投稿日:2025年10月29日

地元素材を使った商品開発で必要な“原価感覚”と“市場価格”のバランス感覚

はじめに

地元素材を活用した商品開発が、今、製造業界や地方経済の活性化を牽引しています。
「地産地消」の流れ、SDGs(持続可能な開発目標)の推進、そして消費者の「本物志向」に後押しされ、全国で地元の素材や伝統技術を前面に打ち出したモノづくりの動きが加速しています。

しかし、実際に地元素材で商品を開発するとなると、「原価が高くなりやすい」「思うように利益が出ない」「価格競争で不利」といった課題に直面する企業が少なくありません。
ここで必要なのが、「原価感覚」と「市場価格」の両立です。
数字だけの理屈や、机上論ではない。
実際の現場を知る私が、現実的で実践的な視点から「あるべきバランス感覚」について解説します。

なぜ今、“地元素材”が注目されるのか?

市場価値の転換点にある製造業

昭和の時代、工場の生産性向上とスケールメリットが至上命題だった日本のモノづくり。
グローバルサプライチェーンへシフトする過程で「コストダウン」「効率化」「大量生産」が正義となり、標準化・均質化された素材と部品が流通しました。

しかし令和の今、消費者価値はシフト。
量より“質”、没個性より“独自性”、そして「持続可能性」「地域との共生」を重視した市場が拡大しています。
観光業、食品、日用品、家具、アパレルなどあらゆる領域が、「地元らしさ」「限定感」「顔の見えるストーリー」に引き寄せられています。

地元資源の活用で得られる“3つの価値”

1. 資源循環(環境配慮型・トレーサビリティの向上)
2. 地域経済への波及(産業・雇用の活性)
3. 商品価値の差異化(小ロット多品種、独自ブランドの構築)

こうした価値が、消費者(エンドユーザー)だけでなくBtoBのバイヤーや新規取引先企業からも高い評価を受けつつあります。

“原価感覚”はなぜ重要か?

アナログ現場×地元素材導入のリアルな苦労

多くの中小製造業、特に地方を拠点とする工場・企業では、いまだ「勘と経験」で材料を発注し、ざっくりした見積で製品設計が動いています。
紙の帳票・エクセル台帳が主流で、プロジェクトごとにコスト構造の可視化やPDCAが回されていない現場も多いのが実情です。

このアナログな業界体質に、価格が安定しにくい地元素材を導入すると、途端に「想定外のコスト爆弾」が生じやすくなります。
具体的には、以下のような課題です。

・量産メリットが出にくい(小ロット・不定期納入)
・原材料価格が天候や季節に左右されやすい
・技術的な標準化が難しい(ばらつき対策が必要)

こうした構造を理解せず、単純に「地域産で差別化!」という掛け声だけでスタートすると、採算割れを招きやすいのです。

原価感覚の本質は“許容力”と“調整力”

私が考える「原価感覚」とは、単にコストダウンを追及する力ではありません。
地元素材を使って製品を作るときに、どこまで原価上昇を許容し、それをどのように調整・経営判断できるか。
この「バッファ」「振れ幅」を正確に把握する力が最も重要です。

そのためには—
・原材料だけでなく加工、物流、保管、工程内の歩留まりまで可視化する “トータル原価視点”
・異常値やイレギュラー対応を織り込んだ “シミュレーション力”
・現場の声と数字データをすり合わせる “柔軟なマネジメント” が不可欠です。

“市場価格”の現実をどう読むか?

ユーザーが地元素材商品に払う「プレミアム」のリアル

「地元素材の価値」を語るとき、しばしば「ストーリーや希少性で価格が高くても売れる」と思いがちです。
確かに、一部のラグジュアリーブランドやクラフト商品には、原価の2倍3倍という“プレミアム価格”が成立しています。

しかし、ほとんどの消費者・法人バイヤーは、「魅力的であること」「他に代替が無いこと」「持続的に安定供給できること」を決め手として価格を見ています。

現場では—

・類似商品、中堅サプライヤーとの比較
・既存ルート(大手商社・卸)の価格レンジ
・リピート頻度やスケール感
・リスクに対する担保(納期遅延、規格外発生時の対応力)

など、厳しい目線が存在します。
地元素材だから高くても良い、という“理想論”だけで価格決定しないこと。
冷静な市場調査と、競合比較は欠かせません。

「売れる原価」「売れない原価」は何で決まるか

例えば、地元産天然木を使った家具を開発したケース。
原価を積み上げていくと、大手既製品の2〜3倍ものコストになることがざらにあります。
このとき、単純に原価×利益率=販売価格とするだけでは、大手・量販店には絶対に勝てません。

売れる原価とは、
・市場がその商品なら納得できる価格ボリュームゾーン
・競争相手と明確に異なる“付加価値”を説明できること
・一度きりの高値で終わらず、「リピート」につながるバランス感覚

ここが肝心です。
自分たちの算盤ではなく、マーケットの財布で原価と価格のバランスを測れていますか?
この問いかけを忘れずに立ち返ることが大切です。

原価感覚と市場価格をバランスさせる3つの実践策

1. 原価の「見える化」と「分類」を徹底する

アナログな現場こそ、まず全ての原価要素を棚卸しし、材料費、加工費、物流費、その他雑費まで細かく分解して、どこがバランス調整できるのかを可視化することが重要です。

手間や社内調整で一時的に工数が増えても、ここを曖昧にしていると「思ったより利益が出ない」「どこがデメリットか説明できない」状況に陥ってしまいます。

2. “高付加価値ストーリー”を緻密に設計する

市場価格が厳しい現場では、「原材料産地」や「伝統技法」だけでなく、

・なぜこの素材でしか実現できないのか
・どんな顧客課題を解決するのか
・次世代にどうつながるのか(SDGsや地域貢献への寄与)

こういった“明確な付加価値ストーリー”を設計し、営業・プロモーション・販売現場で一貫して伝える必要があります。
現場スタッフやサプライヤー一丸となって価値を磨き上げて、バイヤーや消費者の納得感を醸成することが成功への第一歩でしょう。

3. 取引先との“対話”で理解のギャップを縮める

地元素材に思い入れがあっても、商社や原材料のバイヤーには「安定調達」や「汎用性」が評価されがちです。

ですので、「なぜこの素材なのか」「リスク時にはどのような代替を用意できるか」「安定納入への工夫は何か」といった対話を日頃から続けることで、お互いの求める基準を最適化できます。

調達購買担当者には、「自分ごと」として現場の苦労や原価・供給リスクを説明し、共感を得て、小ロットや価格変動への柔軟な対応を交渉できる力も問われます。

バイヤー目線・サプライヤー目線からの活用ヒント

バイヤーを目指す人のための着眼点

バイヤーの本質は、「供給・品質・価格リスクを同時に抑制し、最大のパフォーマンスを出す」力です。
将来バイヤーを目指すなら

・現場の困りごと、サプライヤーの実情をしっかり聞く
・現地調達先を自分の目で見る(工場見学や産地訪問は効果的)
・“何を譲れないか”と“どこまで調整できるか”を常にシミュレーションする

この複眼的なバランス感覚が必ず役立ちます。

サプライヤーの立場でバイヤー心理を理解する

サプライヤーに求められるのは、「相手がコスト・納期・継続供給リスクをどう見ているか」「その上で、どの原価要素については交渉余地があるのか」を洞察する視点です。

例えば—

・値上げ交渉は、材料や加工コストがどの程度のインパクトか予め示す
・「代替素材の提案」や「規格緩和」の選択肢を用意する
・“納期遅延時のバックアップ案”で信頼を積み上げる

バイヤーとの共創姿勢が現場の信頼構築に繋がります。

まとめ:アナログ現場こそバランス感覚の磨きどころ

地元素材の商品開発において、原価感覚と市場価格のバランスは、AIやデジタル化が進んでもなお重要な「現場の勘と経験」と「数字による裏付け」の融合から生まれます。

昭和時代の価値観とデジタルの新潮流。
双方を見極めるラテラルな発想力と、「現場現物現実」を徹底的に知るリアリズム。
この2つを兼ね備えた“バイヤー”“サプライヤー”こそ、地元素材の可能性を最大化し、次代の製造業をリードする存在になるはずです。

現場の方は、ぜひ自分の原価感覚を磨き直し、市場価格という“現実”の波に強く柔軟に対応してみてください。
そして製造業の新しい地平線を、一緒に開拓していきましょう。

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