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OEM契約で意匠権侵害を巡る争いに発展したケースと防止方法

目次
OEM契約で意匠権侵害を巡る争いに発展したケースと防止方法
はじめに
近年の製造業界において、OEM(Original Equipment Manufacturer)契約は、コスト削減や生産力強化、技術提携の手段として広く普及しています。
自社ブランド製品だけでなく、他社ブランドの製品を製造委託するOEMは、特にアジア圏で競争力の源泉となっています。
しかし、多くの企業がOEM契約を活用する一方で、その「落とし穴」とも言えるリスクが存在します。
製造した製品が意匠権(デザイン権)を侵害していたことにより、予想外の法的トラブルに発展するケースが後を絶ちません。
本記事では、実際に現場で起きた事例や、昭和的アナログ志向から抜け出せずに生じる問題、さらに現場目線でのリスク把握・防止策について深掘りします。
製造業従事者やバイヤー志望者、サプライヤーの皆様にとって、「守り」と「攻め」を両立する知恵となる記事を目指します。
OEM契約と意匠権―なぜ問題が起きるのか
OEM契約の基本構造
OEM契約とは、発注側(バイヤー)が、自社ブランドで販売する製品の設計情報や仕様書をサプライヤーに提供し、サプライヤーがその製品を委託製造する契約です。
多くの場合、製品のデザインや発明自体は発注側主導で設計されることが多いですが、サプライヤーが設計や部材選定に関与するケースもあります。
意匠権の落とし穴
意匠権は、製品の形状・模様・色彩など「デザイン」として登録された知的財産権です。
特許権や商標権と同様に重要で、模倣や流用があれば法的責任を問われます。
OEMでは発注側とサプライヤーの間で、どちらが意匠権リスクの調査責任を持つか明確化されていないことが多く、安易な運用、特に「前例踏襲」によるリスク認識の希薄さから大きな問題が生じます。
昭和的アナログ運用のリスク
製造業の現場では、「長年の付き合いだから大丈夫」「昔から同じデザインを使っている」「相手先から細かい指示はなかった」という昭和的思考が色濃く残りがちです。
これが、意匠権のアップデートや競合他社の新規登録の把握漏れ、契約書面の不備につながり、知らぬ間に侵害行為に巻き込まれる大きな要因となります。
意匠権侵害を巡るリアルなOEM紛争事例
事例1:部品デザインの流用で賠償命令
ある発注企業A社は、サプライヤーB社へ家電部品のOEM生産を依頼しました。
設計書には「従来と同等品」とのみ記され、詳細な図面や意匠権に関する注意事項は特に指定されていませんでした。
納品後、A社が販売した製品が、競合他社C社の意匠権を侵害していると指摘を受けました。
訴訟の結果、A社とB社の両者に対して高額な損害賠償が命じられる結果となりました。
原因は、設計変更時の意匠権調査を十分に行わず、「前例踏襲」で進めたこと、また、契約上の責任分担が曖昧だったことにありました。
事例2:海外サプライヤーからの不正流用
海外サプライヤーD社とOEM契約を結び、独自デザインの部品を生産していた日本のメーカーE社。
しかしD社が、E社向けに製造した製品を他の顧客にも同じ意匠で販売していたことが発覚。
E社は自社の意匠登録の有無を確認せず、意匠管理体制の構築を怠っていたことで、差止請求や損害賠償の法的主張が後手に回ってしまいました。
事例3:二次OEM供給先を通じた侵害訴訟
自動車部品のOEMを委託する大手サプライヤーF社は、部品生産の一部を協力工場G社に再委託していました。
しかしG社が、その部品の寸法やデザイン情報を第三者に流用したことで、結果的に元請けであるF社が意匠権を侵害したとの指摘を受け、信頼の大きな損失に発展しました。
このケースでは、サプライチェーン管理と情報管理の緩さが致命傷となりました。
OEM契約における意匠権侵害の主な原因
設計責任の曖昧さと情報共有不足
OEM案件の多くは、仕様書レベルで設計責任が「どちらにあるか」明確に定めていません。
現場では忙しさから「相手が調べているだろう」「いつもの慣行だし問題ないだろう」と業務が進行することが多いです。
見積もりや仕様確認プロセスで、「意匠権の有無」「権利調査の実施責任範囲」が社内やパートナー間で合意されていないまま、製造指示へと移行した結果、後々大きなトラブルに発展します。
安易な模倣やリバースエンジニアリング
海外調達やコスト競争の激化のなかで、「似たものを安く作ってくれ」という要望が現場から出やすくなっています。
こうした際、既存市場品の形状や意匠を安易に模倣することで、無自覚のうちに意匠権侵害となるリスクが高まります。
契約書面や仕様書の弱さ
契約段階で「知的財産権侵害時の責任はどちらが取るのか」という条項を抜きにしたまま、受注・発注が進んでいる例がまだまだ業界には多く存在します。
アナログな慣習を重視し、「口頭確認」や「以前からのやり方」だけで済ませてしまうと、防御策のないまま多額の賠償やビジネス中断に直面します。
実践的!意匠権侵害を防ぐOEM契約の進め方
1. 設計段階から知財調査をルーチン化
意匠調査は設計部門や開発部門の専門業務として属人化しがちですが、現場(購買・生産管理を含む)レベルでも意識し、OEM受注時は必ず「意匠調査報告書」の添付をルール化します。
既存権利の有無、他社登録状況、解説付きで履歴化しておき、設計変更時は都度見直す体制が不可欠です。
2. 契約書面は最低限、知財責任分担を明記
・「受注側は発注側から提供された設計図・仕様書が第三者の権利を侵害しないことを保証する」
・「発注側から与えられた設計指定に基づく意匠権侵害があった場合、発注側が責任を負う」
・「受注側にて意匠調査を実施し、疑義がある場合は必ず事前協議を行う」
といった知財責任・協議の流れを明記し、不明確な部分をゼロにします。
3. 設計情報・図面管理とトレーサビリティ徹底
サプライチェーンを複数階層で管理する場合でも、設計情報や図面、変更履歴は「誰が・いつ・どこで」扱ったかまでトレースできる仕組みに整備します。
昨今は、図面の電子管理、アクセス履歴のロギング、変更履歴のマイクロタイムスタンプが活用できます。
人手運用だけに頼ると、うっかり流出や転用、情報の改竄が起こり得ますので、必ず仕組みとして網を張るべきです。
4. 内外での教育と意識改革の徹底
昭和的「前例踏襲」や「おおらかさ」から脱却し、現場(特にバイヤー・購買担当者・生産技術者)を対象とした定期的な知財研修を重ねることが重要です。
現場主導で紛争事例や失敗体験をフィードバックし、身近な課題・リスクとして自分事に落とし込むことで、「自分の現場にも起こり得る」というリアリティを根付かせましょう。
OEM時代の賢いバイヤー・サプライヤー像
バイヤーは何を考えているのか(サプライヤー視点)
バイヤーは調達先に対して、「品質とコスト」だけでなく、「リスク要素最小化」「納期遅延防止」「法令順守」も強く求めています。
とくに現在はコンプライアンス重視の企業が増え、サプライヤーリストからの排除や取引停止に発展するリスクも高いです。
サプライヤーの側も、「意匠権・知財の観点からリスクを先回りして潰し込む」スタンスが選ばれるパートナーの条件となります。
サプライヤーが実践すべき予防策
・自社で知財調査を習慣化し、設計変更時・新規受注時は必ず知財部に確認する
・契約書や見積書に、知財責任や協議義務を自発的に明文化する
・バイヤーに対しても「こうした調査をしています」「疑義がある場合は相談します」とアピールし、信頼を獲得する
これらが、OEM契約時代におけるブランド力・競争力の土台になります。
まとめ
OEM契約は製造業の現場に大きなビジネスチャンスをもたらしますが、その裏側に意匠権侵害という大きなリスクが潜んでいます。
昭和的アナログ慣習を引きずったままでは、思わぬ経営ダメージや信頼失墜につながります。
現場レベルからの知財調査・管理体制の確立、契約内容の明文化、教育や意識改革――これらを地道に進めていくことで、「OEMの新時代」を賢く勝ち抜くことができます。
製造業のさらなる発展のために、ぜひ現場の皆さんが自ら率先してリスクマネジメントを強化していきましょう。
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