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提案内容は正しくてもデザイン不足で採用されない悲劇

目次
はじめに:なぜ製造業では「提案内容の良さ」だけで通らないのか
製造業の現場では、いくら優れた提案内容を練り上げても、それが実際に採用されるとは限りません。
長年この業界で多くの案件に関わってきた私も、「内容は正しいのに、なぜか通らない」と悔しい思いをした回数は一度や二度ではありません。
なぜ、実行力や現実性、コストパフォーマンスも申し分ない提案ですら、上層部や現場から「決め手に欠ける」と言われて採用されないのか。
その理由の一つは、「デザイン不足」による説得力の欠如や伝達の工夫不足が背景にあります。
本記事では、実体験に基づきながら、内容の正しさだけでは不十分な理由や、アナログ文化が根強く残る製造業界特有の事情、そして実務に活かせる「提案が通るデザイン」の作り方について深掘りします。
バイヤー志望者やサプライヤーの立場でも理解しておきたい“現場のリアル”をお伝えします。
製造業における「提案が通る」のリアルな構造
「数字が正しいだけ」では通用しない理由
製造業は論理的思考や数字を重視する業界ですが、一方で「情緒」や「納得感」といった“見えない要素”も大きな力を持ちます。
ひとつ例を挙げましょう。
生産ラインを自動化する新システムの導入案を作成したとします。
ROIも高く、不良率も改善できる明確なデータを添えて提出しました。
しかし会議では「机上の空論では?」「イメージができない」「現場が混乱したら困る」といった声が上がり、不採用に。
この背景には、「論理・数値」で伝えても、最終的には「デザイン=現場や経営層に“未来像”を体感させる工夫」が欠けているケースが多いのです。
昭和的アナログ文化の壁
もうひとつの要因は、業界に根強く残るアナログ文化です。
紙資料が基本、パワーポイントより手書き掲示が安心される。
実機モデルを見せずに「デジタル図面」だけだと信用されにくい。
黒板を使って業務説明——こうした風土は多かれ少なかれ、どの現場にも色濃く残っています。
つまり、求められているのは“構想をわかりやすく可視化し、最後の一歩まで橋を架けるデザイン”なのです。
提案が通らない現場の悲劇——実際に起きたケースから学ぶ
私は工場長時代、調達購買や生産技術から寄せられる数多くの提案を受けてきました。
中には「なぜこれが通らないのだ」と自問するほど素晴らしい着眼点の資料もありました。
ですが、採用されなかった多くは、**以下の3つの特徴**が共通しています。
1.「現場の未来像」が不明確
どんなに理論が正しくても、導入後の工場風景やスタッフの作業イメージが湧かない資料は、「本当に運用できるのか?」と不安を持たれやすいです。
特に年齢層の高い現場リーダーには、「俺たちにも分かるように説明してくれ」と心理的バリアが働きます。
2.「ヒトへの配慮や感情の動き」まで踏み込んでいない
改善提案が、数値や工程改善にフォーカスしすぎて、現場で働く人の手順や心の動きを置き去りにしていると、「これはついていけない」「逆に混乱するだけだ」と失望感を招いてしまいます。
3.「視覚的な納得感」を蔑ろにしている
現場で多用される「野帳」や「5W1Hフローチャート」など、見慣れたフォーマットを否定し、独自性重視に走ると、逆にハードルが上がります。
つまり「デザイン」の本質は“馴染みやすさ” “腹落ち感”でもあったのです。
デザイン=「資料の見た目」だけではない
誤解されがちですが、「デザイン」とは単に資料の見た目や表紙の美しさ、色使いだけを指すものではありません。
むしろ製造業の提案で必要なのは「感覚として伝わる全体設計力」です。
私は現場目線で、以下を大切にしています。
・ストーリー設計
現場の日常からスタートし、課題、解決策、未来の理想像までが「物語」として流れるように構成する。
「いま」をわかりやすいイラストや写真で示し、課題の深刻さを共有。
解決プランが「現場の誰に、どんな期待やメリットを与えるか」を明確に描く。
・ダイアログの導線
管理職・現場リーダー・実作業者、それぞれの疑問や抵抗感を想定し“紙面や口頭説明”の中に「Q&A」コーナーや個別プロセスを織り込む。
単なる一方通行プレゼンで終わらせず、相手が言葉を挟みやすいよう余白を作るのもテクニック。
・既存資料フォーマットとの折衷
自社/現場に昔からある業務帳票やチェックリスト形式を、あえて部分的に組み入れることで安心感を与える。
一目で「過去との繋がり」が見えるようにする。
これらすべてが「現場を動かすデザイン」です。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる“デザイン力”の本質
バイヤー目線:社内・現場の共感を獲得する
バイヤーは社内決裁のために提案を資料化することが多いですが、「現場の管理職はこう考えがち」「社長には数値インパクトがキモ」「現場オペレーターには手順変更の不安を払拭したい」といった多層的な目線が欠かせません。
パワーポイントの資料でも、感情やストーリー、未来の絵姿や作業変更の手順図を必ず盛り込むことで、「全方位型の納得感」を演出できます。
サプライヤー目線:バイヤーの悩みを本質的に捉える
「仕様通りのご提案」だけでは、本当に求めている“潜在ニーズ”までは掴めていません。
バイヤーが現場説明や社内稟議で何に悩んでいるのか、どこで困っているのか、自社品の「伝え方」にも踏み込んで、バイヤーが最終的に“提案を社内で通しやすい”パッケージごと提供する、これが差別化ポイントとなります。
また、バイヤーの提案書を一緒にデザインしたり、「現場向けの説明会」まで設計するサプライヤーは圧倒的に信頼を得やすいです。
「提案が通るデザイン」の具体的なポイントと手法
現場に通る提案のコツは以下に集約できます。
1. 3種類の図解を活用する
「全体工程図」「現場の作業図」「導入後のワークフロー」この3点をイラストや写真付きで必ず添付します。
数字や文章だけでは伝わりにくい“現場感覚”を視覚に訴えてカバーします。
2. 導入後のBefore→Afterを明示
従来の問題点を写真・イラストで“痛み”として具体化し、未来像(効率化・省力化・安全性向上など)が「自分事」に見えるようBefore(現状)→After(未来)を並列表記する。
3. 「現場ヒアリング」結果を盛り込む
作業者や監督者の声を、記名で資料に載せることで「生の実感」を醸成。
「誰が、どこに困っているのか」まで落とし込むことで、本気度や現場理解が伝わりやすくなります。
4. 反対意見に“先回りした”FAQを入れる
「現場の混乱が心配」「コスト回収は本当にできるのか」など、想定される反論や懸念に事前にQ&A形式で返答を用意する。
相手の腹の内を読んだ提案は、それだけで説得性が段違いに高まります。
5. 「静と動」の資料メリハリ
データ分析画面や表の“静”と、現場写真や手順風景など“動”を交互に配列し、読み手の緊張を和らげる。
会議でも、「ここで実際の手順動画をご覧ください」と言えると、理解度は格段に上ります。
なぜいま“デザイン力”が最重要スキルとされるのか
モノづくりの現場が、今なぜここまで“デザイン力”を求めるようになったのか。
背景には、「人材不足」「高齢化」「複雑な工程」「多国籍チーム」「コストダウン要求」など、多くの現場課題があります。
言葉だけでは共有しきれない価値観の違いや、初見では伝わらない新技術・新工程。
それら全てを“ワンビジュアル”で共有できる「デザイン力」が、現場の納得と推進力を生む——これが現在の製造現場の最前線です。
まとめ:提案が通らない悲劇を乗り越えるには
「内容が正しければ、いずれ理解されるだろう」「上司はわかってくれているはず」、こうした考え方では、いつまで経っても昭和型のアナログ現場では“提案の壁”を突破できません。
大切なのは、「相手の目線で伝え、現場で動くストーリーに落とし込むデザイン設計力」です。
バイヤーもサプライヤーも、言葉と数字の壁を超えて、“誰もが未来像を体感できる”資料デザイン・プレゼンを極めてください。
それが、悲しい“提案採用の機会損失”を克服し、製造業の未来につながる本当の提案力だと、私は確信しています。
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