投稿日:2025年9月24日

部下の失敗を公然と責め立てる行為がパワハラに該当する瞬間

はじめに:現場でよく見かける「叱責」はパワハラか?

製造業の現場では、日々さまざまなトラブルやミスが発生します。

品質不良、納期遅延、誤発注、設備の停止など、現場を預かる管理職にとって「ミスへの対処」は避けて通れないテーマです。

厳しいスケジュールや安全要求というプレッシャーの中、部下に強い言葉でミスを指摘するシーンは、令和の今でも珍しくはありません。

しかし、時代は変わりました。

「部下の育成」と「ハラスメント」の境界線がより厳格になり、特にパワハラに関する法規制が強化されています。

本記事では、なぜ現場で「公然と叱る」行為が生まれやすいのか、どこからがパワハラなのか、実践的な対策や時代の潮流を交えながら、深掘りしていきます。

現場目線の具体例を通し、上司・部下両方にとってよりよい職場づくりを目指しましょう。

「公然と責め立てる」とは?製造業特有の現場構造

作業現場は「公開の場」になりやすい

製造現場の特徴は、多人数が同じエリアで作業を行う点にあります。

ベルトコンベヤー、ライン作業、現場ミーティングなど、常に多数の目がある「オープンスペース」で仕事を進めます。

そのため、課長や工場長が現場巡回中にミスを発見し、その場で是正指導を行う光景は珍しくありません。

実際の声掛け例を挙げると、
「また同じミスをしたのか」
「何度言えば分かるんだ」
「これじゃ出荷できんぞ!」

こうした言葉が、多くの同僚がいる中で発せられる状況は、「公然と責め立てる」行為に該当します。

なぜその場で叱るのか?現場の“昭和マインド”の根強さ

特に昭和からのアナログな組織文化が色濃く残る現場では、「ミスは現場全体の士気に関わる」「失敗はその場で正すのが正義」という価値観が今も残っています。

その理由には、
・安全や品質に直結するため見過ごせない
・同じミスを連鎖させないため
・改善文化を根付かせるため厳しさが求められる
という“善意”や“正義感”が根底にあります。

ですが、その善意が時に部下の人格を傷つけ、「パワハラ」の温床になってしまうリスクも小さくありません。

パワハラに該当する瞬間とは?法的基準と現場感覚

パワハラの法定基準(厚生労働省指針)

パワーハラスメント(パワハラ)は、2020年6月以降、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で明確に禁止されました。

厚生労働省指針によると、主な要件は次の3つです。
1. 職場内での優越的な関係を背景に行われる
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
3. 相手に身体的・精神的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる

「公然と叱る」行為は、部下との力関係、必要性・適切性、その結果の精神的苦痛という3点から評価されます。

どんな瞬間からパワハラになるのか?

以下のようなケースは、明確にパワハラに該当するリスクが高まります。

・ミスの事実と関係のない人格否定(例:「お前はいつもダメだ」「だから使えない」)
・大勢の前で過剰に長時間責める
・威圧的な口調や机を叩くなどの威嚇行動
・繰り返し侮辱・嘲笑する

また、1度の叱責であっても、部下が強い精神的苦痛を受けて業務に支障をきたす場合、訴訟リスクは十分あります。

“教育”と“パワハラ” 痛いほど曖昧な現場のグレーゾーン

現場では「指導の一環なんだ」「本人の成長のためだ」と考えがちですが、指導とハラスメントの境界は年々シビアになっています。

かつて当たり前だった“現場叱責”が、時代の変化とともに「安全でも、品質でも、パワハラは許されない」時代に。

ここを上司が誤認すると、本人だけでなく、組織全体に甚大な損害が及ぶことも少なくありません。

なぜ「公然と責め立てる」指導は時代遅れか

高まるコンプライアンス意識

一昔前までは、現場の指導方針は「多少荒っぽくても、チームを守るため仕方がない」で許容されていました。

しかし昨今では、社員一人ひとりの「心の健康」や「職場の安心感」が重要な経営課題と位置づけられています。

コンプライアンス(法令順守)違反やハラスメント訴訟は、企業ブランドの毀損、サプライチェーンへの悪影響、採用競争力低下など、ビジネスリスクが極めて高いのです。

世代間ギャップ・多様性時代の新たな指導スタイル

若手社員や外国人材が増える中、「恥を掻かせて覚えさせる」旧来型スタイルは、多様性を軽視した古い考え方と見なされつつあります。

事実、「人前で叱る」ことは多様なバックグラウンドを持つ人材にとっては深い精神的負担となり、退職の引き金にもなりかねません。

「人材確保が生命線」となった今、「公然と責め立てる」指導はむしろ組織に大きな損害を与えるリスクの高い選択肢なのです。

実践的な「指導」と「パワハラ回避」のコツ

1on1の重要性:「その場で」から「個別で」へ

ミスや問題点を指導する際は、可能な限り個別に呼び出し、“1対1”で状況を聞くことが大前提です。

「なぜミスが発生したのか」「本人にどんな思いがあったか」を対話形式で掘り下げることで、表面的な“怒り”をぶつけるだけの叱責を防げます。

また、本人が冷静になれる環境を整えることで、防衛本能からくる反発や萎縮も最小限に抑えられます。

事実と感情を切り分けるフィードバック

どんなミスも、事実と感情を冷静に切り分けることが大切です。

NG例:「またやったな。どうせ反省していないんだろ。」
OK例:「今回この工程でミスが起きた。具体的にどのプロセスで難しさを感じた?」

「なぜ起きたか」を共有し、「どう防ぐか」を一緒に考えることで、改善と信頼構築が同時に叶います。

再発防止は「全員で」考えるスタイルを

個人攻撃や“吊るし上げ”による責任追及より、「どうすれば同じミスが出ないか」を現場全体でオープンに考える習慣が事故ゼロ・工程安定のカギです。

ミスを組織の“成長機会”と捉え、報告した本人を責めずに称賛できる風土づくりも、今求められるリーダーの役割です。

部下・サプライヤーはバイヤー現場をどう見ているか

バイヤー主導の強い指示が「パワハラ」に映るとき

サプライヤーや協力会社とのやり取りの中でも、「公然と責め立てる」シーンは見受けられます。

バイヤー(購買側)がサプライヤーに対し会議で高圧的に問題追及したり、納期や品質不良の責任を人前で厳しく求めたりすることがあります。

このような指導は「技術継承」「品質確保」の大義で行われがちですが、第三者からはパワハラ・優越的地位の濫用と受け取られかねません。

“開かれた対話”が取引の未来を切り開く

昭和・平成の“命令型購買”から、令和は“対話型共創”へ。

サプライヤーの声や苦悩にも耳を傾け、建設的な問題解決を目指す「心理的安全性」のある商談が、取引先からの信頼、調達網の安定をもたらします。

バイヤーとしても、パワハラにならない質問・指導のコツを知ることが、これからの調達現場の重要なスキルです。

まとめ:より良い現場・組織のために
~新しい時代の叱り方を考える~

「公然と部下を責め立ててはいけない」
この言葉が、かつての現場叱咤文化に居心地の悪さを感じさせるかもしれません。

しかし時代は確実に変化し、現場と組織を守る「新たなリーダーシップ」「フェアな調達力」が求められています。

“指導”を超えた人格否定や吊し上げを排除し、安心してチャレンジできる職場・取引関係を築く。

製造業の現場力は、人の成長と心理的安全性が両立してこそ生まれます。

ベテランも若手も、バイヤーもサプライヤーも、お互いの立場を理解し合いながら、「パワハラにならない指導・対話のコツ」を、今日からぜひ実践してみてください。

きっと、現場の空気も数字の成果も、今よりもっと良くなるはずです。

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