投稿日:2025年10月27日

飲食店がオリジナル商品を出すときに守るべき「味の哲学」と品質倫理

はじめに:飲食店の「オリジナル商品」ブームと現場のリアル

現在、飲食業界ではオリジナル商品開発が一大トレンドになっています。
小規模なカフェから全国展開チェーンまで、自社の個性を打ち出すアイテムが次々と登場しています。
「ウチだけの味」「ここでしか買えないパッケージ」、これらはお客様の心を掴み、売上アップ・ブランド構築に直結する重要な武器です。

しかし、本当にそれだけがオリジナル商品の狙いなのでしょうか。
現場で20年以上もの間、調達購買・品質管理・商品開発と向き合ってきた立場から見れば、このブームの裏側には“昭和的な思い込み”が根強く残っている場面も多く目にします。
本記事では、「味の哲学」と「品質倫理」という視点を軸に、飲食業でオリジナル商品を開発・提供する時に絶対守るべきポイントを、現場に根差した考察とともに掘り下げます。

オリジナル商品が必要とされる時代背景とは

時代が変わった「商品」の役割

かつての飲食店では、美味しければ自然とお客様が集まる時代がありました。
ところがインターネット普及後は、「体験」が消費の主役へとシフトしています。
コロナ禍以降はテイクアウトやECが急速に拡大し、実店舗での消費体験だけでなく、商品そのものの価値・物語が重視されるようになりました。

その波に乗り遅れないための切り札が、「オリジナル商品」です。
競合店との差別化、リピーター創出、SNS拡散など多大なメリットがあります。
しかし同時に、商品の“生命線”ともいえる「味」や「品質」を継続的に担保できなければ、ブランド価値は一瞬で崩れ去ります。

「味の哲学」― 唯一無二の魅力を生み出す覚悟

レシピを守ることの本当の意味

「オリジナル=レシピが秘密」──こう捉えられがちですが、現場ではむしろ真逆です。
調理マニュアルや材料規格、加熱温度…全て“見える化”して、誰が作っても同じ品質・同じ味になる仕組みづくりを徹底する必要があります。
これは大手工場のノウハウですが、個店でも「日によって味が違う」「時期で食感が違う」は許されません。

なぜなら、“お客様が感じる価値”は「期待通りの味」に他なりません。
それを叶えるには、
・レシピの標準化(工程・重量・温度・時間の明文化)
・原材料のグレード差の管理
・現場スタッフの教育
これらを妥協なく運用することが何より重要です。

味の「中心思想」を定めよ

例えば「こくのある醤油ベース」「香り高いバター」「無添加・素材勝負」など、オリジナル商品の“味の哲学”を1つだけ決めてください。
商品開発に現場スタッフや外部サプライヤーも巻き込むと、さまざまな意見やアイデアが出てきます。
しかし軸がぶれると、結局は「どこにでもありそうな平均点の商品」になりがちです。

味の哲学が明確であれば、パッケージやマーケティングも一貫して進めやすくなります。
「なぜその味付けで、どんなお客様に届けたいのか」。
現場の想いを共有し、迷った時の“最終判断基準”になる哲学を必ず定めます。

感動を呼ぶ「ストーリー設計」

SNS時代のオリジナル商品で最も強い訴求力を持つのは、「作り手の情熱」や「ストーリー性」です。
素材の産地や作り手のこだわり、昔懐かしい思い出、副産物まで隠さず発信しましょう。
現場では「そんな話、誰が知りたいの?」と恥ずかしがりがちですが、むしろそうした泥臭い物語こそお客様の心を動かします。

「品質倫理」― サプライチェーン時代に問われる新ルール

品質≒お客様の信頼の総和

食品の品質とは「異物混入がない」「賞味期限内に安全」だけを指しません。
味が変わらない・見た目が崩れない・包装が安定する、さらには“お客様が安心して選べる”こと、その全てが品質の一部です。

SNSで不祥事や苦情は一瞬で拡散します。
“昭和の現場”では「たまたまだった」「うちは大丈夫」という空気がまだ強く、ずさんな調理や管理が温存されがちです。
しかし現代では、「一件でも事故があればブランドが消える」のがリアルです。

サプライヤーとのパートナーシップ強化

オリジナル商品は、飲食店だけで完結しません。
食品工場、包装資材メーカー、物流会社、各社の力が結集して初めて成立します。
ここで大切なのは「サプライヤーとの本音の対話」です。

・原料の産地・ロットのトレーサビリティ確保
・品質基準(規格外・回収時の対応など)の明文化
・バイヤー(発注側)の姿勢と思考法の理解
こういった点を曖昧にしていると、いずれトラブルで大きな損失を招くことになります。
サプライヤーは単なる仕入れ先ではなく、共に商品を育て上げる“同志”と捉える視点が不可欠です。

「未然防止」の文化を現場に根付かせる

食品事故の多くは、「いつも通り」が原因です。
忙しい時間に手順を端折った・在庫の回転を見誤った・確認を怠った…。
どんな小さな現場運用ミスも、最悪のケースでは命に関わる重大事故につながりかねません。

昭和の現場では失敗を「現場の責任」で片付けがちでしたが、現代のクレーム・事故防止は「仕組み」の整備が最重要です。
チェックリスト化やダブルチェック、ヒヤリ・ハット報告制度、現場改善の風土づくりを徹底しましょう。

AI・IoT時代の品質管理と現場感覚の融合

デジタル化で実現する「見える品質」

最近はタブレットやIoTセンサーを活用した温度・湿度の自動管理、工程進捗のリアルタイム可視化などが急速に進んでいます。
「昔ながらのやり方」にこだわるだけでは、競争の土俵にすら立てなくなりつつあります。
しかし、機械任せで安心せず、「人間の五感・勘」をデータと結びつけるラテラルな発想が、現場のパワーを底上げします。

現場スタッフにも「データを元に提案・改善できる力」を養わせましょう。
「温度異常を見つけたら何をするか」「納品原材料の微妙な変化に気づく工夫」など、現場の経験則+デジタルが連動するチームが、真に強い現場となります。

バイヤー志望者・サプライヤーへ伝えたい心構え

バイヤーは「目利き力」と「対話力」のプロとなれ

バイヤーを目指す方は、価格交渉や仕入先選定だけが仕事ではありません。
現場の妥協点・課題・工程負荷を正確に把握し、サプライヤーと共に「より良い商品」を育てる役目を担っています。
カタログ品に頼るだけでなく、自ら現場に足を運び、時には仕入先の設備や管理体制まで自分の目で確かめましょう。
トラブル時の迅速な対応力、現場をリスペクトする誠実な姿勢が信頼関係の礎となります。

サプライヤーは「先回りした提案力」で存在感を示せ

サプライヤー側も、ただ注文通り納品するだけでは選ばれません。
「こうしておけば不良率が減ります」「この資材なら工程短縮ができます」など、現場に寄り添った提案を積極的に発信しましょう。
バイヤーがどこを重視し、何に困っているか。
その先を“読める”サプライヤーだけが、長期のパートナーシップを勝ち取ります。

まとめ:味と品質、二つの「らしさ」を高め続けよう

オリジナル商品は、飲食店にとって“個性の塊”そのものです。
けれど単発のアイデア勝負では、市場の変化についていけません。
「味の哲学」と「品質倫理」という一見地味なテーマこそ、時代を超えて現場を強くし、お客様の信頼を育てる最大の武器となります。

現場目線の愚直な仕組みと、時代感覚を融合させて。
オリジナル商品で一歩先を目指す全ての飲食事業者・バイヤー志望者・サプライヤーに、本記事が新たな気づきやヒントとなれば幸いです。

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