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靴底のグリップ力を高めるパターン設計と摩擦試験の知識

目次
はじめに:グリップ力が現場を支える理由
工場や建設現場などの製造業において、作業者の安全・生産性の基盤となる「靴底のグリップ力」。
昭和の時代から「滑らない靴」が求められてきましたが、今なお現場の命題として色褪せることはありません。
グリップ力が不足すると、災害や作業トラブルがいつ起きてもおかしくない危険が伴います。
本記事では、靴底のグリップ力を高めるためのパターン設計のポイントと、現場レベルで役立つ摩擦試験の基礎知識について、現場経験から導き出した”本当に使える知見”をお伝えします。
バイヤーやサプライヤーはもちろん、製造業に従事するすべての方に役立つ内容です。
グリップ力とは何か:基礎から実践まで
グリップ力の正体
グリップ力とは、滑りや転倒を防ぐために靴底が床面をしっかり「つかむ」性能のことを指します。
物理的には「摩擦係数」(摩擦力/垂直抗力)で表され、摩擦係数が高いほど滑りにくくなります。
現場では雨や油、ホコリ、鉄粉、さまざまな素材の床(鉄板、コンクリート、樹脂タイルなど)という条件下で靴が使われるため、安定したグリップ力の確保は簡単ではありません。
また「滑りやすい床」と「靴底の摩耗」という二重の課題を念頭に置く必要があります。
なぜ”滑らない靴底”が難しいのか
例えば食堂や塗装現場、油や切削液の飛散する場所では、靴底が短期間でツルツルに摩耗します。
現場ごとに滑る“クセ”も大きく違い、「どの靴が最適か」は現場目線で試行錯誤する必要があります。
安易に「グリップ力の高い靴」とカタログスペックだけで選ぶのは、現場の安全意識向上にはつながりません。
現場の危険源を洗い出しながら、最適なパターンと素材を”合わせ技”で設計する必要があります。
靴底パターン設計:現場で効く3つの鉄則
1.接地面積と排水性のバランス
グリップ力を上げようと接地面積(床と接するゴム面)を広くすると、乾燥状態では摩擦が増えて滑りにくくなります。
しかし、雨や油の床では靴底に水分や液体が溜まり、「アクアプレーニング」現象で一気に滑りやすくなることも。
そこで、現場では液体がすばやく外に逃げる細かな溝(排水溝)を多数設けたパターンが有効です。
特に「V字型」「波型」「ダイヤ型」のパターンは、液体の排出速度と接地面積とのバランスが良く、多くの現場で採用されています。
2.縦横の溝パターンとトルクの受け方
単純な縦溝パターンは「直進」時のグリップには強いですが、「横ブレ」や回転動作には弱い特性があります。
作業現場では横移動や方向転換が頻繁に発生するため、パターンには縦横の組み合わせ、あるいは斜めカットが必須です。
また、溝の深さも重要で、5mm〜7mm程度の深溝であれば摩耗耐性も向上し、摩擦力の減少を遅らせる効果が高いです。
3.多用途化への設計と妥協点
業界現場では「全ての床に完璧に効く靴底」は存在しません。
工場によっては埃や屑、鉄粉がパターン内に詰まり、かえって滑りやすくなる場合もあります。
そのため「どれだけ現場に寄り添ったパターンか」、すなわち“現場フィードバック”を設計サイドに反映させることが、滑り止め靴の進化には必要不可欠です。
調達・バイヤー側も現場担当者の声に耳を傾けることで、真に安全な製品選定が可能になります。
靴底素材とグリップの最適化
ゴム素材の違いと現場フィット
靴底の素材は、主に「天然ゴム」「合成ゴム(NBRやSBRなど)」および「ポリウレタン」「EVA樹脂」などに分類できます。
摩擦係数が高く変形しやすい天然ゴムは、濡れたコンクリ床や鉄板の現場で信頼性があります。
一方で耐油性や耐薬品性、耐摩耗性が求められる現場ではNBRやウレタン素材の方がベターです。
現場目線で気をつけたいポイントは「素材による劣化」と「使用環境との相性」の2つです。
たとえば、ウレタンは軽量でグリップ力も高いですが、油分に弱く長期間の耐久には不向きです。
逆に、NBRなら油にも強いものの、極端な高温や低温環境では硬化・軟化する課題があります。
カタログのスペック値と、実際の現場条件のギャップを埋めるコミュニケーションこそ、調達領域の本質といえるでしょう。
摩擦試験の基礎知識:信頼できる測定方法とは
店舗用から製造業用まで:主な摩擦試験
摩擦試験と一口に言っても規格や手法によって精度や用途は大きく異なります。
製造業の現場向けには、主に以下の試験方法が用いられます。
- JIS L 1021(摩擦抵抗試験)
- B.C.R.A法(英国滑り抵抗試験)
- 斜面滑走法(一定角度からすべり出すかどうかを判定)
- ダイナミックフリクションテスター(動摩擦係数の測定)
「どの試験がベストか」は、その現場の床材、液体の有無、使用用途によって異なります。
個人的な体験として、錆びた鉄板+油汚れの現場ではJIS L 1021に独自の改良を加えて「滑りやすいポイント」を見つけ出し、現場特有の摩擦変化を”見える化”することに成功したことがあります。
試験データと実働データのズレを縮めるために
摩擦試験はあくまで「理論値」「比較値」に過ぎません。
実作業の中で「思いもよらぬ滑り方」が発生するのもまた事実です。
たとえば、靴底に付着した金属粉が摩擦係数を一時的に激減させる、自社独特の洗浄剤でゴムが膨潤してグリップ低下を招くなど、工場ごとで“クセ”が出ることも多々あります。
そのため、試験データと実作業のギャップを縮めるためには、「モニター現場での長期テスト」や、「現場のフィードバックを設計〜試験フローに組み込む」ことが求められます。
これはバイヤー・調達担当の真価が発揮される場面です。
現場を支えるバイヤー・サプライヤーの新たな視点
調達購買担当が押さえるべき現場の本音
昭和型のアナログプロセスが色濃く残る製造業では、「カタログだけで仕様選定」「安さ優先の一括大量発注」といった調達の論理がまだ強く残っています。
しかし、現場目線では一足の滑り止め靴が「ゼロ災現場」「誰もケガしない職場」づくりの根幹であり、その重要性は決して軽視できません。
調達担当者は、現場担当の「このエリアは滑る」「こういう動き方をする」というリアルな声を積極的にヒアリングし、製造現場に合わせた“仕様提案型調達”を進めることで、現場信頼を格段に高めることができます。
サプライヤーがバイヤーの考えを理解するために
サプライヤー側は、単純な「摩擦係数」「摩耗試験」データに加えて、「現場テスターによる実践的なレビュー」や「現場ヒヤリハット例」を踏まえた提案をセットで発信していくべきです。
特に、工場長や現場リーダーの声、現場動画、使用開始からのグリップ低下曲線など、「いま現場が実際に困っているポイント」を可視化して訴求することで、当たり障りのない製品だけでなく、顧客に真の安全と安心を届けることができます。
おわりに:現場こそイノベーションの源泉
靴底のパターン設計や摩擦試験の知識は、カタログや規格書の知見を超え、現場の“生きたノウハウ”として進化し続けています。
どんなに自動化やデジタル化が進んでも、現場で足元を支え続ける「滑らない靴」は、製造業の未来に欠かせない技術要素の一つです。
バイヤー、サプライヤー、現場作業者が三位一体で、「現場ファースト」の視点に立ち、多角的(ラテラルシンキング)に改善を進めていくことで、より高い安全性と生産効率、そして働く人の幸福に満ちたものづくりの現場が実現します。
今一度、自社の現場・職場で使われている「靴底」に目を向け、パターン設計や摩擦試験の知識活用を深めてみてはいかがでしょうか。
滑らない現場は、未来への第一歩です。
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