投稿日:2025年10月29日

地元素材を使った製品づくりで求められる“誠実さ”と“責任ある品質保証”

はじめに:地元素材利用がもたらす新たな潮流

近年、サステナビリティやSDGsが時代のキーワードとなり、製造業界でも「地元素材」を活用した製品づくりが注目を集めています。

地域密着型のものづくりは、原材料の安定供給や地元経済の活性化だけでなく、環境負荷低減やブランド価値向上の観点からも大きな意義を持ちます。

しかし、地元素材を活用するには、従来の大量生産・低コスト重視の価値観から一歩踏み出し、“誠実さ”と“責任ある品質保証”への真摯な取り組みが不可欠となっています。

今回は、現場目線から、地元素材の活用における実務的課題と、求められる誠実・責任ある品質保証について、昭和的アナログ慣習の壁にも触れながら深掘りします。

地元素材活用の意義と、その複雑な裏側

地元調達は単なるコストダウン手法ではない

一昔前の購買部門では、原材料調達先の選定基準といえば「いかに安く・早く・安定して仕入れるか」がすべてでした。

しかし、近年では調達時の環境負荷や地域・社会貢献という観点が強く求められるようになっています。

「地元素材」を使うことは、単なるコストダウン戦略では成立しません。

なぜなら、地場の小規模サプライヤーから調達する場合、調達コストは一見すると高くなる場合も多いからです。

それでもなお、「顔の見える関係」で作られた素材を使う意義は、製品本来の価値を高め、顧客や社会からの信頼を勝ち取ることに繋がります。

“名ばかり地元素材”に警鐘 —— 誠実でなければ市場に淘汰される

とはいえ、現実の産業界では「実は地元産ではない素材」を“地元素材入り”とした偽装表示が散見されるのも事実です。

流通経路が複雑でトレーサビリティ(追跡性)が担保されていない場合、真の意味での地元還元や品質保証につながらないリスクが生じます。

そのため、表面的な“地元アピール”に終わらず、サプライヤーやバイヤーが自らの社会的責任を果たす「誠実さ」が求められます。

いかに消費者や顧客へ正直な情報を伝え、信頼を得るかが長期的なブランド力を左右します。

製造現場で直面する、地元素材活用のリアルな課題

安定調達の難しさとリスクマネジメント

地方の工場が地元農産物や鉱産資源を使おうと思ったとき、真っ先に壁となるのが「安定調達」の難しさです。

天候不順や自然災害により収穫量・品質が大きく左右されることも珍しくありません。

大手メーカーでは「予備原料」や「複数サプライヤー体制」でリスク分散を図りますが、地元の小規模サプライヤーでは対応が難しい場合も多く、需給調整や長期的な調達計画をさらに慎重に行う必要に迫られます。

また、納期遅延や品質ばらつき時の基準決め、フォロー体制の構築もキーポイントです。

昭和的アナログ運用とデジタル化のギャップ

長年の慣習による“口約束の取引”や、“手書き伝票”など昭和型アナログ運用も、地元素材サプライヤーに根強く残っています。

「地元同士だから信頼に基づく取引で良い」と思われがちですが、後工程のトレースや帳票作成、内部監査の観点からはデジタル化が欠かせません。

バイヤー(調達側)もサプライヤー(供給側)も、「見える化」「記録管理」に本気で取り組まなければ、本当の意味での品質保証は実現しません。

慣れ親しんだアナログ運用は、現場に安心感も与えますが、グローバル化・デジタル社会の中での競争力向上のためには一歩踏み出す覚悟が必要です。

コミュニケーションの壁:現場力の最大化へ

地元素材利用においては、バイヤーとサプライヤーのみならず、生産現場や品質管理部門、さらには地元自治体とも連携が不可欠です。

現場視点で言えば、サプライヤーが加工しやすい状態で素材を納入してくれるか、また生産現場が素材の特性を十分に理解しているか、品質部門との情報共有が適切かが問題となります。

誠実な関係性に基づく双方向のコミュニケーションが、現場力を最大限に活かすカギとなります。

誠実なものづくりを支える“責任ある品質保証”とは

「品質保証=検査」ではない時代へ

従来の製造業では、原材料を仕入れてからの「抜き取り検査」や「帳票管理」によるチェック体制が主流でした。

しかし、地元素材の場合、小ロット・多品種・一品一様の原料を扱うことが多く、旧態依然の品質保証体制では限界があります。

今求められているのは、「原料起点の一貫した品質保証」です。

原材料の調達段階から、そのLOT番号ごとにトレーサビリティを確保し、現場での扱い方ガイドの共有、異常発見時の即時報告など、柔軟かつスピーディな運用が不可欠となっています。

顔の見える品質保証が信頼を生む

地域に根ざしたものづくりでは、「どの農家が、どんな育て方で、その素材を提供しているのか」までを、製品ストーリーとして発信することで、顧客の安心に繋がります。

バイヤー・品質保証担当者がサプライヤー現場を定期的に訪問・監査するだけでなく、生産者との直接対話や現場体験の機会を増やしましょう。

誠実に素材と向き合う姿勢は、製品に込めた想いとして確実に伝わり、他社との差別化やブランド価値向上へ直結します。

「地元素材だからこそ許されるバラつき」との向き合い方

工業製品では安定的な品質が基本とされますが、地元素材の場合、自然由来のバラつき・季節変動が避けられないこともしばしばです。

その“個性”を「不良」や「減点」ではなく、「製品の特徴」「ストーリー」として活かす逆転の発想も重要です。

例えば、色むらや形状差を活かした限定商品づくりや、出所の分かるものだけを使ったプレミアムモデルの開発などが考えられます。

その際も、「なぜこの違いがあるのか」を顧客へ分かりやすく説明する誠実さと、“思いを伝える力”が必要です。

バイヤー・サプライヤー両面で実践すべきこと

バイヤーとしての心得:リードする責任と率先垂範

バイヤーは単なる交渉人ではありません。

仕入先の実力や熱意を見抜き、ときには経営支援も含めたパートナーシップを築く「現場力」「ヒューマンスキル」が求められます。

サプライヤーを尊重しつつ、時には品質や納期に厳しく、時には地元メリットを活かした新商品開発を共同提案するなど、調整力・影響力の発揮がキーポイントです。

また、地元素材ならではの流通・製造現場の実情を自身で体験する「現場尊重型」の姿勢が、信頼構築と誠実なものづくりの出発点となります。

サプライヤー側の視点:進化・挑戦への覚悟

地元のサプライヤーにありがちなのが「昔からこうしてきた」式の慣習主義です。

時代が変わり、顧客ニーズや品質管理要求も日々厳しくなっています。

伝統を守りつつ、時にはイノベーションに挑戦する柔軟さが生き残りのカギとなります。

例えば、伝票管理や品質記録のIT化、透明性あるコミュニケーション、定期的な自社工程見直しなどは欠かせません。

バイヤーとの密なコミュニケーションを通じて、「期待値の見える化」「品質課題の共有と改善」を実践し続けることで、信頼関係も着実に育まれていきます。

まとめ:地元素材だからこそ、誠実さと責任が未来を拓く

地元素材を使った製品づくりは、単なる流行や地域アピールに留まるものではありません。

社会や顧客の信頼を得るためには、「素材の出自」や「ものづくりのプロセス」をとことん“誠実”に、そして“責任を持って”伝え、保証する姿勢が不可欠です。

そのためには、アナログ的な安心感の良さと、デジタルによる透明性・効率性をバランスよく融合させ、現場・バイヤー・サプライヤーが共に進化し続ける組織文化を育てることが求められます。

「顔が見える」「思いが伝わる」製品づくりを実現することで、地元地域・産業界に新たな価値の地平線を拓きましょう。

その第一歩は、目の前の一つ一つの調達・生産・品質保証を、誠実さと責任を持って紡ぐことから始まるのです。

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