投稿日:2025年11月21日

工程ごとのCO₂排出量を算出するグリーンファクトリーAI

はじめに:グリーンファクトリーの本質とは

近年、カーボンニュートラルへの取り組みが世界的な潮流となっています。

製造業も例外ではなく、環境負荷の低減やCO₂排出量の見える化は、企業活動の必須要件になっています。

しかし現場を見渡してみると、長年にわたって培われてきた「昭和的」なアナログ文化や、紙ベースの情報管理が根強く残っているのが実情です。

工程ごとのCO₂排出量を正確に算出するには、現場ごとの複雑な工程、機械や人の動き、サプライチェーンの多様性まで網羅的に捉える必要があります。

そこで近年注目されているのがAIを活用したグリーンファクトリー化、その中でも「工程ごとのCO₂排出量算出AI」なのです。

この記事では、私が20年以上の現場経験で培った知見をベースに、AI活用の本質、現場に潜む工夫の余地、バイヤーとサプライヤー双方の目線からの課題解決策まで、実践的・現実的に深堀りしていきます。

なぜ今、工程ごとのCO₂排出量に注目すべきなのか

グリーン購買が新常識に

これまでの「安く、早く、良いものを調達する」志向に加え、「どれだけ環境に優しいか」が、購買・調達の大きな評価軸になっています。

特にサプライチェーン全体でのカーボンフットプリント開示が求められる現在、バイヤーはサプライヤーに対し、製造現場のCO₂データまで開示を要求することが一般的になっています。

サプライヤー側にとっては、自社の工程ごとのCO₂排出量を明確に説明できることが、大きな武器や差別化要素となるのです。

「全体」ではなく「工程別」が求められる理由

従来は、企業単位・工場単位でCO₂排出量をざっくり算出する方法が一般的でした。

しかし、それでは個々の工程、たとえば「精密加工」「表面処理」「組立」「検査」など工程ごとに異なる排出の実態を捉えきれません。

バイヤーが本当に知りたいのは、「この部品、このプロセスで、どれだけCO₂が排出されているのか」という細かなデータです。

これに応えるためには、現場のリアルな動きと連動した工程ごとのCO₂排出量算出が不可欠となっています。

昭和的アナログ現場が抱える壁と、AI導入の課題

複雑な現場作業の「見える化」ができていない

私自身、現場管理職として日々工程改善や原価低減に携わってきましたが、現場は常に「例外対応」「臨機応変」の連続です。

紙の作業指示書、ホワイトボードでの進捗管理、作業者の阿吽の呼吸。そのようなアナログ管理が長年の現場力を支えてきました。

しかしこのやり方では、CO₂排出量を工程ごとに正確にトレースするのはほぼ不可能です。

データ収集の難しさ

CO₂排出量の精緻な算出には、「設備ごとの稼働データ」「電力消費量」「ガス・燃料使用量」「投入原料のロット管理」など、膨大かつ多様なデータが必要です。

アナログ現場では、それらのデータをそもそも記録していないケースも少なくありません。

また、デジタル化が部分的に進んでいても、データが点在・散逸していることも多々あります。

AI活用への不安と現場抵抗感

AIには「ブラックボックス感」「難しそう」という心理的ハードルがあります。

現場の技能者・ベテランほど、「人間の勘や経験がなければ優れた工程管理はできない」という意識が根強いです。

そのため、AI導入の説明が「経営視点の号令」止まりになってしまい、現場での本気の活用・改善活動につながらないケースも見受けられます。

グリーンファクトリーAI:技術の仕組みと活用のポイント

IoTと連携した「データ自動取得」がカギ

CO₂排出量算出AIは、人手による入力ではなく、工場内の各設備にセンサーやIoTデバイスを設置し、リアルタイムでデータを収集する仕組みが基本となります。

具体的には、レーザー加工機への消費電力量センサー、ボイラーや炉への温度・燃料流量計、さらには各工程での原材料の流入出記録などです。

こうして集まった膨大なデータをAIが自動的に工程ごとに分類し、CO₂排出係数(例:1kWhの電力使用あたり●g-CO₂など)を掛け合わせて、極めて精度の高い算出が可能となるのです。

AIによる工程モデリングと「現場流ケイパビリティ」

AIは、膨大な過去データから「この工程のこの運転パターン」「この品質ロス発生時」など、あらゆる現場特性を学習します。

すると、設備の運転条件変更や作業手順の最適化がCO₂排出にどれほど影響するのか、その「感度分析」も簡単にできるようになります。

ここで大事なのは、AIの提案を単なる「机上の空論」で終わらせないこと。

現場スタッフが日々使う改善ルールやノウハウ(例えば「段取り替え時は予熱ロスが出やすいから注意」など)とAIの洞察を組み合わせ、「現場流のケイパビリティ」として定着させることが成功のカギです。

工程ごとのCO₂排出量をどう活用するか?~バイヤー・サプライヤー双方の視点から~

バイヤーの要望:「本質的なエコ」と「エビデンス提示」

大手完成品メーカーでは、Tier1・Tier2(一次・二次サプライヤー)に対して、工程ごとのCO₂排出量を定量的かつ透明に示すことが必須となりつつあります。

この際、一部の「帳尻合わせ」や「平均値の丸め込み」では納得されません。

バイヤーが重視するのは、数字の“正しさ”だけでなく、「CO₂削減のために現場でどんな改善が行われているのか」「どの工程を、どのような理由で見直したのか」といった改善プロセスの“本質”です。

サプライヤーの立場で:CO₂算出は「脅威」ではなく「チャンス」

サプライヤーからすれば、細かなCO₂排出量の提出依頼は「面倒な負担」に見えるかもしれません。

しかし逆に言えば、「CO₂排出量の低い工程」「改善努力の見える工程」こそが新たな受注の武器になります。

たとえば同業他社ができない「工程Aでのエネルギーロス削減事例」を提示すれば、それだけで価格交渉力が格段にアップします。

バイヤーとの信頼関係構築にも大きく貢献します。

両者の信頼を「現場が証明」する時代

これまで品質やコストが明確な判断軸でしたが、今後は「現場に根付いたCO₂改善」の実績こそが商談成立の重要ファクターとなっていきます。

言い換えれば、現場が生き生きと改善活動を行い、その成果をエビデンスとして開示できる企業が、サプライチェーン全体の信頼をリードする時代なのです。

現場に根付くために避けるべき「落とし穴」と、本質的な導入プロセス

システムだけ導入して満足、はNG

AIによるCO₂算出システムの導入は、きらびやかなパンフレットやデモ映像で「できそうな気分」になりがちです。

しかし、システムだけを現場に丸投げすると、「入力が面倒」「現場の実態と違う」「数字が合わない」など現場の反発にあって、形骸化してしまうことは避けられません。

「現場×AI」付き合い方のコツ

・現場のスタッフが、実際の工程をAIに説明し、どこまで自動化できるのか率直に相談する
・AIによる算出結果と、現場スタッフの感覚値(例:この工程はもっと電気を使っているはず!)を定期的にすり合わせる
・改善事例を、CO₂削減の「ビフォーアフター」として小さくても良いので社内外に発信していく

このように「現場のリアリティ」を大切にしながら、徐々にシステム活用の“地盤”を固めていくのが王道です。

ラテラルシンキングで考えるグリーンファクトリーAIの未来

CO₂排出量“見える化”の先にある可能性

エネルギーの「分散型利用」「余剰エネルギーの自社内シェア」「工程と工程の廃熱再利用」など、CO₂算出AIが現場のあらゆるファクトを統合解析することで、これまで見えなかった改善の種がどんどん発見されるはずです。

さらに熱源や将来の再生可能エネルギー導入計画との連携、AIによる「工程シミュレーション・仮想ライン設計」など、“改善の自動化”という新たなフェーズもすぐそこに来ています。

「CO₂を減らした分、創出できる新ビジネス」へ

製造業単体でのCO₂排出量削減は、今や「表面的な義務」ではなく、データ資産・改善ノウハウとして他社や異業種と共有し、新たな価値創出につなげられる時代です。

例えば、CO₂排出の少ないライン実績をもとにしたグリーン認証、排出量データのマーケットでの取引といった、新しいビジネスモデルも拡大しています。

まとめ:現場視点で「変化を楽しむ」マインドを

グリーンファクトリーやCO₂排出量AIは、製造現場に「またひとつ負担が…」という印象を与えがちです。

しかし実際には、デジタルと現場力が融合することで、工程ごとの改善価値や現場ならではの匠の技術が“見える化”され、新たな成長トリガーになるものです。

サプライヤー、バイヤー、現場管理者・技能者—誰もが「地に足のついた変革」を楽しみ、主体的に関わることで、これまでの昭和的な壁を超えた「グリーンファクトリー2.0」の実現が近づくでしょう。

CO₂排出“だけ”でなく、「現場で起きる変化すべて」をプラスに捉え、新たな価値へのラテラルシンキングで未来を切り拓いていきましょう。

You cannot copy content of this page