地域資源を再発見するためのフィールドワークと市場分析のやり方

はじめに〜地域資源の再発見が製造業の未来を変える

製造業はこれまで、グローバル化や大規模工場による集中生産、コストダウンの徹底など効率化を求めてきました。

しかし近年、地政学リスクの高まりや、環境配慮、サプライチェーンの多重化、そしてローカル経済との共創が重要視されています。

こうした時代変化の中、「地域資源」の再発見と有効活用は、企業の競争力を高める大きな武器となります。

この記事では、働く現場目線に立った「地域資源のフィールドワーク」と「市場分析」の具体的なやり方について、実践的なポイントを交えながら解説します。

これから調達・購買業務に携わる方や、現場とバイヤーの考え方を理解したいサプライヤーにとっても、参考になる内容になるはずです。

なぜ今、地域資源の活用が注目されるのか

経済安全保障とサプライチェーン多様化の波

従来の一極集中型調達は、コスト御優先の視点から最も合理的とされてきました。

しかし国際紛争やパンデミック、新興国リスクなどが噴出した昨今、「足元の資源」「身の回りに眠る強み」の活用が、リスク分散戦略として改めて脚光を浴びています。

ローカル資源の発掘は、競合他社には真似できないオリジナリティをもたらすこともできます。

アナログ産業にもチャンスが生まれている

日本の製造業、特に地方に根ざした企業の多くは情報化や自動化が遅れていると言われてきました。

一方、その「アナログ性」は極めて熟練された技術や、隠れた素材・製法などの宝庫でもあります。

昭和から続く昔ながらの産業資産も、視点を変えれば「現代の高付加価値」につながる可能性を持っています。

地域ブランド、サステナビリティへの対応も

持続可能な開発目標（SDGs）や地域創生、脱炭素社会へのシフトは加速度的に進行しています。

地域資源を活かすフィールドワークが、これらの社会潮流への対応、企業ブランドの向上にも寄与します。

地域資源を再発見する「フィールドワーク」手法

地域資源を本当に見つけ出すためには、現場へ足を運ぶ「フィールドワーク」が不可欠です。

デスクワークだけでは見つからない“宝の山”が、現場には必ず眠っています。

1. 既知情報の徹底洗い出し（デスク調査）

まずは役所・自治体の産業支援データ、地元新聞・商工会議所の発行物、既存サプライヤーの情報など、既知情報を整理しましょう。

意外に「10年前に廃業したと思われていた企業」が新事業を始めていたりと、細かな情報更新が必要です。

2. 現地観察・ヒアリング・行動観察

現場に立つことで初めて気づくことがあります。

例えば古い町工場では、表側からでは分からない高度な加工技術が実は継承されていたり、近隣の特産素材を扱う食品加工所が高度な衛生管理でサプライヤー基準をクリアしていたり。

「なぜこのやり方なのか」「何にこだわっているのか」「他社とどう違うか」を直接、経営者や現場作業者にヒアリングしてください。

作業工程や設備配置、製品保管、出荷手順など“現場のリアル”から発見できるヒントも非常に多いです。

3. 産業集積・業界コミュニティへの参加

地域ごとに存在する商工団体や業界NPO、研究会、技能五輪や展示会などへの顔出しも重要なフィールドワークの一環です。

「この素材なら〇〇町の△△さんがスゴい」「□□分野なら▲▲工場の職人が唯一無二」など、現場ネットワークからしか得られない情報は案外多いものです。

4. ユーザー（顧客）視点で実物に触れる

もし最終製品まで見られる場合は、現物に直接触れてみてください。

見た目の加工精度、手触り、型崩れのしにくさ、香り、色味、性能。

カタログや図面だけでは知り得ない「体験価値」にもヒントは隠されています。

5. イノベーションの種を探す発想転換

ラテラルシンキング（水平思考）で、“これまで用途がなかったもの”を異分野製品に応用できないか考えてみましょう。

例えば、瓦屋根の焼成技術が耐火建材に応用されたり、伝統和紙が電気絶縁材やファッション素材に活かされた例もあります。

異業種交流の視点で新しい価値を見出すことが肝心です。

市場分析の実践ステップ：市場ニーズと地域資源の接点を探る

フィールドワークによって発掘された資源を、いかに市場価値につなげていくか——。

購買担当やバイヤー視点では、ここからが“勝負どころ”となります。

1. 市場トレンドとのマッチング

新素材や地場技術が、今どのような市場ニーズ・課題解決に活かせるかを調査します。

環境対応や高齢社会、グローバル標準など、「これから伸びる分野」を中心に、ニッチニーズにも目を向けましょう。

すでに使われている事例だけでなく、潜在的な要求や隠れた課題に注目することがポイントです。

2. バリューチェーン上のポジショニング分析

その地域資源がバリューチェーンのどこを強くできるかを考えます。

原材料サプライヤーとしてなのか、独自部品の供給なのか、加工プロセスの特殊性なのか。

大手メーカーとの協業チャンスや、中小企業連携など連鎖的な価値創出も視野に入れます。

3. サプライヤー視点での自社評価と差別化

もしバイヤー側ではなく、サプライヤーとして自社資源を売り込みたい場合は、「他社にはない価値」を明確に示すことが大切です。

例えば「地元産森林材100%」「維持継承され続ける伝統技法」「すぐ対応できるフットワークの軽さ」などが訴求ポイントになります。

4. 価格競争からの脱却—価値創造戦略

地域資源ならではのストーリーや、持続可能な調達、地域雇用維持といった“価格以外の価値”で勝負することで、単なる安売り合戦から抜け出しましょう。

BtoBの場合も最終製品メーカーや消費者のニーズを見越した提案型営業が重要です。

5. 現場起点のPDCAサイクルの構築

仮説—実施—振り返り—修正、という「現場起点の仮説検証サイクル」を回すことも、市場で生き残るコツです。

小規模ロットでの試験導入や、商談後の課題フィードバック収集、サプライヤー同士の横の連携強化など、地道な改善活動が地域資源発の新ビジネスを育てます。

現場感覚を武器に、競争力ある「地域連携バリューチェーン」を創出する

地域資源活用の成功事例—実践現場の目線から

例えば、瀬戸内地方の中小メーカーが地元産レモンの皮から生まれる抗菌素材を、医療用手袋に応用して大ヒットしたケースがあります。

秋田県の木工職人団体が、伝統技術を国産高級オフィス家具としてリブランディングし、海外進出まで果たした実例も。

いずれも「現場での出会い」と「新たな用途提案」が化学反応を起こした成功です。

同じ業界・バイヤー同士だからこそ分かる“本音”を見抜く

購買・調達の立場では、「コスト」「納期」「品質」だけでなく、現場との信頼・協業感覚も大切です。

実際、バイヤーが取引先を選ぶとき、単にスペック表だけで選ぶのではなく、「なぜこの地域でその素材を扱うのか？」「現場にどんな職人がいて、どんな工夫を重ねているのか？」といった背景——いわゆる『説得力のあるストーリー』を重視する傾向が強まっています。

サプライヤーや提案側であれば、ぜひ現場にバイヤーを招き、自信を持って強み・こだわり・人材を見せてください。

デジタルとアナログの融合が現場のつながりを加速する

古くからある産業資産や技術は、積極的なデジタル発信（動画やAR、VRによる工場見学コンテンツなど）とも合わせて発信しましょう。

「昔ながら」だけでなく、「未来を先読みする目線」を備えた現場こそが、これからの産業界で強く生き残れるのです。

まとめ：地域資源のフィールドワークと市場分析が切り拓く新たな地平線

ローカルに眠る資源を現場目線で発掘し、市場ニーズと結び付ける——。

この地道なフィールドワークと市場分析が、グローバルリスクにも打ち勝つ新たな成長路線を切り拓きます。

調達・購買担当者、バイヤー、そしてサプライヤーも、現場の知恵とネットワークを活かして新しい価値を共創していきましょう。

“昭和のやり方”から一歩抜けだし、柔軟なラテラルシンキングと実践力で、“バリューチェーンの新機軸”を打ち出していきましょう。