投稿日:2025年10月4日

経営層に響かない「数字の羅列」だけのプレゼン問題

はじめに:数字だけでは説得力がない現実

製造業における調達購買、生産管理、品質管理などの現場では、“エビデンス”として数字を重要視します。
しかし、経営層に対してプレゼンをすると、「結局、数字の羅列だけでは響かない」「さらに、結論がわかりにくい」と評価されることが少なくありません。
なぜ現場が必死で集めたデータやKPIが、経営層の意思決定に直結しないのでしょうか。
現場主導の“数字偏重型”プレゼンがなぜ失敗しがちなのか、その根本を探り、業界構造も踏まえた対策を紐解いていきます。

経営層と現場、意識ギャップの正体

現場が陥りがちな「正確性重視」の罠

ものづくりの世界では、「事実をベースに議論する」「数値で見せる」というカルチャーが長く根付いてきました。
生産数、不良率、納期遵守率、コストダウン額…現場は日々これらの数値を収集・検証し、報告資料やプレゼン資料に反映させます。

しかしその一方で、数字の背景やストーリーを十分に説明しなかったり、成果と課題の本質的な意味を明確に伝えきれなかったりするケースが目立ちます。
現場からすると「事実を伝えたのに、なぜ理解が得られないのか」と不満を覚えるかもしれませんが、実はそこに大きな認識ギャップが潜んでいます。

経営層が重視するのは「全体最適」と「将来性」

経営層は、単一部署の成果や作業プロセスの改善だけでなく、会社全体、場合によってはグローバル全体のバランスやリスクを見極めています。
彼らが知りたいのは、以下のような“Why”や“Impact”です。

– その数字が全社戦略や中長期計画にどのように寄与するのか?
– 業界の潮流や社会的な要請(SDGs・カーボンニュートラル・サプライチェーン強靭化)とどう連動しているのか?
– 単年度・四半期の実績だけでなく、今後の成長可能性や潜在リスクは?

つまり、数字ベースの報告だけでなく、“意味付け”と“全体像”のストーリー展開が求められているのです。

昭和から続くデータ文化、なぜ抜け出せないのか

「根拠となる数字」文化の弊害

製造業の多くは、昭和時代の「誰が見てもしっかり裏付けがある資料作り」「現場主義でコツコツ実績を積む」という美徳が強く残っています。
これは一方で、「とりあえず前年対比」「細かなグラフで詳細を並べる」だけの“数字の羅列プレゼン”を生みやすい土壌でもあります。
この手のプレゼンは、説得力があるどころか、経営層から見ると「で、結局どうしたいの?」という疑問に直結しやすいのです。

アナログな業界動向と“伝える力”の遅れ

他業界に比べ、製造業では「資料の見せ方」「プレゼン技法」「ストーリーテリング」が専門教育として浸透していません。
現場で抜群の知識や経験を持つベテランも、プレゼンとなるとパワーポイントのスライドに数字や表を並べるだけ──という傾向が強く、若手への指導もこの型から脱却できません。

例えば、購買やバイヤーを目指す方がサプライヤーレビューやコスト交渉で成果を上げても、その背景や将来的な位置づけを経営層に納得させきれないのは、この「伝える力」の差によるものです。

数値を活かす!経営層の心に刺さるプレゼンのポイント

Why(なぜやるのか)を常に先頭に置く

資料の冒頭で、「なぜこのテーマが必要か」「この課題に取り組む意義」から説明しましょう。
“数字による現状報告”より、「その数字が示す重大な課題、機会、脅威」を解像度高く提示することが重要です。

What(何が変わるのか)を明確に打ち出す

数字で「現状」や「成果」「課題」を示したら、必ず「だから何?」「何がどう変わるのか?」に着地させます。
仕掛品在庫が○%削減→作業時間の短縮・コストダウンに貢献し、さらに調達リードタイム短縮によるサプライチェーン全体リスク低減につながる、など“事業インパクト”まで視点を高めます。

How(どのように実現するか)は選択肢を持つ

経営層は「唯一解」よりも「複数の打ち手」や「代替案、リスク対応」の提案も重視します。
例えば生産現場の自動化提案なら、「投資回収期間」だけでなく、「人材不足リスク」「エネルギー効率」「運用負荷」など多面的な視点で示しましょう。

ストーリーとビジュアルを磨く

数字だけに頼るのではなく、“一目で理解できるストーリーボード”を作ることが重要です。
例えば、前後比較のグラフも「なぜ変化したか」をストーリーで添え、関係部署の協働や工程改善のポイントは簡潔なフロー図やブロックチャートで補うのが効果的です。

現場目線×経営視点で「本音」を伝える

現場の泥臭い課題や筋の良い取り組みも、従来の“作業実績”報告に収めず、「全社最適」にどう紐づくかを一歩踏み込んで自分の言葉で伝えましょう。
現場と経営を横断するストーリーこそが、経営層の共感や決断を生みます。

デジタル化の中、製造業の伝え方が変わる

データドリブン×ストーリーテリングの潮流

近年、デジタルツインや生産DX、SaaS型自動化ツールなどにより、以前よりも多様なKPIやベンチマークがリアルタイムでモニタリングできるようになっています。
しかし、その一方で、膨大なデータをいかに“経営インパクト”として編集し、全社の行動につなげるかが一層重要になっています。
これからの現場・バイヤーに求められるのは、「データを絞り込み、簡潔なストーリーに乗せて提案する力」です。

サプライヤー側でも「バイヤー視点」を持とう

サプライヤーの立場であっても、バイヤー(購入者)が何を求め、どんな判断基準で採用・継続・切り替えを決めるのかを理解することが肝要です。
そのために、自社の強みや提供価値を数字以外の“経営課題解決ストーリー”に乗せる工夫をしてください。
例えば「貴社のCO2排出量低減目標と我が社の省エネ型部品の導入インパクト」など、プレゼンの表現が“経営層目線”に進化すれば取引拡大にも直結します。

まとめ:業界文化をアップデートしよう

製造業の現場は、長らく「数値の羅列」が信頼や実績証明の王道とされてきましたが、これからは時代が変わります。
経営層に響くプレゼンには数字+「ストーリー」「意義づけ」「全体最適」「未来への布石」が不可欠です。
現場・バイヤー・サプライヤーすべての立場で、昭和的な“数字報告”型プレゼンから、新時代の“経営を動かす伝達力”へのシフトにぜひ挑戦してみてください。

ものづくりの真髄は「変化への柔軟な対応」と「現場力の発信」です。
データを最大限活かしつつ、“モノ”から“コト(価値・未来のストーリー)”へと伝え方をアップデートしましょう。
それが、製造業の発展を担う全ての方へのエールです。

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