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中小製造業との共同改善活動で得られる設計VEの実践事例

目次
はじめに:設計VEと製造業の現場
設計VE(Value Engineering、価値工学)は、製造業において本質的な価値を生み出すための重要な考え方の一つです。
VE活動によって製品やサービスのコスト削減、品質向上、納期短縮など多くのメリットが実現できます。
しかし現場では「VE」と聞くと、設計部門だけの仕事、コストダウンだけが目的、あるいはお仕着せの改善活動と捉えられがちです。
実際には社内や取引先を交えた共同改善活動こそが、真のVE効果を発揮します。
とりわけ、中小製造業との共同活動は現場力や実現力の根幹を担うケースが多く、デジタル化が進まない昭和的な工場でも、その風土を生かした地道な改善の積み重ねが大きな強みとなります。
本記事では、20年以上に渡る現場経験を踏まえて、中小製造業と取り組んだ設計VEの実践事例を交えながら、バイヤーサイド・サプライヤーサイド双方の視点で、そのポイントとコツを紹介します。
なぜ今こそ「共同改善」なのか
業界全体の課題とVEの存在意義
近年、コストダウンのプレッシャーや人手不足、グローバル化厳格化など、製造業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
その一方で、製造業の多くの現場は「古き良き職人技」や「紙中心の管理」など昭和的な方法が根強く残っています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せる現代にあっても、こうした現場の“肌感覚”や“暗黙知”は、むしろ日本のものづくりの強みにもなっています。
だからこそ、設計部門だけでなく、調達部門・現場部門、さらには協力会社である中小製造業ともタッグを組み、実際に手を動かして製品価値を最大化する共同改善活動が必要とされています。
バイヤーとサプライヤーの“ギャップ”を乗り越える
バイヤー(買い手)側からVEを進める際、多くの場合「サプライヤーにコストダウンをお願いするだけ」「設計変更の指示を出すだけ」といった一方通行になりがちです。
一方でサプライヤー側は「現場は混乱する」「リスクが増す」「無理なコストダウン要求だ」とネガティブに受け止めがちです。
本当の設計VE成功には、両者の溝を理解し、現場と設計それぞれの知見を融合できる場作りが不可欠です。
むしろ、現場が持つ改善知識や、部品メーカー特有の工夫こそが、新たな付加価値やコスト競争力につながります。
中小製造業と実践した設計VEのリアルな事例
事例①:プレス部品の段取り簡素化によるコスト半減
自動車部品の一括調達が進む中、ある小さなプレス加工業者は、工程ごとの段取り替え(治工具の交換や調整)が多く、生産効率が良くありませんでした。
コスト低減の目標が掲げられる中、設計・調達・サプライヤー現場の三者で歩み寄ったのがVE活動の始まりです。
各工程の立ち会い観察とヒアリングを通じ、設計サイドは部品形状の「余分なカーブ」や「公差設定の厳しさ」が必要以上の手間とコストを生み出していることに気づきました。
小さな設計変更(エッジのR処理や、穴位置の標準化)を現場と擦り合わせることで、治工具流用率が向上し、段取り時間が大幅短縮。
最終的に単価を半減させつつ、品質トラブルもゼロになった事例です。
事例②:樹脂成形品の材料置換と歩留まり改善
電子機器向けの樹脂部品を担当していた中小モールド業者とのVE活動では、設計部門が強度だけを重視し、指定材料(高価なエンプラ)に拘りすぎていました。
サプライヤー側の現場実験や試作評価をもとに、代替樹脂の提案や、設計寸法の“ゆとり化”を進めることで、材料費と不良率をともに20%以上低減。
なお、この時点で設計者自身が成形現場の温度管理や金型交換を実体感したことが、双方にとって最大の学びになったのは言うまでもありません。
事例③:板金ユニットの“現場カイゼン”起点の設計反映
板金部品を多用した装置では、溶接“作業のしにくさ”や“歪み取り”が慢性的な課題でした。
ある現場作業者の「一工程で2mm長くしてくれれば、冶具固定がしやすい」といった声を現場リーダーが設計担当まで伝達。
現物確認と、現場リーダーとのディスカッションを経て、部品寸法や形状を現場仕様へ微修正した設計VEへ発展。
結果、作業ミスや後加工が減少し、納期遅延や品質クレームも激減しました。
このように現場の改善知見を設計へダイレクトに反映させることが、真の現場起点VEの肝になります。
現場実践から生まれるVE推進のコツと学び
サプライヤーの“声”を引き出すコミュニケーション
設計や購買の立場で重要なのは、サプライヤー現場の担当者や作業者が“言いづらいこと”や“小さな気付き”を安心して発言できる関係づくりです。
VE検討会や現場立ち会い時には「こうしたらもっと楽になる」「無理しない方が品質も安定する」といった現場本音をまず受け止める姿勢が不可欠です。
形式的な打合せだけで終わらず、お互いの職制や立場を越えて認識を揃えることが、最終的に本音・本質的な改善施策につながります。
現場との“三現主義”を徹底する
いくら効率やコストダウン要請を行っても、机上の空論やExcelの計算だけでは本当のVEにはなりません。
「現場現物現実(三現主義)」を徹底し、実際の設備や工程、部品に自ら触れて“肌感覚”を得ることが大切です。
納入先と工程見学や現場観察の機会を設けたり、設計者自身が製作現場で作業を“体験”することで、理論と現実のギャップを解消できます。
失敗共有とWin-Winの関係構築が継続化のカギ
共同改善活動を継続していくには、初回の成功・失敗やそれに至る経緯を、バイヤー/サプライヤー間でオープンに共有する場を作ることが重要です。
たとえば「コストダウン案を提案したが、品質リスクでNGになった」「逆に現場の工夫が想定を超えて成果につながった」など、体験を相互に振り返ることが双方の信頼醸成、同時に新たなアイデアの種につながります。
VE活動を「コストカット要求の一手段」と捉えず、「お互いの利益・成長のためのWin-Win施策」として位置付けることが、長期的な共同体制の原動力となるでしょう。
アナログ現場にVEを根付かせるポイント
地方やベテラン現場に“納得感”を与える
昭和から続く中小製造業では、とかく「変化は面倒」「伝統あるやり方を変えたくない」という空気感も根強いです。
こうした現場には、設計や購買がVE成果を現場目線で“可視化”して提案する(例:作業時間削減、工程の無理・ムラ解消、作業負荷軽減)ことが重要です。
また、現場の“誇り”や“やりがい”を認めつつ、「あなたの困りごとこそ経営課題」として真摯に向き合うことで、現場ベテランも納得しやすくなります。
小さな成功体験の積み重ねと“承認”
一足飛びの大きな成果より、一つ一つの“小さな改善”を丁寧に積み重ね、その価値(例:改善提案が採用された、作業が楽になったなど)を現場の“やった人”へきちんと承認・フィードバックすることで、徐々に共同体制が根付いていきます。
現場の頑張りが成果につながったときは、本社や設計・購買部門からねぎらいや感謝を伝えることも大切です。
まとめ:設計VEの未来は現場の知と融合する
中小製造業との共同改善活動は、設計VEが単なるコストダウン施策にとどまらず、本質的な価値創造や働き方改革、持続的なものづくり力強化の源泉となります。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの考え方を知りたい方、どちらも「現場と設計」「顔の見える取引」の枠を超え、「お互いに価値を高め合うパートナー」としての姿勢が不可欠です。
最新技術だけでなく、アナログ現場で培われた改善力・現場知恵を活かし、これからも日本の製造業が世界で戦える強さを磨いていきましょう。
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