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Tシャツのプリント割れを防ぐインク配合と熱処理条件の基礎

目次
Tシャツのプリント割れを防ぐために知っておきたいインク配合と熱処理条件
Tシャツのプリント技術は、アパレル業界だけでなく、様々な製造分野において重要な位置を占めています。
なかでも「プリント割れ」は、依然として多くの現場で頭を悩ませる問題です。
特に、長年昭和から変わらぬ生産技術を維持してきた工場では、「なぜ割れが起きるのか」を根本的に理解しきれていないことも多いのが現状です。
この記事では、Tシャツのプリント割れのメカニズムと防止策について、インクの配合、熱処理条件、そして業界での最新動向や現場目線のリアルな注意点を交えつつ詳しく解説していきます。
製造業に携わる皆様やバイヤー志望の方、そしてサプライヤーの皆さんが、今日から実践できるノウハウを共有します。
プリント割れとは何か——製造現場での「割れ」問題の実態
プリント割れの本質を知る
プリント割れとは、Tシャツなどの布地にインクでプリントした後、洗濯や着用を繰り返すことでインクがひび割れたり、剥離したりする現象です。
見た目の品質低下につながるだけでなく、ブランド価値やリピーター獲得にも大きな悪影響を及ぼします。
現場で「このインクだと割れやすい」「特定の工程を変更したら割れてしまった」といった声がよく聞かれますが、その多くはプリント工程における化学的または物理的な不適合に起因しています。
割れの種類とその原因
プリント割れには、大きく分けて次の2つのタイプがあります。
– インク自体の「脆性破壊(ひび割れ)」
– 布地との「剥離(はがれ)」
どちらも、本質的にはインクの柔軟性や接着性、あるいは乾燥・加熱条件に問題があることがほとんどです。
インク配合のキホン——「柔軟性」「密着性」「耐久性」をどう担保するか
代表的なプリント用インクの種類
Tシャツプリントの主なインクには「プラスチゾルインク」と「水性インク」があります。
– プラスチゾルインク:PVC樹脂を主成分とし、熱硬化によってフィルム状の強靭な層を形成。柔軟性・密着性が高い一方、過熱や加熱不良で割れやすくなりがち。
– 水性インク:顔料と樹脂を水で分散。風合いが柔らかく通気性に優れるが、生地との一体化の度合いによって割れやすさが大きく変化。
現場目線で重要なのは、インク選定段階で「どのような着用シーン・洗濯頻度を想定するか」を明確にすることです。
柔軟性と弾性の確保方法
インクの割れ防止には、柔軟性・弾性を持たせることが不可欠です。
特にPVC系インクでは可塑剤(可とう性を高める添加剤)の含有量が鍵となります。
可塑剤は多すぎても少なすぎても、最適なフィルム形成を邪魔してしまいます。
一方で水性インクには、アクリルやウレタンなどの樹脂分散体が多用されています。
生乾きや過加熱によって、樹脂分子同士の架橋反応が不十分になり、これもまた割れの原因となりがちです。
さらに実務的な視点からいえば、単純な「配合比延長」ではなく、実際のストレッチ試験や摩耗試験で現場の要求特性に合わせたカスタマイズが要求されます。
密着力の向上による割れ対策
密着力が弱いと、洗濯や着用時にインクが布地から剥離してしまいます。
これは「表面改質(プレトリートメント)」や、インク中に接着促進剤(バインダー、クロスリンク剤)を適切に配合することで対策します。
特に水性インクの高級品では、ウレタン系バインダー+架橋剤を活用することで優れた密着力と耐洗濯性を両立しています。
熱処理工程の最適化が割れ防止のカギ
プリント後の熱処理——なぜ大事か
プリントインクは、単なる乾燥ではなく「加熱硬化」によって初めて十分な耐久性を発揮します。
プラスチゾルインクは通常、160〜180度で90〜120秒程度の熱を加えることで硬化します。
この時、熱量が不足すると内部まで硬化できず、表面は硬いが中身は生半可な構造になって割れやすくなります。
逆に、過加熱してしまうと熱分解や過剰架橋がおこり、脆いフィルムになってしまい割れを誘発します。
熱処理装置の点検・メンテナンスが品質を左右する
Tシャツ製造工場の多くでは、トンネル型乾燥機(ベルトコンベア式)やピザ窯型の乾燥機が使われます。
このとき重要なのは下記2点です。
1. 温度分布の均一性(ヒートスポットやコールドスポットがないか)
2. インク層の熱到達性(布地の厚みや色、プリント面積に応じた条件出し)
現場では「定格○度」にセットしていても実際には温度ムラや気流の影響で所定の焼き上がりにならないケースが多数あります。
周期的な点検・温調、加熱時間の見直しなど、工程管理の徹底が割れ防止の近道です。
温度と時間のおすすめ基準例
プラスチゾルインクの場合、一般的目安は下記の通りです。
– 乾燥温度:160~170℃
– 乾燥時間:90~120秒
水性インクの場合は、より長時間(150℃で3分程度)が必要な場合があります。
このとき、布地やプリント厚みによって微調整することが大切です。
現場でよくある落とし穴——「昭和」的“勘”からの脱却
「前もこれでやっていたから」「長年この条件で問題なかった」という“勘”や慣習に頼るのは、品質トラブルの元です。
製造業全体に言えることですが、時代遅れの手順や思い込みを排除し、科学的な検証と数値管理が不可欠です。
例えば、同じインク配合でもメーカー批次や気温・湿度によって特性が変化します。
また、エコ対応やコスト低減策として新しいインクが導入されたときには、現行工程のままでは対応できないことが多いです。
このような時代の変化に柔軟に対応できる、工程ごとのデータ取得とPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルの実践が重要です。
最新業界動向——エコ・高付加価値ニーズと割れ防止技術の変化
環境配慮型インクと割れ防止の両立
近年、環境規制や消費者意識の高まりから、ノンPVCや水性インクのニーズが拡大しています。
しかし、エコ対応インクは、従来のプラスチゾルよりも硬化条件が厳しかったり、高温高湿の夏場に思わぬ割れが生じる例もあります。
先端メーカーでは、植物由来樹脂や新規可塑剤、高分子バインダーなどを駆使し、エコと耐久性のバランスを取る研究が進んでいます。
高機能プリント(ストレッチ・吸水速乾等)と割れ防止技術の進化
スポーツアパレルや機能性下着では、ポリウレタンや伸縮性布地へのプリントも増えています。
この場合、インクの伸縮性や柔軟性が従来よりもはるかに重要になりました。
最新動向では、可塑剤を最適化したストレッチインクや弾性を付与する架橋樹脂、帯電防止剤入りの高機能インクが登場しています。
ただし、現場での工程条件設定が追いつかないと、割れや剥離はすぐに顕在化します。
新インク導入時は必ず付帯推奨条件を守り、十分な評価試験(屈曲、摩耗、洗濯など)を必ず行うことが肝要です。
サプライヤー・バイヤー・現場担当者それぞれの視点から割れ防止を考える
バイヤー視点では、“割れ”が出荷後すぐに「クレーム化」するリスクを意識しなければなりません。
特にOEMやPB商品では、ブランド価値の棄損要因になります。
サプライヤーの立場では「自社インクの推奨工程・適合性」を説明できる体制作りと、現場での共通言語を持つことが重要です。
現場担当者は、「温度設定→スピード→仕上がり」を自分の手で必ず確認し、異常を見逃さない力を養う必要があります。
また最近では、製造DX(デジタルトランスフォーメーション)導入によって工程データを蓄積し、品質異常の早期発見や最適条件の自動提案に取り組む先進工場も増えてきました。
まとめ——製造業発展の鍵は「科学的目線」と「現場力」の両立
Tシャツプリントの割れ防止は、単にインクや温度設定だけで解決できるものではありません。
最適なインク配合と熱処理条件という「科学的根拠」と、工程改善をやり抜く「現場力」の双方が必要です。
今後も時代の変化に応じ、現場から新しい発想や改善提案が生まれることが製造業の持続的成長のカギとなります。
担当者、バイヤー、サプライヤー、それぞれの立位置で積極的に学び合い、ラテラルシンキング(水平思考)で新たな価値を創出していきましょう。
Tシャツのプリント割れ対策は、「当たり前」を一つひとつ疑い直し、理論と実践の循環を回すところから一歩ずつ始まります。
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