ティッシュペーパーが破れにくい繊維ブレンドと抄紙テンション制御

ティッシュペーパーの品質、なぜ破れる商品と破れにくい商品があるのか？

ティッシュペーパーは私たちの日常生活に欠かせないアイテムですが、一度使っただけで破れてしまうものと、何度も使えて破れにくいものがあります。
この“破れやすさ”や“破れにくさ”には、製造現場の経験則と技術革新が深く関わっています。
長年製造業の現場に立ってきた立場から、ティッシュペーパーの強度・品質の差が生まれる背景をひもとき、その技術と工夫、そして未来への展望について詳しく解説します。

ティッシュペーパーの強度を決定する「繊維ブレンド」の本質

原材料の選定が品質の8割を決めている

ティッシュペーパーの強度は、原材料であるパルプ繊維の種類とブレンドバランスによって大きく左右されます。
一般的なティッシュは、木材から抽出したパルプが主要成分ですが、木材の種類や加工法によって繊維の太さや長さが異なります。

広葉樹パルプは短く柔らかい繊維を、針葉樹パルプは長くしなやかな繊維を持ちます。
強度を出すには、どうしても「長さ」と「絡みやすさ」が不可欠です。
繊維同士が絡み合うネットワークをどれだけ多く、しっかりと作れるかが“破けにくさ”につながるのです。

また、製品によっては竹やサトウキビ、リサイクルパルプなど多様な原材料も使われています。
これらを最適に組み合わせることで、「肌触り・吸水性・強度・コスト」のバランスを1ミリ単位で設計しています。

添加剤とその目的

繊維だけでは実現できない機能を補うために、多くのメーカーは添加剤も利用します。
強度補強のためのウェットストレングス剤や、柔軟剤、接着力を高める糊系のものまでさまざまです。
しかし添加剤が多すぎると「肌への刺激」「環境負荷」が大きくなります。
結局、最も賢い方法は“配合比率を見極めた繊維ブレンド”による素の強度確保なのです。

現場で語り継がれる「ブレンドノウハウ」

昭和から続く製紙工場では、職人たちが“企業秘密”として伝えてきたブレンドレシピがあります。
例えば、肌触り重視の配合と、業務用の破れにくさ重視の配合は全く違います。
原材料の入荷ロットによるばらつきを見抜き、微調整するのが熟練工の腕の見せ所です。
最新の自動調合装置が導入されていても、最終的なOK・NG判定はまだ現場の“鼻”や“手”が頼りです。

「抄紙テンション制御」で破けない紙をつくる技術

抄紙工程の重要性

ティッシュペーパーは、パルプを水で溶かし、抄紙機でシート状に成形し、乾燥→巻き取りの工程を経て製品になります。
この時、紙を延ばしたり、引っ張ったりする「テンション（張力）」の管理が強度に直結します。

例えば、テンションが強すぎると繊維が伸びきってしまい、紙が“パリパリ”“ピンピン”になります。
一方、テンションが弱いと繊維同士がしっかり絡み合わず、“フワフワ”“フニャフニャ”になってしまい、簡単に破けてしまいます。

オートメーションと現場の経験値の融合

近年では、抄紙工程にIoT・AIを駆使したテンション自動制御システムが導入され始めています。
温度・湿度・張力・搬送速度のリアルタイムデータを監視し、“紙の顔”を見ながら最適化します。
しかし、製造現場には今も「温湿度の微妙な変化は人間の肌で感じる」という昭和譲りの技術も根強く残っています。

AI制御は品質の平均点を上げますが、ロットごと・日ごとの“波”を感じ取るのは熟練現場作業者の観察眼です。
この人と自動化の相互補完こそ、破れにくい高品質なティッシュを生み出す最大の強みです。

紙厚・シート数とテンションの関係

ティッシュペーパーには「紙厚（坪量）」や「シート数」の違いがありますが、“質量”が同じPP単価の場合でも、テンションバランスが悪いと強度が落ちます。
現場では抄紙前後で頻繁に「テストカット」をし、目視・触感による品質確認を欠かしません。

また、ロール状で巻き取る際の“巻き締め”管理も極めて重要です。
緩く巻きすぎれば輸送時にシワや寸法ずれ、強く巻きすぎれば芯から割れ・反りが発生します。
これら全ては、「適切なテンション制御」により製品設計意図を忠実に実現するための工夫です。

アナログとデジタルが融合する「現場主導の品質づくり」

昭和からの現場カイゼンとDXのせめぎ合い

ティッシュペーパー製造の現場には、今なお“勘と経験”の領域が残っています。
一方で、IoTによるセンシングやAIによる最適化が進み、現場力とデジタル技術の融合が求められています。

たとえば、現場カイゼン活動では「毎日の品分析・歩留り分析」が欠かせません。
これは属人化リスクと紙一重ですが、“人間の目でしか気づけないバラつき”を早期に発見するメリットがあります。

一方、経営視点からは「工程の標準化」「熟練の手技のデータ化」が急務です。
実際、多くの大手製品メーカーでは「現場の暗黙知データベース化」に動き出しており、紙や工程に関する定量データと職人の定性記録を突き合わせて“知恵の見える化”が始まっています。

なぜ「アナログな強さ」も手放してはいけないのか

テクノロジーが進歩しても、異常時やトラブル対応には現場の機転が不可欠です。
気温・湿度・繊維ロットの微差など、機械がそこまで閾値を超えていない時でも、現場の“変な音や匂い”から異常を察知する熟練の勘は、いまだ代替が困難です。

また、顧客クレーム対応やスペック外品への現場対応（例：自社オリジナル品→プライベートブランド品に横流しなど）は、職人のリアルタイム原価計算と判断力が品質保持に直結します。

バイヤー・サプライヤーのリアルな駆け引きと品質重視へのシフト

「破れにくさ」は価格交渉の武器になるのか

購買・調達の立場では、一般的に価格優先、スペック遵守での調達が求められます。
しかし近年は、「消費者目線の本物の品質」—すなわち“破れにくさ”“肌触り”“安定供給”が重要視されつつあります。

実際、OEMやプライベートブランド向けのティッシュでは、調達バイヤーは“スペック内での落としどころ”にとどまらず、安定的に強度をクリアできるサプライヤー選定が進んでいます。
なぜなら、多機能型トイレや自動供給装置など、利用現場の多様化により低強度・薄紙ではクレームや詰まり事故が多発するからです。

サプライヤーはどうアピールすれば選ばれるか

サプライヤー目線では、「破れにくさ」を実証する物性データ（引張強度、耐水性、繊維配合比率）を、実際の使用シーンに即した工程データとともに“見える化”することが肝心です。

また、繁忙期や災害時など特別な生産計画オプションを持った柔軟な対応力、SDGsへの積極姿勢（再生紙比率、公害対策など）が購買サイドの高評価につながります。

加えて、現場OBやリーダークラスが対顧客窓口に立つことで、顧客ニーズを迅速に現場にフィードバックできる体制作りが重要です。
サプライヤーこそ「現場の声」に密着した提案と改善ができる強みが活きます。

これからのティッシュペーパー製造現場と業界批評

ユーザー価値の再発見と新技術の導入

日本の“もったいない文化”や環境志向の高まりから、1枚1枚の強度や耐久性への顧客関心は今後さらに高まるでしょう。
現場では、従来手法に頼りきりだった「勘」と「経験」を、AIやIoTに置き換えつつも“人ならではの品質へのこだわり”を組み合わせて進化していく必要があります。

さらなる強度や柔らかさを追求するため、「新素材繊維（セルロースナノファイバーなど）」や省エネ新工法にも挑戦が始まっています。
これらの開発では、工場現場の知恵・暗黙知が不可欠であり、“現場の声に根ざしたイノベーション”にこそ日本の製造業の底力が眠っています。

まとめ：現場力とテクノロジーのベストミックスが破れにくいティッシュをつくる

ティッシュペーパーが破れにくい理由は、単なる材料や設備の違い以上に、“現場で培われた知恵”と“新しい技術”の融合によります。
今後も“現場主導”の改善力と、AI・IoTの最先端を最大限に活かした「リアルとバーチャルの最適解」を生み出すことが、日本のティッシュペーパーのグローバル競争力、ひいては製造業全体の発展につながるでしょう。