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購買部門が日本調達に取り入れるべきトレーサビリティ管理

目次
はじめに:製造業で問われるトレーサビリティの重要性
近年、日本の製造業はグローバル競争やSDGsへの対応、サプライチェーンのリスク管理など、かつてないほど厳しい環境に置かれています。
そんな中、「トレーサビリティ(traceability)」は、単なる品質保証の枠を超えて経営全体の機動力や信頼性を向上させるキーワードとなりました。
特に購買部門がコスト削減・納期短縮ばかりを追い求めてきた昭和型調達から脱却し、高度な管理と付加価値向上を推進するうえで、トレーサビリティ管理の強化は避けて通れません。
この記事では、20年以上の現場経験を持つ筆者が、「なぜトレーサビリティが必要なのか」「何から始め、どう進化させていくのか」について、調達・購買分野に焦点を当てて具体的に掘り下げます。
日本のサプライヤーとの取引にこそ求められる本質や、よくある誤解、アナログな業界特有の課題にも触れます。
バイヤー志望の方やサプライヤーでバイヤーの視点を知りたい方にも役立つ内容となっています。
トレーサビリティとは何か?製造業におけるその本来の意味
単なる生産履歴の管理ではないトレーサビリティ
トレーサビリティという言葉が脚光を浴び始めたのは1990年代後半、自動車業界で大規模なリコール問題が頻発し、一部部品の不具合がどの車両・どの工程で使われたか調査に膨大な時間とコストがかかってしまった時期です。
多くの現場では「いつ・どこで・だれが・なにを・どのように作ったか」の履歴管理=トレーサビリティというイメージで止まっていることが多いですが、現代の調達現場ではそれ以上の役割を期待されています。
品質保証から企業価値向上とリスクヘッジへ
真のトレーサビリティは、「モノの流れ」だけでなく
・調達先(サプライヤー)の選定理由
・納期に至る管理の裏付け
・環境対応やコンプライアンス(グリーン調達や紛争鉱物回避など)
・コスト・納期トラブル時の責任分界点の明確化
といった、サプライチェーン全体の”説明責任”に直結しています。
つまり、「いつでも、何が起きても、合理的に説明できる体制」を保つことが、現代のトレーサビリティ管理の中核です。
昭和から抜け出せないアナログ調達の弊害
現場に根付く非効率な紙・ハンコ文化
長年にわたり「阿吽の呼吸」や「紙の帳票」「FAXや電話」に頼ってきた調達・購買現場は、時には「記録は残すが検索できない」「属人化が進む」「不正や改ざんが見逃される」といったリスクと隣り合わせでした。
特に日本の中小サプライヤーは、IT投資や標準化へのハードルが高く、未だにエクセル・手書き帳票が業務の中心にあるケースが珍しくありません。
サプライヤーとの信頼関係と現場力も限界に
かつて日本のものづくり現場は、「信頼」と「現場力」で多くのリスクをカバーしてきました。
しかし、調達先が多国籍化し、従業員の流動性も高まり、過去の「阿吽の呼吸」が限界を迎えています。
バイヤーが現場監査で「口約束」や「紙の証拠」に頼りきっていては、高度化する不正や事故リスクに対応しきれません。
購買部門が陥りやすい誤解と課題
「ウチの業界は特殊」と言い訳していないか
「うちの製品はロットサイズが小さく、流動的だから…」「日本の調達先は信頼できるから…」と、アナログ手法や慣習に固執してしまうケースは後を絶ちません。
しかし、食品偽装、品質記録改ざん、協力工場での労働問題など、「まさかうちの業界では」という油断が大きな信用毀損、ビジネス停止に直結した事件が続発しています。
バイヤー自身が”記録より記憶”で動いていないか
日々大量に発生する発注・受入・検収・クレームの履歴管理を「経験値」や「記憶」に頼ってしまうと、いざ責任を問われたときに説得力のある説明ができなくなります。
これからの購買部門やバイヤーに求められるのは、「合理的・第三者目線で説明できる履歴管理」です。
現場で実践できる、調達トレーサビリティ管理の進め方
1. 誰のために、何を「さかのぼりたい」のかを明確にする
「トレーサビリティ強化」と言っても、製品やプロジェクトによって必要な粒度や目的は大きく異なります。
・最終顧客から製造ロットまでさかのぼり、不良原因を特定するのか
・取引先のサステナビリティや法令順守状況まで追跡するのか
・災害や供給停止のリスクに即対応できる仕組みを作りたいのか
これらを曖昧にしたまま現場に「ITで可視化しろ!」と丸投げしても、現場の負担が増すだけで定着しません。
まずは被害時に「どう説明が付かずに困ったか?」や「どこで責任が不明確でトラブルになったか?」を洗い直しましょう。
2. 段階的にオンライン・デジタル化を始める
「一気にフルデジタル化だ!」と号令をかけても、現場に定着しない・データ入力が遅滞する・サプライヤー反発を招くなど躓く例が多いです。
まずは
・発注書、納品書、検収書の電子化
・原材料や部品ごとのロットNo./製造履歴の一元データベース化
・サプライヤーからの証明書類(RoHS, CO2排出証明など)やリスク情報のPDF化/オンライン保管
といった、紙・アナログ作業の最も多い部分から段階的に進めてください。
3. サプライヤーと協働し、無理なく仕組みを開発する
トレーサビリティは自社だけで完結できません。
特に日本の協力工場や中小サプライヤーはIT化に不慣れなことが多く、「導入コストや手間だけ押し付けられる」と反発を招く場合があります。
業界団体やプラットフォーム型ITツールを活用しながら、「なぜ必要か」「どの工程・情報をどこまでトレースするか」をサプライヤーと一緒に検討し、無理なく運用できるルールを作ることが大切です。
4. 取得データは「説明」に活用してナンボ
形だけのデータ蓄積に終始し、「いざ説明責任を果たす場面で活かせない」現場が多いのが実情です。
例えば「部品の不良発生時、製造ロットNo.→発注書→納品書→サプライヤー証明書→部品トレーサビリティ」と、ワンクリックで”流れ”を証明できる仕組みをゴールに設定しましょう。
また、調達履歴データから調達先の傾向、納期遵守率、品質波動要因の分析など、バイヤーがサプライヤー選定やリスク対策に活かせるように設計することが重要です。
欧州調達・デジタル先進国の動向から学ぶ
強制的な「証明」義務化の流れ
欧州では「グリーン調達」「サプライチェーン法」により、製品だけでなく原材料・部品の前工程、労働環境まで履歴提供・証明が求められています。
一部企業ではサプライヤー負担を減らすため、「誰が入力しても共通化できるクラウド型プラットフォーム」を提供し、調達網全体でデータ連携・証明対応のコストを圧縮しています。
日本調達の未来も、「合理的証明」が必須に
日本でも、今後急速に「顧客や株主、行政に説明できる調達」「持続可能性やBCPを重視した仕入先評価」が標準となっていきます。
昭和流の「信頼」「現場力」だけで押し切る時代は終焉を迎えつつあるのです。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる“覚悟”
トレーサビリティの高度化は「面倒」「追加コストの元凶」と捉えがちですが、逆に「自社もサプライヤーも“説明ができる”会社」とアピールできれば、調達競争力・事業継続力が上がります。
また、リスク情報の早期共有や品質事故の早期収束を可能にし、現場の負担・ムダな対外説明を大幅に削減します。
購買担当者もサプライヤーも、受動的に「やらされる」姿勢をやめ、「自社が主導して合理的な説明責任を果たすことで取引を有利に進める」姿勢に転換できるかが問われているのです。
まとめ:日本調達の未来は「説明できる管理」への転換から
製造業の購買部門やサプライヤー現場は、これまで支えてきた「経験」と「現場力」を否定する必要はありません。
しかし、グローバル競争・サスティナビリティ時代の今、「なぜ・いつ・誰が・どうやって」部品やサービスを調達・管理しているのか、”合理的に証明”できるかどうかが生き残りの鍵を握ります。
トレーサビリティ管理は、
・属人的な対応から組織的な説明力への進化
・アナログ慣習から段階的なデジタル化
・現場・サプライヤーとの共創による仕組み化
が求められます。
バイヤー、新人購買担当者、サプライヤー双方が「トレーサビリティ=未来の調達競争力」を意識し、昭和流の枠から”一歩踏み出す”きっかけにしていただければと願っています。
「見える」管理ができる購買は、商品力だけでなく信頼力も圧倒的に強くなります。今こそ現場目線で一歩を踏み出しましょう。
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