最適配置してくれます。利用にあたっては以下のポイントを押さえましょう。

– 材料のロットサイズ、シートの既定サイズを正確に登録する
– 機械加工のシミュレーションも合わせて確認し、「刃物の干渉」や「切りしろ」の条件を盛り込む
– バージョン管理や履歴保存を徹底し、PDCAサイクルで最適化を続ける

たとえば複数部品を混載カットする「コンビネーション・ネスティング」は、スペース効率・リードタイムともに改善効果が大きいです。AI技術が入り、「ロス率が3%以下」など目標値を入力するだけで最善配置案を多数生成できるケースも増えました。

バイヤーとサプライヤーで異なる歩留まり意識

バイヤーの立場から見たネスティング評価のポイント

購買・調達担当者にとって、「どれだけ効率よく材料を使えるか」は納入価格・コスト改善交渉で重視するポイントです。

– 成形品1個あたりの材料使用量
– 歩留まりの悪い工程を除外できないか
– サプライヤーのネスティング技術力を見極める

近年は「材料価格の指定」「リサイクル材推進」などグリーン調達の観点も加わり、ネスティングの高度化が受注条件にもなりやすいです。

サプライヤーが意識すべき「見える化」とコミュニケーション

サプライヤーは、「いかにロスを抑えて生産しているか」を可視化し、バイヤーへ根拠データとして提示することが差別化につながります。

たとえば「同一歩留まり率でも納期の短縮や柔軟な小ロット対応が可能」とアピールするのも有効です。社内のネスティングノウハウを属人化させず、標準化・共有知化することで全体の底上げが期待できます。

現場ベースで取り組みたい歩留まり向上施策

ベテラン技能とITの融合

人間の直感、現場合わせの工夫は依然として強力な武器です。ITツールを導入しても、すぐにすべての工程を自動化するのは難しいケースも多いです。

したがって、

– 現場スタッフにソフトウェアの基本操作を習熟させる
– ヒューマンエラーや手作業の癖を分析し、データ化する
– 実際の裁断・加工後に、必ず結果をフィードバック会議で共有する

こうした「ベテラン職人文化」と「デジタル自動化」のハイブリッド運用こそが、現場力を最大限に活かすネスティング戦略です。

今後の展望:ラテラルシンキングで新たな地平を拓く

材料歩留まり最大化の戦いは、従来の延長線上の工夫だけでは限界があります。ここで鍵となるのが「ラテラルシンキング」、つまり水平思考です。

– 部品形状そのものを「板取り効率優先」で再設計する
– 切断後の端材を別製品に活用する「工場間連携」
– サプライチェーン全体での歩留まり管理・情報共有

こうした一段上の視点から最適配置を考えることで、今までにないイノベーションが生まれるはずです。

またAI・ビッグデータ解析の進歩により、瞬時に数百万通りのネスティング案から最適解を導き出す時代も目前です。

まとめ:一歩先の現場力が、会社の未来を支える

ブランク最適配置によるネスティング設計は、材料を大切に使うという原点から、「現場・設計・調達・サプライヤー」すべての工程をつなぐイノベーションの起点です。

新たな道具を恐れず取り入れつつ、ベテランの知恵を生かす。現場の視点で課題を深掘りし、水平思考の発想で「当たり前」を見直す。これこそ成熟産業の新たな地平線です。

まずは小さな改善から。今日からできる「歩留まり向上」への一歩をぜひ始めてみてください。

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