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海外企業が重視する“リスク開示”の文化に合わせた説明方法

目次
はじめに:製造業における“リスク開示”の重要性とは
製造業の購買・調達やサプライチェーンの現場では、近年「リスク開示」というキーワードが大きな注目を集めています。
特に海外企業と取引する際、彼らが求める“オープンなリスク情報の共有”は、昭和時代からの日本流“問題はなるべく伏せておく・何とか現場で凌ぐ”というアナログな文化とは大きく異なります。
本記事では、製造業の現場経験を持つ視点から、なぜ海外の企業は“リスク開示”を重視するのか。
それに日本のバイヤー・サプライヤーがどう応えるべきか。
そして、現場に根差した実践的な“説明・報告方法”について解説します。
そもそも“リスク開示”とは何か
リスク管理とリスク開示の違い
リスク管理とは、起こりそうなトラブルや不測の事態を想定し、その可能性を低減したり、ダメージを最小限にするための「対策」を講じることです。
一方、リスク開示は「どんなリスクが考えられるか」「どこまで想定しているか」「何が未解決で残っているのか」を、隠さずに関係者へ“情報として明らかにする”行為です。
日本の製造業では、“リスクはなるべく伏せる”“失敗や不安要素は隠す”—こうした風土が根強く残っています。
しかしグローバルのビジネス現場では、「リスク情報の透明な共有」が当たり前となりつつあります。
なぜ海外企業はリスク開示を重視するのか
1つには、「サプライチェーン全体の強靭化」が挙げられます。
昨今のコロナ禍や国際紛争、部材不足の問題など、単なる品質や納期の保証ではなく、“潜在的リスク”まで把握して対策を講じる必要が出てきているからです。
海外の大手メーカーでは
– いま発生しうるリスク
– サプライヤーがコントロールできていないポイント
– トラブルが起きた時、どんな影響が考えられるか
こうした情報を「正直に」「早めに」開示する風土が深く根付いています。
なぜなら、情報を隠したまま取引を進めると、最終局面で“想定外の不良”や“納期のズレ”が明らかになり、サプライチェーン全体が止まる損害につながるからです。
日本の製造業が直面している“昭和的価値観”とギャップ
“問題は現場で止める”という美学
日本のモノづくり現場では、人知れず問題を抑え込んだり、現場の工夫でトラブルを回避したりすることに美学を感じる文化があります。
ある意味で“現場力の高さ”が誇りであり、多少のトラブルは「上に報告せず、現場で解決する」のが当たり前でした。
しかし、グローバル企業との取引では、「問題を未然に共有し、みんなで対策する」ことこそが信頼の基礎となるため、日本の伝統的な価値観とのズレが大きな摩擦を生み出しています。
なぜバイヤーは“リスク開示”を求めるのか
海外のバイヤーは、サプライチェーン全体の健全性に責任を負っています。
万一、リスク情報が共有されていなかったことで納入遅延や不良品が発生すると、最終的に“顧客の信頼失墜”や“巨額の損害”につながります。
そのため「品質不安がないか」「製造工程に新たな点検が必要か」「部材調達で詰まりはないか」など、単なる結果だけでなく、“リスクにつながる途中経過”を漏れなく知っておきたいと考えているのです。
“リスク開示”の実践とは:現場で何を、どう説明するか?
現場でありがちな“言い訳文化”
「今のところ順調です」
「問題は起きていません」
「何かあればすぐ報告します」
こうした言葉に対し、海外企業のバイヤーは常に疑いを持ち、「何が隠されているのか?」と考える傾向があります。
良い情報だけを伝え、“リスクの芽”を隠すことは、たとえ悪意がなくても大きな信頼損失を招きます。
具体的なリスク開示のコツ
1. “事実”と“推測”を分ける
「現時点までにA工程で0.5%の不良が発生しています(事実)」
「設備改修で来月までに不良率はさらに低減できる見込みです(推測)」
2. “対応策”と“未対応リスク”を説明する
「B仕入先で納期遅延リスクがあり、追加の在庫確保中です(対応済)」
「ただし原料調達の見通しは現状50%であり、さらに天候影響のリスクが残っています(未対応)」
3. “最悪のケース”までもシミュレーションする
「C工程で不良が更に増加した場合は、全体納期が2週間遅れる可能性がゼロではありません。回避プランとして、サブサプライヤーへの発注準備を進めています」
こうした正直な“リスクの棚卸し”と、それに対する“能動的な対応姿勢”を同時に開示することで、海外バイヤーの信頼は高まります。
すべての情報を開示するのではなく、「どこまでが分かっていて、何がまだ未知か」をクリアにすることが最も重要です。
現場を前提にした“リスク説明”資料の作り方
Excelや紙ベースの社内資料から脱却しよう
日本の現場では、Excelや書面、個人メモ頼みのリスク棚卸しがまだまだ主流です。
一方で海外企業とのコミュニケーションでは、「誰もが一目で分かる」「バージョン管理が容易」「外部ともリアルタイムで共有できる」デジタルプラットフォーム活用が当たり前になっています。
GoogleスプレッドシートやSharePoint、専用のSRMツール(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の活用で、“情報の見える化”が一気に進みます。
また、「最新のアップデートを随時記録」「リスク判定の根拠を明示」など、読み手の視点から分かりやすく整理することも求められます。
実践的なリスク一覧フォーマットの例
1. リスク項目(どんなリスクか)
2. 発生確率(小・中・大/%表示も可)
3. 発生した場合の影響度(納期・品質・コストへの影響を数値化)
4. 現時点の対応状況(対応済・進行中・未対応)
5. 次回アップデート予定・期日
6. 備考(懸念点・推奨アクション)
こうした一覧表を定期的にアップデート、かつ“変更履歴を透明化”して海外バイヤーと共有することが、信頼構築と円滑な現場運営のカギとなります。
現場マネージャー・管理職が意識したいこと
“根拠のある報告”で信頼されるチームを作る
上司や顧客とのミーティングで、「これから問題ないと思います」「経験的に大丈夫です」といった根拠のない安心材料だけを並べていませんか。
現場のプロとして求められるのは、“客観データ”と“対応策の論理的な説明”です。
海外のバイヤーや本社役員からも信頼されるには、
– XXのデータから見て、△△%の確率で遅延リスクが存在
– 問題発生時はA/B/Cパターンで段階対応を想定
– 誰が、どのタイミングで、何を確認するか(RACI表の明示)
こうした“論理と事実に基づく説明”を徹底しましょう。
“悪い情報ほど、早く開示”の徹底
「トラブルが発生しそうだが、現場で様子を見る」
「致命的な問題に発展したら報告しよう」
こんな考えは、グローバル調達・購買の現場では即“信頼損失”となります。
悪い知らせほど、早く・正直に・具体的に伝える。
そして“だからこそ、全員で早期に対策が打てる”という意識改革が大切です。
サプライヤーの視点:バイヤーの“リスク開示”リクエストにどう応えるか
黙っていても分かってくれる—はもはや通用しない
グローバル大手との取引や、SDGs・ESGにも配慮したサプライヤーチェーンでは、「何も言わなくても関係性で察してくれる」という甘い期待は通用しません。
常に“データと事実”、そして“未対応の課題”を明確に開示することで初めて、次の取引につながります。
“想像以上のリスク開示”がプラス評価につながる
実は、想定内のリスクや一時的なトラブルを正直に開示した場合、
– 問題が起きても早期対策が取られ
– 能動的に改善策を提案する姿勢が評価され
– “主体性の高いサプライヤー”というブランドづくり
—こういった付加価値が付いて、他社との差別化にもなります。
まとめ:日本の現場力を“開かれたリスク管理”で次世代へ
日本の製造業は、卓越した現場力・技能伝承で世界トップクラスの品質を築いてきました。
しかしこれからの時代、クローズドな現場完結型ではなく、「全員で情報を共有し、オープンにリスクを管理する」姿勢がより一層重要になります。
世界の潮流を学び、デジタルツールによるリアルタイム開示や、論理的・客観的なリスク説明へと進化することこそ、“強いものづくり企業”への第一歩です。
本記事が、現場で働く方、バイヤーを目指す方、サプライヤーの皆様にとって、新たな成長のヒントとなれば幸いです。
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