- お役立ち記事
- 溶接後の酸化スケール除去不良を防ぐ機械的・化学的洗浄の比較
溶接後の酸化スケール除去不良を防ぐ機械的・化学的洗浄の比較

目次
はじめに:溶接工程における酸化スケールの課題
製造業の現場では、溶接はなくてはならない重要な工程です。
しかし溶接には様々なトラブルがつきものです。
その中でも「酸化スケール除去不良」は品質問題に直結し、後工程や最終製品の信頼性にも大きな影響を及ぼします。
酸化スケールとは、溶接時の高温で母材表面に発生する酸化(いわゆる酸化膜や黒皮)のことであり、そのままでは塗装やメッキ、表面処理に悪影響を及ぼします。
だからこそ酸化スケールの除去は見過ごせないプロセスです。
本稿では、20年以上の製造現場経験から見えてきた「酸化スケール除去不良に対する最前線の現場対応」について、機械的洗浄と化学的洗浄の双方を、効率・効果・コスト・安全性・サステナビリティなどの観点から現場目線で徹底比較。
さらに「なぜ昭和のやり方が今なお多いのか」という根本的な問題にも焦点を当て、これからの製造現場で一歩進んだ洗浄プロセスを実現するための知見をお届けします。
酸化スケール除去の意義と重要性
酸化スケール放置が及ぼす品質リスク
溶接後に酸化スケールが除去されず、そのまま出荷されると、互換部品の嵌合不良や塗装剥がれ、局所的な腐食促進など、実にさまざまな不具合が発生しやすくなります。
例えば自動車部品では、目視検査だけで見落とされた微細な酸化膜一つで、ユーザーからのクレームやリコール案件につながることも珍しくありません。
また機械加工や熱処理の工程に持ち越すと、工具摩耗の増加、加工精度の低下、場合によっては設備トラブルの原因にもなりかねません。
現場で根強い「洗浄は二の次」意識の落とし穴
多くの現場では生産効率や原価低減のプレッシャーから、「加工や溶接が終われば次へ回る」意識が強く、洗浄工程が軽視されがちです。
しかし不良品流出のリスクや後戻り工数を考えれば、洗浄は決して省略できない、いわば品質確保の第一防衛ラインです。
特に取引先の要求が厳格な欧米標準や自動車業界、医療機器分野ではその重要性が増しています。
機械的洗浄の方法と特徴
ブラスト(ショットブラスト、サンドブラスト)
最も広く用いられる機械的手法がショットブラストやサンドブラストです。
粒径や材質を選んだメディアを高圧エアで吹き付け、酸化スケールを物理的に削り取ります。
メリットには、装置化が容易で(連続処理、インライン化もしやすい)、特定箇所に狙い撃ちできること、環境負荷の少なさ(後述の化学薬品と比べて)などが挙げられます。
また設備投資はかかるがランニングコストは比較的安価です。
一方デメリットは、複雑形状や内面のスケール除去が苦手なこと、微細な酸化膜には有効性が落ちる点、操作者の安全管理(防塵、防音)への配慮が要ることなどが挙げられます。
さらに、過度な噴射や管理の不徹底により、素地荒れや母材ダメージを生じるリスクもあります。
研磨(ワイヤーブラシ、グラインダーなど)
小規模工場や個別対応では、ワイヤーブラシやハンドグラインダー、場合によってはサンディングペーパーなどで人手による研磨も一般的です。
融通は利きますが、作業者によって出来栄えにムラが出やすく、作業時間・作業負荷もばかになりません。
大量生産や高品質レベルを要求される現場では標準化しにくいのが現実です。
超音波洗浄
超音波洗浄は、一定以上のハイグレード部品や、微細なスケールの除去が必要な場合に導入されます。
液体中で超音波振動を与え、キャビテーション効果で酸化スケールや異物を剥離します。
微細構造や複雑な内部も比較的きれいに仕上げられますが、装置のコストや液の管理(温度、汚染度)、材料選択によって効果が変わるなどの課題もあります。
化学的洗浄の方法と特徴
酸洗い(ピクルス処理)
化学的洗浄の定番が「酸洗い(ピクルス)」です。
硫酸、塩酸、リン酸などの酸液に浸漬し、酸化スケールを化学的に溶解・剥離します。
最大のメリットは、複雑形状や細孔も均一化学反応で処理できること、人手やスキルに左右されにくく工程管理が容易なことです。
またショットブラストやグラインダーでは苦手な微細膜にも高効率で対応可能です。
デメリットとしては、酸液の希釈・廃液処理のコスト・管理負荷、作業者の安全衛生(酸液飛沫、吸入、皮膚障害対策)の徹底など、多方面で運用リスクが伴います。
また設備が高コスト化し、現場によっては建屋や排気設備、排水処理設備の増設が必要となるケースも珍しくありません。
アルカリ洗浄、溶剤洗浄
油脂や有機系のスケールにはアルカリ洗浄や有機溶剤洗浄も用いられます。
が、純粋な酸化スケール対策としては補助的な役割にとどまることが多く、現場では主に油汚れとセットでの多段式洗浄ラインの一部として組み込まれるケースが中心です。
機械的洗浄と化学的洗浄の現場比較
設備投資・ランニングコストの観点
機械的洗浄は設備さえ導入してしまえば以後の維持費は比較的安価です。
たとえば連続ショットブラスト装置は、材料の大小を問わず自動搬送にもなじみやすく、オペレータの作業負荷も減らしやすいのです。
一方で化学的洗浄は、酸液の購入・交換・廃液処理がランニングコストの大半を占めます。
また法令対応、環境負荷低減の流れで管理コストは年々増加する傾向にあり、工場のESG活動ともセットで戦略的に組み込まねばなりません。
処理品質・安定性の観点
化学的洗浄は均一性・再現性で優れ、製品バラツキが最小化できます。
しかも工程監査やトレーサビリティも確保しやすいので顧客要求に応えやすいです。
機械的洗浄では、形状や材質、作業者・設備状況による仕上がりバラツキが課題となることもあります。
逆に機械的洗浄は表面に微細な「荒れ」を付与できるので、後工程の塗装や接着の密着性を意図的に向上させる狙いで使う例も存在します。
作業者の安全・環境対応の観点
化学的洗浄は、作業者の防護と取り扱いが徹底されていれば安全運用も十分可能ですが、万一の飛沫や漏洩時対応、近隣住民・環境当局への説明責任までを考えるとルールづくりは不可欠です。
一方機械的洗浄も粉塵・騒音・飛散対策が疎かになると職場環境トラブルに発展します。
現場で両者をミックスする場合、ゾーン分けや工程別安全教育が必須となるでしょう。
昭和の現場に今なお根付く「アナログ洗浄」の本音と課題
長年現場を見てきた立場から言えば、多くの工場で今も「手作業+溶剤拭き取り」「使い古しブラシ+シンナー」「古新聞紙で拭き掃除」という昭和式アナログ洗浄が根強く残っています。
一見するとコスト効率が良く、現場の機転や裁量で融通が利くのが理由です。
しかし人手や熟練工の高齢化、後進育成の難しさ、属人化からくる品質バラツキ——これらはまさに現代の大きな課題です。
またアナログな方法ではトレーサビリティや工程監査時の証跡残し(記録・写真)ができません。
顧客の要求水準が厳しい場合や多品種・小ロット生産では、むしろこれがボトルネックになってしまうのです。
これからの洗浄工程に求められるもの
自動化・標準化による洗浄品質の均一化
自動洗浄装置の導入、IoT連携による洗浄管理は、脱昭和・不良品撲滅のベースとなります。
工程ごとの管理項目や洗浄ログ記録(処理時間・温度・液濃度・ブラスト圧など)を可視化し、OEMや顧客監査にも余裕を持って対応できる体制作りが求められます。
人・環境・サプライチェーン全体を見た洗浄プロセスへ
環境規制、法令遵守だけでなく、SDGsや持続可能なサプライチェーンを意識した薬品・設備の選定も重要です。
酸洗い一つとっても、低環境負荷型のクリーンテクノロジーや廃液リサイクルシステムが今後の標準になっていくでしょう。
また、外注化・専門業者との協業によるリスクヘッジ、洗浄工程の「シェアリング」も選択肢となります。
バイヤー/サプライヤー目線での洗浄工程の評価ポイント
バイヤーを目指す方やサプライヤーとしてバイヤーの意図をくみ取るには、洗浄工程の「見せ方」「管理指標の明確化」がカギです。
例えば「溶接後の酸化スケール除去はどんな管理値で判断しているのか?(外観、化学分析、接着・塗装試験等)」
「洗浄設備の自動化度合い」「エビデンス取得可否(ロットごとの処理記録、工程内検査票)」などは、品質保証体制の目安になります。
逆にバイヤー側はコストだけでなく、サプライヤーの洗浄プロセス改善への投資意欲やSDGs対応、将来性も評価指標とすべきです。
まとめ:現場進化の最大ポイントは「知見」と「対話」
酸化スケールの除去は小さな“作業”ですが、製品全体の価値を大きく左右する要因となります。
機械的・化学的洗浄のベストミックスや自働化、工程見える化を推し進めることで、単なる不良流出防止だけでなく「現場作業のスマート化」「サプライチェーン全体の高付加価値化」の第一歩となるでしょう。
そのために大切なのは、マニュアルや装置の導入だけでなく、日々現場で培われるノウハウ・小さな改善、そして工程横断でのコミュニケーション=対話です。
昭和のやり方にも学ぶ点は多いですが、現場と技術・経営層・バイヤー・サプライヤーが共通目線を持ち、脱アナログを推し進めることが、これからの製造業に必須の取り組みになります。
工場の未来は、毎日の“洗浄”から生まれる。
ぜひこの記事が、次の一手を考えるヒントになれば幸いです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)