投稿日:2025年11月30日

OEMアウターで発生しやすいステッチ波打ちの原因と対策

はじめに:OEMアウターとステッチ波打ち問題の実際

OEMアウターの生産現場では、「ステッチ波打ち」のトラブルがしばしば発生します。

バイヤーは納品された製品に波打ちを見つけると、品質面での指摘を行い、最悪の場合はリジェクトや大幅なコスト負担にもつながります。

一方、サプライヤー側からすれば、「設計通りに作ったはずなのに」と困惑が隠せません。

なぜ、OEMアウターではステッチ(縫製部分)の波打ちが発生しやすいのでしょうか。

20年以上の現場経験と、購買・生産管理・品質保証など多方面の視点を総動員し、昭和から残る「常識」や現代的な最新知見も交えつつ、多角的かつ実践的な原因分析と解決策を解説します。

OEMアウターにおけるステッチ波打ちの発生メカニズム

1. 素材の選定と特性の差異

OEMアウターでは、ブランドごと、製品ごとにスポットで生産するため、さまざまな生地や副資材が使われます。
特にストレッチ素材、薄手ナイロン、ウール混合布地などは、素材ごとに厚みや伸縮率、反発力が異なり、縫製時の物理的な負荷で波打ちが発生しやすくなります。

さらに、同じ「型紙」でも季節やロット間で生地ロットが変わることで、若干の物性差が出て波打ちに影響します。
特にOEMの場合、コストや納期を優先して、サプライヤー任せの生地調達を行うことも多く、指定した生地と実際現場で使われる生地が厳密に一致していないケースもあります。

2. 縫製設備・技術力・工賃圧力

現場のアナログさが色濃く残るアウターOEM業界では、工場の持つミシンのグレードや針・押え金(プレスフット)の状態、オペレーター個人の熟練度によって縫いパフォーマンスが大きく左右されます。

ローカルな中小工場では、最新設備を導入せず、昭和時代からの古いミシンを使い続けている例も珍しくありません。
そのため、設定の微調整が困難だったり、作業者ごとに仕上げの品質がバラつく要因につながります。

加えて近年はOEMビジネスのコスト競争が激化し、本来必要な作業時間やサンプルテスト工程が削減されやすい傾向にあります。
これが波打ち発生時の再調整や再縫製の機会ロスを生みやすい要因です。

3. 設計(パターン)・仕様書の伝達不足

OEM案件では、バイヤーの設計意図や仕様書が現場にきちんと伝わっていないケースが意外と多いです。
特にパターン(型紙)の段階で、必要な縫い代や干渉箇所、縫製方法(シーム幅、アイロンプレスの条件など)があいまいなまま量産工程に流れてしまうと、波打ちのリスクが急増します。

また、バイヤーが「このデザインは有名ブランドの真似をしたい」という意図があり、生産側に十分なフィードバックを伝えないままサンプル確認→量産に入る、というコミュニケーション不全も業界でよく見受けられる典型です。

現場目線で見る「波打ち」対策の最適解

1. 素材に最適化された設備設定と前処理の徹底

各素材ごとに縫製テンションや糸番手、針・押え圧力、送り歯の設定(送り速度・深さ)を細かく調整することが何より重要です。

特にストレッチや薄手素材は、事前にバイアス方向・平行方向で縫製テストを行い、テンション調整や押さえ金交換、あるいは当て布の利用(テフロンシートや紙送りなど)の工夫が必須です。

また、湿度や気温による伸縮や収縮への考慮も必要なので、裁断前の生地安定化(反物を広げて1日程度放置、必要に応じて低温アイロン等でテンション安定化)を社内標準手順にしておくことが効果的です。

OEM工場でありがちな「生地が届いたらすぐ裁断スタート」という短納期対応が、実は波打ちの根本的な元凶になっているケースも見逃せません。

2. 熟練オペレーターと標準作業手順書の整備

昭和の「職人の勘」から、再現性ある標準作業への転換が波打ち対策の鍵です。
各素材・各デザインごとに「この縫い方法なら波打ちが起きにくい」「端部はこうアイロンを当てる」といった現場ノウハウを作業手順書にまとめ、誰が作業しても同じ再現性が担保されるラインを作りましょう。

具体的には、ラインごとに「縫いサンプル」を常置し、起こりやすいミス事例を集約して可視化しておくのが現実的です。

さらに熟練者が新人をOJT指導し、定期的な技能テストを取り入れることで、「技術の属人化(ベテラン頼み)」から組織的な品質管理へと脱皮します。

3. バイヤー・設計者との緊密な事前コミュニケーション

OEMでは「言った/言わない」や「図面だけでは読み取れなかった」など伝達齟齬がステッチ波打ちにつながりやすいです。

量産前の段階で、「どこを最重要視するのか(外観重視/強度重視/コスト最優先など)」の優先順位を明確にして合意しましょう。

サンプル段階で必ず実際の生産設備で試作し、“良品”の基準を両者で確認してから量産移行することが重要です。

この時、「ちょっとなら波打ちしてもOK」という“許容範囲”を尺度として設定し、NG基準も明文化しておくと、納品後の「こんなはずじゃなかった」トラブル回避につながります。

業界あるある:「なぜ改善されない?」を超えて

製造現場には、意外と昭和時代の“現場感覚”に頼った体質が残っています。

「見て覚えろ」
「慣れれば何とかなる」
「納期がキツいから仕方がない」
——こういった空気が、ステッチ波打ち問題を繰り返す背景にあります。

一方で、近年はバイヤー側(たとえば大手アパレル)でも「技術仕様が現場に伝わりきらない」「現場に歩み寄る人材が足りない」という悩みが増えています。

この“ギャップ”を埋めるために、現場とバイヤーの「一緒に作る」という意識合わせがますます重要になっています。
また、IoTやデジタル化によって、型紙情報や縫製ガイドをリアルタイムで共有する動きも徐々に広がっています。

日本の工場が“世界の工場”だった昭和から、今のグローバル・多品種小ロット時代へ。
「今まで通り」ではなく、根本原因に立ち返る“ラテラルシンキング”の導入とともに、現場ならではの知恵とデータの融合こそ新時代の波打ち対策につながります。

まとめ:OEMアウターで波打ちを撲滅するために

OEMアウターでのステッチ波打ちは、生地選び、設計伝達、工場の設備・技能・作業標準、そしてバイヤーと現場のコミュニケーションなど多様な要素が絡み合って発生します。

重要なのは、単なる「現場任せ」でも「バイヤー任せ」でもない、両者の協働による本質的な改善です。

1. 材料・設備・作業工程すべてで“現場最適”を標準化し、再現性と透明性を担保する
2. 設計意図・品質基準の言語化と可視化で、認識ズレを無くす
3. 失敗事例と成功事例を共有し、不断のPDCAで現場合理化を進める

製造業の現場力とデジタル変革力が合わさったとき、アナログ文化の強いOEMアウター業界も、この品質課題に新たな解決をもたらせます。

自分たちの経験や知恵を現場全体で活かすこと——それが、昭和から続く“常識”を超えて、これからの製造業バイヤー・サプライヤー双方に求められる真の競争力となるのです。

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